この記事で初めてEN刻印の無い【淫らな書き味】の#600用18Cのペン先に出会った。
ちなみにEN刻印がある18金ペン先でも【淫らな書き味】のペン先と設計が違うものがある。本日のT&L 仙台イベントの際、拙者のペン栗に持ち込まれた。
そちらはバイカラーのニブで、ペン先先端部からの曲線がまったく異なっている。久しぶりに遭遇して懐かしかったな。
ちなみに、この記事の時代には39度近くの体温があっても救急車など呼んだりはしなかった!コロナの今なら大騒ぎするところだな。
左利きで押し書きの人のペン先がお辞儀しており、なおかつ柔らかいペン先の時には、完全なる成功(=筆記者の大満足)は、ほぼあきらめた方が良い。
同様に、ソフトなペン先のペンポイントを長刀研ぎにするのも本来の性能を引き出せないからやめた方が良いだろう。
長刀研ぎの妙味は刃物のようなペン先の硬さにある。弾力の無いペン先ほど向いているといってよいだろう。
近日中に登場するのでお楽しみに!
今回の依頼品は、【みだらな書き味】と称されるヘロヘロのペン先を持つPelikan #600 18C-M。キャップリングには、W.-GERMANYの刻印がある。
一本だけ萬年筆を残して、あとは全て没収・・・となった時、拙者が選択するのはPelikan #600 18C-BBじゃ。
大きさは現在のPelikan M400と同じで、M600よりは多少小さい。1988年版の輸入筆記具カタログによれば、#500が25,000円、#600が35,000円となっている。
胴体の違いはキャップリングの本数や、首軸先端部の金属くらいだが、後者はインクに侵されて劣化するので、むしろない方が良い。M800もおなじだがな。
また#500の黒軸においては、インク窓は緑色だったが、#600ではグレーとなっており、より軸色に近く、好感が持てる。
依頼人は、akiさん。左手筆記の細字好き・・・ということで、この【みだらな書き味】を持つ18C-MをEF程度に細字化して欲しいとのこと。
いやぁ、もったいないなぁ。ある事にこの時点で気付いていれば、絶対に細字化しなかったのだがなぁ。もうしてしまったのでしようがない・・・
ペン先表面の刻印がずいぶんと薄くなっている。これはおそらくは表面についた傷を消すために、目の細かい耐水ペーパーで擦ったからであろう。
その名残が太さ刻印【M】のあたりに残っている。
ペン先ユニットを外し、金磨き布を机のコーナーに置き、ペン先を擦りつけてゴシゴシと30回ほどやれば、細かい傷は消えてしまうはずじゃよ。
左画像だけからでは読み取れないが、ルーペで見ると、このペン先は、一度曲がったものを伸ばしたものとわかった。
それで先ほどの刻印が薄くなっていた理由も理解出来た。
曲がったペン先を伸ばしても、微妙なペン先の波打ちは残ってしまう。そういう場合は、1200番程度の耐水ペーパーで、表面を研磨して波打ちを削り取ってしまうのじゃ。
その際にPelikanのロゴの部分も削り取り、刻印が薄くなってしまったのだろう。理由がわかればスッキリとするなぁ。
こちらがソケットを外して取り出したペン先。この時点で気付くべきだった。韓国ペンショー参加前からひいていた風邪が、札幌大会で悪化し体温38.8度!
こういう時には頭がボーっとしているので、重要な事象を見落としてしまっていた。痛恨の極みじゃ。
この18C-Mの【みだらな書き味】を持つニブで、過去に拙者が目にした物には、(たぶん)全てEN刻印があったはず。ところがこれにはEN刻印が無いのじゃ!
ペン先の柔らかさも、ペン先の形状も、まさにEN刻印付き時代の#600なのだが、ペン先のMの右側(左画像ではMの下側)にEN刻印が無い!
いくら熱があるとはいえ、拙者も落ちぶれたものじゃ・・・悔しい。
そういえば、本日は61歳の誕生日だった。これを書いていて初めて気付いた。
昨年の60歳の誕生日はソウルで迎えた。
日曜日だったが酷い風邪を引き、ホテルがベッドメイクしてくれるまで、地下鉄に乗ってあちこち行ったのを思いだした。誕生日のころは風邪に気を付けよ!じゃな。
この#600のペン芯とソケットは#500と共通。もちろん現行のM400やM200とも共通なので互換性がある。
ちなみにこのソケットはPelikan 140、400、400N、400NNにも使える。
VintageのPelikan萬年筆では、ソケットが安い樹脂製のものが存在し(たぶん修理用部品)、それが割れてペン先がぐらぐらになっている個体がある。
そういう場合には、現行のソケットを代用して修理が可能じゃ。もちろん部品単体では売ってはくれないので、ジャンク品を入手し、ソケットだけ流用するのがよかろう。
こちらが細字化したペン先じゃ。ペン先の斜面もかなり削り込んだので、そのままでは上からペン芯が見えてしまう。
そこでペン芯も若干研磨し、ペン芯の位置も相対的に後ろにして組み上げた。
細字化の工具には、今回はポケッチャーを用いた。細字化には綺麗な斜面が必要なので、押しつけながら研磨するのがベスト。
位置が固定されブレが少ないポケッチャーは実に使いやすい。
ポケッチャーで大体の形を作ったら、あとは2500番や5000番の耐水ペーパー(独逸製)で、エッジを丸める。
そして再度、表面を金磨き布で優しく研磨し、擦り傷等を完全除去。
左手筆記の場合は、押し書きになり、ペンポイントの顎の部分が引っ掛かりやすいので、顎を研磨によって取り除く。
また細字化を徹底するのには、たこスペ超不細工にするのが早道なのだが、押し書きにはその技法は適用出来ない。
そこで若干円盤研ぎのような形状にしている。
実は押し書きには円盤研ぎが最適なのだが、筆記の際にピントがボケるので、拙者は余り好きではない。
そこでペンポイントの背中側も若干研磨してピントを補正しながらの円盤研ぎにしてみた。
ペン先が柔らかいので、細字とはいっても筆圧をかければ直ぐに太くなる。なんせ相手は【みだらな書き味】を持っているからな。
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間