万年筆評価の部屋:解説【萬年筆と科學】　その２２

並木常務に送りつけられた手紙への反論を掲載した・・・【第二十ニ章】

　今回の章では、並木常務宛にある万年筆店主が、分解して送りつけてきた２本の万年筆に関し、原稿用紙６０枚以上にわたって反論？した内容を転載している。

　その店主はパイロットの熱烈なファンのようで、他社の万年筆といっしょに分解し、この部分は他社製の法が優れているので、真似したらどうか？とか、パイロットのこの部分には、こういう欠点があるので直してはどうか？というアドバイスをしている。

　それに対する渡部氏の返事は、慇懃そのものではあるが、ほとんど全ての指摘事項に対して、丁寧に反論している。その反論の仕方は２種類で、

　①パイロット製が悪いといわれるが、他社製はもっと悪いので、ご安心を！
　②他社製のここが良いとおっしゃるが、パイロット製の方が優れている！

のどちらかで反論している。この手紙をもらった店主はどのように感じただろうか？拙者なら二度と送るもんか！と怒ってしまうような気がする。

　渡部氏は技術の責任者。その渡部氏ではなく、上司の並木常務宛に直接送りつけられた【技術に関するアドバイス】・・・・おそらくは並木常務から【どうなっているのか？】という言葉と共に受け取った手紙じゃろう。おめおめと【おっしゃるとおり！】と全面屈服するわけにはいかない！

　徹底的にアドバイス内容を分析し、科学的評価をした上で、自信を持って反論している。反論内容を見ると、渡部氏の理屈は完璧で付け入る余地は無い。それでももう少し相手の意見を尊重する書き方は無いのか？

　また、その６０枚以上にもおよぶ反論をパイロットタイムズに掲載してまで勝ち誇る事は無いのに・・・と拙者なら考えてしまうなぁ・・・と最初は考えていた。

【金ペンの切割りが左に曲がっている】
　これに対しては、比較の為に送られた外国製は、むしろ右に大きく曲がっている。パイロットの品筆管理は優れているので、一度パイロットの工場を見てはいかがか！

【イリジウムの付け方が悪い】
　パイロットが他社製に比べて悪いとは心外至極！顕微鏡で見れば即座に了解いただけるので、店が近いなら工場に来てくれ！

【イリジウムの品質がが悪い】
　他社製は柔らかく書けるのに、パイロット製は硬い！品質が悪いのではないか！という指摘じゃ。これに対しては、品質が良いから硬い！と反論している。もっともここでは過去の苦労話をして、硬いイリジウムを捨てなかった理由を紹介している。当初は硬いイリジウムを選んだものの、ザラツキを取る技術がなかったので、硬いはガリガリとしたザラツキがいつまでも取れないわでクレームの嵐だったらしい。大正１３年にスムーサーという機械を導入してやっとザラツキを克服出来たとか。ウォーターマンのイリジウムは海外製品の中では図抜けて良いイリジウムを使っているが、パイロットと比較すると、はるかに劣るとまで結論付けている。渡部氏の観点は固いイリジウムほど良い！という耐久性の観点に終始している。渡部氏にかかれば最近のPeikanの柔らかくて書き味の良いイリジウムなんてコテンパンでしょうな・・・

【軸の切り口加工が汚い】
　これに関しては、ラッカナイト液によって侵された為であるが、現在では完全に加工方法が改善されて問題なくなっているのでご安心を！とやや謙虚。

【首ネジに油を塗ってごまかしてある】
　インク漏れに対応するために、首軸ネジに油を塗ってある件については、確かに油に依存しすぎていたと神妙に反省。しかし昨年12月15日以降は、ネジ加工の制度を上げて油を全廃しているのでご安心を！　アドバイスした店主は、油で手が汚れるとかの苦情をたくさん受けていたようじゃな。おそらくは各店から同じような苦情が既に渡部氏の下に入っていたので、改良していたのじゃろう。そういう苦情は販売店から回収する仕組みがあるのに、よりによって並木常務に直接送ることはないでしょう・・・という気持ちがなんとなく入っているような反論で、かなりほほえましい。

　この後も【指摘】→【反論】→【指摘】→【反論】と続くのだが、だんだんと渡部氏の気持ちが落ち着いてきているのが読み取れる。イリジウムに苦情を言われたあたりでは熱くなっていたが、加工精度などの分野では【そういう皆様からの指摘によって改良を加えています。そういう指摘が非常にありがたいのでよろしくお願いします。でも並木常務に直接送るのは止めてね・・・】というニュアンスが読み取れる。

　イリドスミンの加工技術は並木家の大発明なので、並木氏も読んでいる反論の手紙の中で【おっしゃるとおり】とは渡部氏の立場では言えないので、反論が熱くなった・・・熱くなったように書いた・・・のかもしれない。後者だとすれば渡部氏もサラリーマンだったのかもな。

　いすれにせよ、この手紙は販売店主、パイロットの営業、技術部隊に大きな衝撃を与えた事は間違いない。特に営業にとっては、販売店からの意見をないがしろにすると、創業者一族に直接手紙が送られる事があるというのは恐怖だろう。そういう効果も狙って渡部氏はこの手紙をパイロットタイムスに掲載したはず。なかなかの策士じゃ！　

　ここまで読み進めて初めて、【社員に読ませる事こそが、転載の意図】だったのだと理解できた。深慮遠謀の人：渡部旭！　ますます惹かれていく！

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万年筆評価の部屋

2007年03月01日

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