2005年09月08日

万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】5

【万年筆で書き味が良い】と感じるものは例外なくインクフローが良い。インクフローが悪いと、もっとインクを出そうとして筆圧が高くなり、結果として紙を削るほど力を入れてしまう。これでは書き味が良いとは感じないだろう。

インクの出が悪くても小さな字が好みで筆圧をかけないで筆記する人を除いてはインクフローが良いように調整するとみなさん満足する。従って調整師の方々も例外なくインクフローが潤沢になるように調整している。これが日々の使用によってインクフローが悪くなることがある。こういう場合には原因を分析してから対応策を決める必要がある。

 

原因 Дぅ鵐自体に問題があるケース

インクをフローが悪いインクに交換した後は、どうしても筆圧をかけてしまい書き味が悪く感じる。ではインクフローが悪いと感じるインクはどんなものか?  これがビシーっと定義できればいいのだが、一筋縄ではいかない。拙者の場合、MontblancのボルドーはVintage物の太字に入れると極めてインクフローが良く感じるが、現代物の細字に入れると、Blueなどと比べるとインクフローが悪く感じる。 じゃ、赤系統がインクフローが悪いかといえば、ラブレターインクなどはものすごくインクフローが良い。どぎつい赤系統はインクフローが良いようだが、これらはインク窓を変色させる可能性も高いので要注意。エルバンのフィシュアレッドやロットリングの赤など、どぎつい色は変色力も強い。赤系統はコンバーター式の万年筆で使うのが良い。

色を変えてインクフローが悪いと感じたらそのインクの使用を停止した方が良い。インクと万年筆の相性というのは科学的に分析は出来ていないが、かなりあるので試行錯誤も必要。気持ちよくインクが出てくるインクを根気良く選ぼう。相性だから。

 

原因◆紙の削りカスが金ペンのスリットに詰まったケース

い筆圧で書いていると良く発生する。髭が生えたような字になってしまう。こういうケースでは10000番のラッピングフィルムでスリットをスリスリする。まずは、ペン先を紙のうえにあて筆圧をかけるとスリットが開く。そこのフィルムを突っ込んで紙から離し、スリスリと10回ほど往復運動。さらにフィルムをひっくり返して同じように10回ほど。これでカスは取れる。なをラッピングフィルムは2僉7冂度にカットしておくと便利。

 

原因:ペン芯とペン先の間に隙間があり、インクが切れてしまうケース

本来は修理に出した方が良いが、まずは試してみよう。ペン先を首軸まで90度くらいのお湯につけ、かき回すこと1分。ペン芯をペン先側に力いっぱい押し付けて冷たい水にさらす。出来れば流水にさらす。そしてペン先とペン芯の関係をルーペで見る。ペン先とペン芯の隙間がなくなっていれば次のステップ。まだ空いていればやり直し

隙間がなくなっていれば、ペン先を前から見て段差、開きすぎがないか確認。段差があれば上にあるほうを親指のツメで軽く押える。これを繰り返す。下げすぎたら逆に上にあげる。

左右がそろった段階でスリットが先端にいくほど狭まっていればOK開いていれば、90度のお湯に入れて5秒で水につけて確認。これを繰り返す。すなわち、暖められてもとの状態に戻る途中で水に入れて進行をストップする技。本来はエボナイト製ペン芯用だがプラスティックせいでもある程度は役に立つ。

 

原因ぁペン芯の溝にインクカスが詰まっているケース

Vintage物や長期間使わなかったものはこの状況が発生している可能性が多い。この場合はスリット掃除が必要だが、拙者の知っている範囲ではマーレンとViscontiで小さい方のニブがついているものはペン芯内部に入っている金の根元部分が少なすぎ、抜き差しを繰り返すとすぐに左右にペン先がずれるので止めておいた方が良い。またMontblancNo.146No.149の新しいモデルはペン先とペン芯を上下で挿んで引っ張ると、ペン芯のフィンが倒れてしまうので抜く際に注意が必要。アウロラ、Visconti、スティピュラ、デルタは上下に挿んでまっすぐに引っ張れば抜ける。セーラー、PilotもまっすぐでOKペリカンは回転してソケットごと抜いた後でノックアウトブロックでペン芯をから改造五寸釘でたたいて分解する。50年代Vintage Montblanc70度くらいのお湯に胴体の半分くらいを浸して、2分ほど攪拌してから、首軸をゴム板で挿んで左に回すと首軸が外れる。そこからノックアウトブロックでペン芯をたたき出す。首軸はすぐに胴体にねじ込んでおく。エボナイト製ペン芯の60年から80年代のNo.149No.146は同じようにお湯につけて攪拌し、ペン先とペン芯を上下にはさみ、軽く引っ張る。抜ければ良し、抜け無ければ少し強くひっぱる。ペン芯のフィンを折らないように最新の注意を払う。それでも抜け無ければ、ペン先だけを左右にずらしながら少しずつ引っ張って抜き、そのあとでペン芯を抜く。

90年台以降のNo.149No.146は本来前から抜く物ではないが、器具が無いと尻軸がはずれないのと、ペン芯を折っても代わりが手に入るので、思い切って次のようにする。同じように暖めて、ペン先とペン芯を上下ではなく左右で挿んで引っ張る。少々左右にひねるようにして引っ張る。だめであれば、ぺン先だけを左右に捻るようにして引っ張る。間違ってもペン芯を上下に挿まないように。抜けたらペン芯の間を、隙間ゲージの薄いものでスリスリ掃除する。終わったらペン先とペン芯を合わせて指ではさみ、前からルーペで見て左右のペン先とペン芯のバランスが同じになるような位置を決め、首軸に少し押込んでさらに確認し、Okであれば、ペン先の先端とペン芯の先端を押えて押込むよにする。ペン芯のフィンにあたらないように。ソケットがあるものや、位置が決まっているのは安心。難しいのはVintageものやOmasペリカンはどこでも良いように見えるが実はM800などは位置が決まっている。ソケットに切れ目が2箇所あり、そこにペン芯に飛び出した部分をうまく押込まねばならない。この位置関係でペン先の位置が軸の模様と逆になったりする逆になった場合は、再度抜いてソケットの反対側の切れ込みにペン芯の出っ張りを突っ込めば軸の模様とペン先の位置を変えられる。調整師によっては、ペン芯の出っ張りを事前に折って筆記者の癖に合わせて突っ込む位置を決めている人もいるので、ペン芯の出っ張りがないケースもあるので悪しからず。拙者は出っ張りを折らないように頼んでいる。

 

原因ァペン先のスリットがつまり過ぎているケース

この場合はスリットを広げる。やりかたは3通り。

その1:ペン先を上から見て人差し指をペン先の下、親指を上にして両手でペン先を外側開くようにして力を入れると、スリット間隔が開く。開いた後は、前から見て上下調整。この場合、スリットのところが凹むのでペン先が波打っているように見えることがある。これがいやな場合は以下。

その2:ペン先をはずして、スリットの中に隙間ゲージを入れ、ハート穴のところに力を入れるように左右に捻る。これを先端に力を入れるようにするとペン先先端が左右に開く。これを直すのは高度な技がいるので絶対に先端に力を入れないように。ま、これは一回は失敗するとわかる。

その3:ペン先をゴム板の上にひっくり返してので、上からツボ押し棒で(特に根元を)開くように押し付ける。OMASの18金ペン先など素材の柔いものにはこれが良い。アウロラなどには【その1】で十分。大体において18Kペン先で厚手のものは素材が柔い。Viscontiも柔い。

 

ひゃー、長くなってしまったが、いちばん簡単なインクフローでこれか!

 

本当はまだまだあるのじゃが、このあたりで。質問はコメント欄に!個別に答える。メーカー毎にどうやって分解したらよいかも問い合わせてくれれば、知っていれば答えよう。なんせ1000本以上分解しておるからの。

 

写真はミュージック用の万年筆。



2005-09-08 AM



Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(15) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote 万年筆 | 万年筆
この記事へのコメント
しまみゅーら しゃん

ロットリング洗浄液はネット購入が良いでしょう。画材店などにはありますが、通常の文具店にはなかなか無いものです。

研磨の旅ならWAGNERへおいでやす。
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月13日 17:33
5
 なるほど。ペン芯の汚れというのは心当たりがあるので(ほとんどがヤフオクでゲット品なので)、
ペン芯が外れるものは外して、洗浄してみたいと思います。ロットリング洗浄液って、
文房具屋では売ってますかね?

 思うに、ペン芯の材質とインクの相性というのもありそうですね。インク探しの旅(?)に出ねば。
あと、最高の筆記角度を会得するための、自分探しの旅(?)も…。

 ありがとうございました。
Posted by しまみゅーら at 2007年07月13日 12:33
縦書きであれば、2〜3行書くうちに筆記角度がかわってスリットが紙にあたらなくなるからという理由もある。

一般的にはインクフロー不足が原因。
ペン芯に油が付いていたりすると如実に現れる。

スリットを多少開くこと、ロットリング洗浄液にペン先とペン芯を浸けてよく洗浄すると大抵の場合直る。

直らなければ筆記角度の問題じゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月12日 23:22
 暇になるとこの「万年筆は刃物!」を読み返して勉強しております。

 私の手持ちの万年筆なのですが、「最初のうちはインクがちゃんと出るのに、
2〜3行書くと出なくなってしまう」という症状を抱えているものが多いです。
ペン芯が含んでいるインクを使い果たすと出なくなる、といった感じでして。

 そのような症状を抱えているのは、ペリカノJr.、パイロット・カスタム742(B)、
スティピュラ・ノベセント(M)、スティピュラ・ピノキオ(B)、などなど、
M以上の太めのものに多いです。あ、ペリスケのFもそうでした(こちらは
M250のペン先に交換したら解消しました)。どのペンも、筆圧をかけると
引っ掛かり気味なような感じはします。

 それぞれペンによって事情は違うかもしれないですが、このような症状は、
典型的にはどんな状態のペンに多いですか?もしよろしかったら、ご教示願えればと
思います。
Posted by しまみゅーら at 2007年07月12日 17:52
 残念無念!
Posted by monolith6 at 2006年01月31日 23:29
monolith6しゃん

拙者は後で加筆修整が容易な電子媒体こそが次世代に伝えられる手段じゃと考えておる。それと検索性。

拙者のblogは過去記事に対しても内容修正や、コメントでの補足など随時加筆中。このメリットは本では生かせない。
数学の定理と違ってまだまだ確立していない理論を、現段階で加筆できないメディアに残すのは気が引けるな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年01月31日 06:48
>実際には代表モデル毎に分解・調整講座をやらねばだめだと悟った。そのうち始めますぞ!

 これはブログのみならず、是非フエンテにも載せて下さい。いつかは消え去る電子データのままよりも、ハードコピーで後世に残る形で記録を残すということは、先日の栃木万年筆病院御訪問の際に文化を守る必要性を認識されたこととも関連し,非常に重要と考えます。もしも Pelikan_1931 さん御自身にお時間がないなら、私が代筆しても良い,それほどの覚悟です。

Posted by monolith6 at 2006年01月31日 06:16
記事ではペン芯とペン先を分離しないで話を進めたが、実際には分離した方が楽じゃ。ただ、それにはペン先とペン芯が差し込み指式か、ソケット式か、はたまたラッキーカーブのように後ろに抜くか・・・など数限りないバリエーションがあるので、あえて書かなかったが、実際には代表モデル毎に分解・調整講座をやらねばだめだと悟った。そのうち始めますぞ!
Posted by pelikan_1931 at 2006年01月30日 22:44
( ..)φカキカキ 実演が見せてもらえるんですか!
ワクワクしますねぇ〜。 よろしくお願いしまーす <(_ _)>
Posted by Dahlia at 2005年09月09日 00:50
Dahlia しゃん

名古屋で実演お見せします。それまで待ちんしゃい(広島弁?)
Posted by pelikan_1931 at 2005年09月08日 21:34
stand talker しゃん

まずは、選挙前日のOff会にて!
Posted by pelikan_1931 at 2005年09月08日 21:33
今回の記事大変に勉強になりました!
万年筆のトラブルの多くはフローだと痛感しておりましたもので。

今回の記事の
原因ァД撻鸚茲離好螢奪箸つまり過ぎているケース。
についてですが、その1の、ペン先を上から見て人差し指をペン先の下、親指を上にして両手でペン先を外側開くようにして力を入れる。 
小さいペン先に四本の指でどうやって開くのかなぁ・・・。
という具合にわかんなかった部分があるので是非教えていただけたらと。

あと、最後のところのつぼ押し棒の件ですが、これはペン先を引っこ抜いて、下のほうを押し付けるわけでしょうか???
興味はあっても左も右もわからないもので、是非ご教授ください。
よろしくお願いします <(_ _)>
Posted by Dahlia at 2005年09月08日 21:14
pelikan_1931 さん

>ペン芯の設計

 唯一かどうかはチト脇に置いておいて。。。。(^_^)
 ペン芯の設計が重要というのは、本当にそう思います。
 そこに「設計者の哲学や心意気」を感じるのが好き。(^_^)
 もちろん、私はいぢりません。恐れ多くて。


こんな話ができるのが本当に嬉しいです。
これまでは M's Dad さんと細々と。。(雨)

今後とも、お世話になります。(晴)
Posted by stand talker at 2005年09月08日 21:01
stand talker しゃん

日常的な包丁研ぎの範囲ですから。
本当は原因イ梁从は1200番の耐水ペーパーを両側5回ずつやれば、驚くほど改善するのですが、下手にやると先端ばかり削ってしまうのであえて書きませんでした。削るののも開くのもハート穴の周辺に力を入れることなんですがなぁ、、、
ペン芯の設計は万年筆の中で唯一のハイテク?部分なので部外者は手を出さないほうが無難でしょうな。
Posted by pelikan_1931 at 2005年09月08日 19:28
pelikan_1931 さん

ひっじょーに危険なカホリぷんぷんですねー。(^_^) 危険だわぁ。
でも思い当たるフシ多々あり。勉強になります。

ペン芯のインク路・空気路を修正してゆく技はどうですか?
フローの制御と聞くと、ペン芯の設計・構造が重要と思うのですが。

さらに危険かな。。。。
Posted by stand talker at 2005年09月08日 08:21