インクが流れる理由を説明した【第十三章】
この章は万年筆の理屈を知る上では非常に大切な部分じゃ。拙者も半分しか理解してなかった。現代万年筆発明の父【ルイス・エドソン・ウォーターマン】もおそらくは半分しか知らなかったと思われる。非常に勉強になった章で、10回以上読み直した。
本日も飛行機の中で何度も読み直した。100%理解というか、納得しているわけではない。しかし、渡部氏から証拠を突きつけられると認めざるを得まい。
まずは前置きが面白い。そこで感心した。【雪が振るから寒いのではない。雪が降らなかったら寒暖計はもっともっと降下する】。熱伝導率の極めて低い水で出来た雪だからこそ、それほど寒くならないというのは理屈では正しそうじゃ。ただ空気が暖かくなってもなかなか溶けないせいで、いつまでも寒い・・・
これで100%引き込まれてしまった。これ以降の記述を無批判で受け入れざるを得まい。やはり渡部氏は科学者じゃ。もっとも、理論的にも技術的にも渡部氏以上の人はパイロットに存在していたとか。渡部氏はパイロット科学(あえて化学とは書かない)陣の象徴のような人らしい。
【ペンの切割線に働く毛細管現象】
【運筆微動によるインクの表面張力がもたらすポンプ機能】
この2つが、インクが出る理由らしい。拙者は後者に関しては、紙に吸い取られたインクがスリットの中からインクを吸い出すのだと考えていた。拙者の考えを是とすれば、ガラスの上にペン先を置いて筆圧をかけたり押さえたりしてもインクがガラスの上で盛り上がる事はない。なぜならガラスはインクを吸い取らないから。
ところが渡部氏の実験のとおりやってみると、ガラスの上に盛り上がったインクがどんどん大きくなる。ということは、インクが出る原因は紙の引きではない。拙者の説は間違っていた。
正しくは、インクの表面張力が、ポンプ機能を働かせてインクを送り出しているのじゃ。
そもそも毛細管現象だけでインクが出るとするならば、筆圧をかかてスリットが開いた瞬間インクは出なくなる。特に仰向けに寝転がってノートに万年筆で字を書く時には、毛細管が働かなくなった瞬間、字が書けなくなるはず。
試しに実験してみたが、極太でペン先スリットをかなり拡げている万年筆でも、若干インクフローは悪くなるものの筆記は可能じゃ。一端インクが切れてもまたインクが紙に付くのは毛細管現象で、紙にインクを供給し続けるのは表面張力。従って紙からイリジウムを離すと一瞬インクが切れる。
これは書き出しは毛細管現象で先端まで上ったインクが紙に付き、筆圧をかけて先端が拡がった以降は表面張力でインクが押し出されているのじゃ。先端のスリットがハート穴近辺のスリット幅以上に開けば毛細管現象によるインク供給はなくなるからな。
表面張力によってインクがイリジウム先端に押し出される状況を図無しで的確に表現することは困難じゃがやってみよう。
表面張力は表面積を最小化する作用がある。筆圧をかけるとインクは薄い膜のようになる。筆圧を弛めるとインクは表面積を最小化しようとしてイリジウム先端のスリットの狭い方に向かって球になろうとして進む。その作用がスリット全体で発生する為、インクは前に進んでいく。これが表面張力にるポンプ機能。
従って毛細管現象を誘発するにしろ、表面張力によるポンプ機能を誘発するにしろ、イリジウム先端はハート穴近辺よりは幅が狭くなっていなければならないのじゃ。
調整師がスリットを拡げるのは、インクフローを良くする為ではなく、字幅を太くする為の作業。従って縦線は細く、横線は太くという長刀研ぎでスリットを極端に拡げる必然性は無いのじゃ! にもかかわらず拙者はそうしてた・・・
一つ賢くなったな。でもインクの出を左右するのは重力もある。毛細管現象と表面張力だけでは、仰向けで書こうと、普通で書こうとインクフローは同じはず。しかしあきらかに仰向けの方がインクフローは悪いからな。
解説【萬年筆と科學】 その12
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