本日は神戸元町で萬年筆研究会【WAGNER】が開催された。実は今年2回目なのだが、前回は参加しなかったので、【明けましておめでとうございます】の人がほとんどだった。
待ちに待った感じで万年筆をご持参になった方ばかりだったが、その中で、今更ながら面白い経験をした。
万年筆の不具合や要望を語るときに、具体的に指示される方と、抽象的表現を使われる方がいる。
前者の例;
(1)書き続けているとインクが途切れるのを直して欲しい
(2)線幅を2/3くらいに細くして欲しい
(3)ピストンが硬いのを直して欲しい
(4)左から右に線を引くときの引っかかりを取って欲しい
(5)ハネやハライが綺麗に出る字が書きたい
(6)多少捻ってもインクが出るイタリックのペン先にしてほしい
上記は全て具体的な要望と考えている。聞いた途端に不具合の状況や修理・調整の仮説が立てられる。
当然、仮説が間違っていることもあるが、根本原因が解明されれば、新たな仮説のネタとして残すことが出来る。
例えば、上記の(1)の例。
最初は空気穴が詰まっていて、空気とインクの交換が出来なくなってインクが出ないと判断したのだが・・・
【出なくなるとピストンを押してインクをペン先にためてから書けばしばらくは書けるが、また出なくなる】という話を聞いた時に仮説の誤りに気づいた。
ピストンを押してインクを出す場合、インクはペン芯のインク溝を通って送り出されるのではなく、空気溝を通って送り出される。
ということは、空気溝ではなく、インク溝が詰まっている可能の方が高い・・・と考え、ペン芯を外して確認してみてわかった。
ティッシュの繊維のような物が、ペン芯のインク溝の最後部に詰まっていた。これが染料系インクしか使ってないのにインクが詰まった原因。
このBlogでも口を酸っぱくして言っているが、ティッシュでペン先のインクを拭うのは絶対にだめ!
一番良いのはキムワイプだが、無ければキッチンペーパーを使うべき。
すぐに繊維がほぐれるティッシュはペン芯の溝に詰まるリスクが高い。万年筆談話室やWAGNERのたこ系ペンクリでは絶対に使わない。
本日は、改めてティッシュの恐ろしさを痛感したペンクリであった。
いわゆるペンクリニックでは、いまだにティッシュを使われている方も少なくない。
もし、そういうペンクリニックに出会ったら、帰宅後すぐに流水で良く洗った後で、ペン先を振って水と一緒にティッシュの繊維を落とした方が良い。
ペン先を分解してから処置する調整師にとっては痛いほどわかっている”常識”なのだがな・・・・
後者の例(抽象的な表現);
(1)書いていて気分が乗らない
(2)国産のBで書いていると良いかんじだけど、この外国製のMはあまり感じ良くないので直してほしい
実は、後者の要望の方が拙者にとってはありがたい。意欲が湧くのじゃ。
前者の具体的要望の場合は、解決策がわかれば、あとは作業になる。
後者の場合、解決策は同じ要望でも幅が広い。毎回解決策が異なっているかもしれない。
(あ)依頼者が書きやすいという要望を根掘り葉掘り聞き出して要望をかなえてあげるやり方もあるし・・・
(い)依頼者の想像を超えた(気づいていない)気分の良さを演出するやり方もある。
拙者は初対面の人であれば、極力(い)のやり方を試すようにしている。
数分間話し、何本か試筆している姿や筆記角度、筆記スピード、顔の表情を見れば、どういう書き味が好きかは想像が付く。
自分がそういう調整をされて感動した経験があるので、自分もそういう感動を依頼者に与えたいと考えている。
拙者にそういう感動を与えてくれた人は、過去にただ一人だけいた。そう【好きにしてええかのう?】の台詞で有名な故人じゃ。