2006年07月22日

今週の調整報告 その4 【Montblanc No.74改 Kugel 】

2007-07-22 01 今回の調整依頼はMontblanc No.74のクーゲルニブ付き。KMくらいの太さじゃ。ただしスリットはガチガチにつまっているので、このままではインクがほとんど出ない。書いていてちっとも気持ちよくない状態・・・・それにしてもNo.74の姿は美しい。拙者は黒軸に金キャップというのが非常に好きなのでしばしうっとり・・・

2007-07-22 02 こちらがクーゲルニブを横から見た画像。イリジウムがペン先の金の部分から下にほとんど出ておらず、反対に金より上に醜く盛り上がっている。けっこうもてはやされているニブじゃが拙者はこの横から見た時の形状が好きではない。ツッパリのリーゼントのよう・・・せめてオールバックくらいであって欲しい。

 この画像からはわからないが、イリジウムを取り付けてある根本からハート穴側に金を薄く抉り取ってある。キシャゲでひと擦りしたように抉られかたじゃ。これがクーゲルが柔らかいと勘違いされる理由かもしれない。クーゲルでなくても60年代のMontblancのニブはいかようにでも調整可能ですぞ。

 このイリジウムの形状だと依頼人の筆記角度と違うので、かなり斜めに削り取ることになる。最初は耐水ペーパーの280番、次に1200番、次に2000番、次に5000番で形を整え、金磨き布での8の字旋回100回を角度を変えて12回繰り返す。その後で仕上げじゃ。60年代 Montblancはラッピングフィルムで仕上げをしてもインクがスキップしないのでありがたい。

2007-07-22 03 ところで、このNo.74はハイブリッド。キャップには左のようにNo.84との刻印がある。No.84は全体が金貼りでNo.74の上位モデルじゃが、キャップに限れば設計も素材もまったく同じ。キャップの番号が違うだけ。刻印さえ入れなければ部品の共通化が図れたのにな・・・

2007-07-22 04 分解するまで気付かなかったがニブもNo.74のニブではなくNo.24用のニブ。No.74のニブは18金でNo.24のニブは14金。ただし万年筆の素材としては14金の方が優れているので、わざわざNo.74のボディにNo.24のニブを取り付ける人もいるが、これがまさにそれ!

2007-07-22 05 クーゲルの調整は慣れているし、依頼人の書き癖も好みも熟知しているので調整自体は簡単じゃった。苦労したのはペン先のスリットを開く事。あまりに強くペン先が寄っており指に渾身の力を込めてもビクともしない。隙間ゲージを差し込んで広げようとしても素材の戻りが強いので、ほとんど効果が無い。このあたりが14金ペン先の逞しいところ。18金ペン先なら素材が変形しやすいので、少々力を入れれば【ほにゃらか】と曲がってくれるのじゃがな。

 そこでお出ましになるのは1200番の耐水ペーパー。これでスリットの内側を擦って隙間を作る。さらにペン芯をそらせて、ペン先をセットした時に隙間が出来るようにする。そういう苦労の結果、写真のようにかすかなスリットを作ることが出来た。このスリットがあればインクはドロドロと出て、ヌラヌラとした書き味を堪能出来る。

2007-07-22 06  左は調整後の画像じゃ。上から2番目の画像と比べて違いがわかるかな?紙に接する部分を大胆に削ってある。表で書けば太字程度の筆跡、ひっくり返して書けば中字程度の筆跡となる。いずれもインクが盛り上がるほどのインクフローが実現出来た。

 クーゲルには独特の書き味がある。偏平足の足で【油をなみなみと塗った大理石の床】の上を滑っている感じ。ところどころで大理石の切れ目にあたり、ツルー・・・ゴツ・・・ツルー・・・ゴツ・・・ツルー・・・ゴツ・・・と反応がある。それを嬉々として楽しむのがクーゲルニブのお作法。ヌルヌルにしただけではクーゲルの魅力の半分も楽しめていないように思う。多少の当たりを残しておかないと書き味に飽きてしまう。調整後の試し書きの段階ではヌラヌラの方が相手を感動させられるが飽きるのも早い(Parker 51がその代表)。多少の筆記感があるほうが飽きない。今回は裏書きしてもクーゲルの書き味を楽しめるように調整してみた。

今回も 大成功 じゃと思う。

これまでの調整記事

2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(15) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
丸刈太しゃん

オーバーフィードがあるようなもになのでインクフローは抜群じゃ。
ただ・・・なんていうか・・・飽きるんじゃよ・・・書き味に・・・

中学校の先生がやんちゃで出来が悪い生徒ほど覚えているようなもので、優等生は長い間使ってあげられない・・・

出来の悪い物ほど気になって使いたくなるのじゃ
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月26日 03:49
こんばんは。ポンコツNo.22のペン先分解が難なくできました。感心したのはプラスチックのソケットです。
40年を経過しながら透明さと弾力を保っています。いい材料を使っていたのかなあ・・・などと想像します。
あれこれいじって、2桁番の美徳はインクフローだということが理解できました。これはもう溢れんばかり。
Posted by 丸刈太 at 2006年07月26日 00:06
ペン先とペン芯はソケットで固定されている。これを首軸から外すには、ゴム板でペン先を首軸に前から押し込むようにすれば、ポコっとソケットが外れる。
次に、ペン先とペン芯を同時に指またはゴム板で挟んでおいて、半透明のソケットを反対側に引き抜くのじゃ。お試しあれ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月25日 05:53
 こういった二桁番のニブとペン芯は、首軸を胴軸から外して後、両者をゴム板で挟んだりしてグイと首軸方向に押し込めば外れるのですか?ニブの真ん中辺りに垂直に立っている部品があって、これが前に動かそうとも後ろに動かそうとも倒れてしまいそうでとても怖くて分解できません。
Posted by monolith6 at 2006年07月24日 23:23
むむむ、この間入手した74M付きは尻軸が簡単にばらせたような記憶が・・・
ついこの間の事なのに詳細の記憶は脳みそのクラスターが飛んで真っ白。orz
ピストンの組み直しをしたのは確かなのですが。再現性に欠ける記憶です・・・
Posted by ぴよぴよ at 2006年07月23日 19:07
らすとるむ様;

承知いたしました。いずれお世話になるかと存じます。ありがとうございました。
Posted by 丸刈太 at 2006年07月23日 09:42
丸刈太さん。

はじめまして。2桁番の専用工具は定例会やペンクリの際に携行しています。
必要のある方は気軽にお声を掛けてください。
これは、WAGNERの会員でもあるN先生から寄贈されたものです。
Posted by らすとるむ at 2006年07月23日 07:57
こまねずみしゃん

なるほど。細かいところに眼をむけるのじゃな。勉強になり申した。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月22日 23:17
丸刈太しゃん

2桁番の分解には専用工具が必要じゃ。それはいま、らすとるむしゃんのところに出張中じゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月22日 23:14
金リングの入った尻軸は14と74のものですからね。
kugel_149さんの言われるとおりで、なかなか複雑です。

私はインクビューも、黄色のものよりはブルーのもののほうが、見やすいと思っています。
Posted by こまねずみ at 2006年07月22日 22:38
こんばんは。最近No.22のポンコツな黒軸と赤軸を入手し、調整したりして遊んで
います。青のインク窓が好きです。タイムリーな記事でまたまた参考になります。
ところで、2桁番モンブランのピストン部はどうやって分解するのでしょうか?
胴軸にお尻のユニットが圧入されているだけのように見えますが、抜けてきません。
なんだか剛性が頼りなくて壊れそうで・・。ご教示いただけますと、幸いです。
Posted by 丸刈太 at 2006年07月22日 21:47
kugel_149しゃん

複雑なハイブリッドじゃな!
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月22日 19:56
師匠
 今回のKMつき2桁は、
  キャップ:84
  ニブとインクビュー:24
  そのほかのパーツ:14
 ということになるかと思います。
Posted by kugel_149 at 2006年07月22日 19:28
こまねずみしゃん

そうか、No.74は黄色のインクビューであったか!
ということは、No.24にNo.84のキャップを被せたわけじゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月22日 15:51
 最初の画像を見たときに、インクビューの色がブルーだったのでひょっとして首は24かなと思いましたが、やっぱり24のペン先がついていたんですね。
 驚いたのは84のキャップ。本体部分は何処に・・・?
 こうやって色々と組み替えて使えるのも、2桁のいいところですね。
Posted by こまねずみ at 2006年07月22日 13:34