2005年12月04日

劣化する書き味 / 進化する書き味5

 昨日万年筆愛好家の一部が東京銀座で宴会を開催した。その中に万年筆歴の浅い、20代前半の若者がいた。K君としよう。そのK君と15歳から万年筆にはまり続けているT氏とのやり取りを見ていて感じたことがある。

 書き味に対する感受性は、万年筆経験に無関係である。T氏は万年筆に対する感覚の鋭敏さや表現力では右に出るものの無いツワモノじゃが、T氏が日ごろ拙者に述べる【個々の万年筆の書き味に対する感想】とほぼ同じ事をK君が感じていたことが明白であった。もちろん歴が浅いうえ、T氏とは初対面なので適切に感動を表現出来るわけではない。しかし書き味抜群の万年筆で書き始めたとたんの首の小さな動き、万年筆の持ち直し方、書くスピード、目の動きなどからK君の感動の度合いが良くわかる。また貴重な万年筆を受け取る時には自然と手が重要文化財でも受け取るかのような動きになる・・・感動!

 もしこれらの動きをK君が演技でやっていたとしたら、世界有数の演技の達人じゃな。そしてK君の感動が大きかったと思われる万年筆は、ほとんどが微調整を繰り返した代物じゃった。ここが今回のポイント、拙者の気付き/仮説じゃ。


2005-11-04 AM Sailor エグゼラッカー

 万年筆と持ち主と調整師との関係は、患者と親と医者の関係と同じかもしれない。親は医師よりも患者を愛しているが、患者に取っては親よりも医師を必要としている。そして医師は親よりも患者の病状に興味がある。そして医師は患者を元の状態にもどすのではなく、さらに健康な生活を営めるように指導する。

 話を万年筆にもどせば、調整師の意見を聞いて正しい使い方でしばらく使うと、使い手は進歩する。書き味に贅沢になる。

 拙者は学生時代、西武新宿線沿線に下宿していたが、そこの近くのソバ屋の冷しタヌキソバが一番うまいと思い、特別にたのんで1年中作ってもらっていた。卒業してそこを離れて10年ほどたったころ、どうしても満足のいく冷しタヌキソバに出会えなくて、その店に行って食べてみたところ、当時と味付けは同じじゃが、ちっともおいしく感じなかった。口が肥えてしまったのじゃ。高価な仏蘭西料理やステーキ食いまくりの生活でも満たされない味覚が10年前の冷しタヌキソバの味付けで満たせるわけもなかった。

 同じように万年筆の使い手の感覚もK君のように感動するが、感動の強弱をうまく言葉で表現出来ない状態もあれば、T氏のように詩的な表現で希望の書き味を表現出来る人もいる。【紙にペン先を当てた瞬間の感じが藤原紀香の胸に人差し指をチョイと押し付けたときのような感覚がイイナ】・・・拙者は藤原紀香の胸の感触は知らないがT氏の希望の書き味は90%理解出来る。

 こうやって改良を重ねていった万年筆は、当初の状態よりも進化している。一方で買ったまま書き続けて手で慣らした万年筆はその人にとっては満足のいく書き味かもしれないが、感動する書き味にはならない。もしそれが調整師によって完璧に調整してあったとすれば、使うほどに書き味は劣化する

 完璧に鍛え上げられた肉体も、その後の運動が不足すれば脂肪だらけになる。万年筆も調整し続けなければ、書き手の書き味に対する贅沢さの増加についていけない。そしてどうして欲しいかを的確に伝えられる表現力を持つ書き手こそが、進化し続ける万年筆には絶対必要。

 書き味に対する感受性がT氏に勝るとも劣らないK君が、今後万年筆界に及ぼす影響は大きいかもしれない。

  皆さんも書き味に感動するには、自分の万年筆だけに満足していてはいけない。常に人の万年筆も試させてもらおう。

                    ただし筆圧は低くね!



Posted by pelikan_1931 at 09:55│Comments(22) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 | 情報提供
この記事へのコメント
そうそう、あの時代はタルガの微調整などはよくお願いしたものじゃ。
カイホさんというすばらしく対応の良い人がいての。お会いしたことはないが、いつも電話でお願いしてたが、的確に答えてくれた。すばらしい対応じゃったよ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年01月08日 23:30
昔はセーラーがシェーファーの国内代理店をやっており、修理もセーラーでやっていたと聞いて、俄然シェーファーに興味が沸いてきました。
Posted by kure-1911 at 2006年01月08日 14:34
おお、そういえばあったあった。青、緑、赤、グレー、オレンジ・・
ラッカー軸の定番かどうかは知らぬが、Sheafferにあたのは事実。たしかにタルガじゃった。良く気付いたのぅ。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月18日 19:08
pelikan_1931様

これに似た模様をシェーファーのタルガで見たように思います。ラッカーモデルの定番の模様でしょうか。
Posted by kure-1911 at 2005年12月18日 12:10
まったく同じじゃよ。
ただ純銀軸は曇るのと、傷が付きやすいのでラッカー(工業漆)軸をだしたのじゃろうが、日本では同じ値段では売れん。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月10日 18:41
pelikan-1930様

私が万年筆に物心付いた時には、既に廃盤になっていたエグゼラッカー。ぜひ純銀軸と書き比べて見たいものです。
見た感じは短いころの純銀軸と似てますね。
Posted by kure-1911 at 2005年12月10日 10:48
次回からは大部屋でやりませう。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月06日 20:10
5
 後ろの席・・気になってました。楽しそう。
そういうやりとりを覗けるような・・囲めるような広い場所
次回の集いでは可能だったら嬉しいな。
後半に集ってきた皆さんとは、全くお話出来なかったのが残念でしたもの。
Posted by kiyomi at 2005年12月06日 10:23
pelikan_1931 様

ありがとうございます!
blogとても勉強になります。
楽しいです!
これからもよろしくお願いします。
Posted by k at 2005年12月05日 00:22
kしゃん

期待しておるぞ! お主の書き味に対する感受性は飛びぬけておるでな。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月05日 00:18
はじめまして!kです。(笑)
昨日は皆様、本当にありがとうございました。
皆様、優しくて驚き、感動しています。
心暖まる時間を過ごさせて頂きました。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします!


Posted by k at 2005年12月05日 00:13
kugel_149しゃん

K君は将来性ありですな、、いろんな意味で。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月05日 00:09
冷しタヌキソバの話は、
開高健さんによれば、「知恵の哀しみ」というのだそうです。

K君との別れ際のやりとりは、うれしくもあり、また脅威にも感じられた。
「いい万年筆との出会いがありますように」
「ありがとうございます。さがしてみます。私にとっての理想の1本を」
「いつか手に入れるぞ、と思い続ければ、思いは絶対かなうから」
「(一瞬、間をおいて)はい。ほしい1本を手に入れることができるよう今お願いしました」
「へぇ。何を手に入れたいって願掛けしたの?」
「ペリカン400マザーオブパールです!」
Posted by kugel_149 at 2005年12月05日 00:03
通信教育! 良い考えですな。

実は現在のBlogも通信教育の一環なのですが。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月04日 21:09
こ、、、ここにも世代交代の波がッ・・・
教育プログラム受けたいです できれば通信でw
Posted by まとりっくす at 2005年12月04日 21:04
aurora_88しゃん

これからも新人のヘッドハンティングよろしくお願いします。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月04日 19:31
めだかしゃん

理想はどんどん高くなっていきます。ある意味不幸かも。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月04日 19:29
298しゃん

現在、万年筆業界の研究会構想・勉強会構想の企画中です。楽しむだけでは人間退化しますので、多少は苦しみましょう。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月04日 19:27
いつかご自分から参加するようになったと思われますが、とりあえずお誘いをして良かったと思います。
後ろから見ていてもなにやら二人でやっているのが見られました。すでに悪魔の道に入りつつある彼だけど、これからどうなるかはK君しだい。

年寄りの皆さんは、ちゃんと利用されましょうね。
Posted by aurora_88 at 2005年12月04日 14:09
>正しい使い方でしばらく使うと、使い手は進歩する。
本当に素晴らしいペンに出会うと、筆圧がガクンと落ち、使い手のペンに対する感性が一挙ににステップアップするものだと川口氏から伺ったことがあります。氏が以前ペンクリで行っていた筆圧測定で、私も川口氏が差し出した80周年で筆圧がホントに落ちました。不思議体験でした。同じ体験を、はじめて参加した交流会で師匠のペンクリで体験したのを覚えています。お陰様で、私も相当書き味に贅沢になりました。
今日の師匠の文章は、大変深い考察を読み手に与えてくれます。理想の一本とは…?
Posted by めだか at 2005年12月04日 12:10
嗚呼! そのような面白いことが展開されていたとは・・ K君たのしみな存在ですねぇ。 日々ルーティンワークの仕事、飯、風呂、寝る では 感動することが年々減ってくる、というより要求水準が高くなるのか感受性が低くなっていくかするような気がしますね。 味覚についても幼いうちから正しく鍛えると音感とおなじように鋭くなるそうですから、万年筆の味覚についても『正しく万年筆感性を鍛える』と巨匠となる素質が芽生えるはず。 さて、万年筆界にその教育プログラムが有りや無しや。 えでぃさんの作られたマイスターへのレベル表のようなものがこの分野でもあれば・・・ えでぃ さーん!!
Posted by 298 at 2005年12月04日 11:02
写真の万年筆は、拙者が購入以来微調整を続けているもの。
セーラー プロフィット エグゼ ラッカー で ペン先は長刀Bを自分で長刀Mに研ぎ出した。金属軸でまったく傷がつかないのが良い。
ペン先は3代目、首軸は5代目じゃが、軸には一切傷が無い。
こういう優秀な作品がまったく評価されなくて廃盤になっていくのは悲しい。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月04日 10:15