2007年05月10日

解説【萬年筆と科學】 その34

ラッカナイトの熱不導性・・・【第三十四章】

 前回の新発見は、ラッカナイトとは、エボナイトに漆を塗ることだけではなく、ベースとなるエボナイトの組成にも手を加えていたという事。

 単に漆を塗っただけではエボナイトの変色は止められないというのも衝撃じゃったな。

 その後パイロットの調査によると、ラッカナイトは熱伝導を防ぐ作用もエボナイト単体よりも大きいことがわかったらしい。実験の結果によると通常のエボナイトであれば2分間で空気膨張によるインク漏れが起こる環境でも、ラッカナイトは5分間絶えられるという結果が出たとか。これは表面に漆を塗った効果だろう。

 渡部氏は【漆は蒔絵師を対象とした保守的な伝統だけではなく、先進的な近代工業にこそ利用価値があるのではないか】と考えていた。そういう意味で万年筆に漆を塗ることは、当時としては世界に向けて誇るべき大飛躍!と夢を広げていたようじゃ。

 もし第二次世界大戦が無かったとして、漆は近代工業の要として半導体やTVに利用されただろうか?

 松江で漆職人さんと、finemanしゃんの会話のなかで、漆にかぶれたらどうなるか・・・どうやって塗っていくか・・・を聞くたびに、近代工業化に生漆は貢献できないだろうなと感じた。生産量が限られる上、かぶれが作業工程のどこで出るかが予想できない状態では、量産化は難しいじゃろう。昔は漆のかぶれに慣れるため、漆を飲んだ人もいたとか。そうやって免疫を作っておかなければ職人として使い物にならなかったらしい。

 拙者は【塗り】は大好きじゃ。特に金属軸への漆塗りが好き。これにはわけがある。1995年に見せられた大道芸のようなパーフォーマンスに魅了されたのじゃ。

 当時はパイロットの営業の方と親交を深めており、製品を勤務先まで持ってきていただいて購入したりしていた。その時に営業の方がしたパーフォマンスが非常に印象に残っている。

 金属軸に蒔絵が描かれた万年筆を拙者に握らせて、書き味を試させてくれている。その途中で、いきなりペンを取り上げ、蒔絵の部分を100円ライターであぶり始めるのじゃ!

 皆、突然の事に【あぁ~、あぁ~、あぁ~】としか悲鳴を上げられない。散々あぶって真っ黒にすすが付いた万年筆を持つと、布でゴシゴシ擦るのじゃ。そうするとすすは完全に拭い去られて、前と同じ綺麗な軸が復活する!

 これは漆の耐火性をデモする手段だったのだろうが、見事に嵌ってしまった。それからしばらくは金属軸に漆が塗ってあるものを求めてはパーフォマンスを真似ていたものじゃ。

 それ以降、拙者の頭の中には、漆は軸を保護するものであって、軸を装飾するものではないというような考え方が根付いてしまった・・・



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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 情報提供 
この記事へのコメント
shamalしゃん

存分にたのしみなされ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 10:34
なるほど、やはり漆は非常に優れた保護能力を持っているのですね。
単なるエボナイトの変色止めや、装飾的な意味合いだけでは
ないんですね。
手持ちのものはプラベースなので、これから安心して洗えます。
ありがとうございました。
Posted by shamal at 2007年05月12日 09:15
shamal しゃん

問題は土台となるのがプラスティックかエボナイトか金属かじゃ。
エボナイトはお湯に極端に弱いので、お湯洗いは止めたほうが良い。

漆は非常に硬いので磨耗にも強いはず。割れにはどうかな?ベースが木なら強くなりそうじゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 06:37
漆にそんな耐火性があったなんて驚きです!
今までお湯に浸けて洗うのさえためらってました。
摩耗や割れにも強いのでしょうか?
Posted by shamal at 2007年05月10日 22:29
浦島しゃん

漆塗りの一番の価値は耐久性!とすり込まれているのでな。
板ばさみとか卵人間の蒔絵なら興味があるのじゃが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月10日 21:58
なるほど。
最後の一文を読んで、たこ吉さんが以前に「蒔絵に興味なし」と仰っていた背景がわかったっす!
Posted by 浦島 at 2007年05月10日 12:33