5月26日に開催されたWAGNER裏定例会において、幻の逸品を目にした。
今から10年以上前、アメ横のフレンド商会のオバチャンが【店頭には置いてないけど、すごいのがあるよ。見せるだけ見せてあげようか?】といって押し付けるようにして見せてくれたのが、デュポン・クラシック万年筆で、純銀軸に漆を塗ったもの。
【純銀軸へ漆を塗るのは非常に難しいのよ】と自慢された。おねだりすれば売ってくれたかもしれないが、当時はクラシックではなく、ポルトプリュームにしか興味が無かったので見せてもらうだけで満足していた。
それと同じものが、ひょっこりと裏定例会に持ち込まれた。拙者が過去に紹介した記事を読んでいた方が見つけて購入したとか。拙者は最初気付かなかった。以下2人のやり取りに、途中からkugel_149しゃんが参戦して知識を披露した件じゃ。
【pelikan_1931さんが好きそうな物を手に入れました。見てください。】
《ほう、Dupontの青漆ですか。ペン先はPelikanが作っていたころのクラシックですな。これには隠れた名品として、純銀に漆を塗ったものがあったのですぞ。》
【実は、これこそがその純銀軸に漆を施したモデルです。軸に925の刻印があります。pelikan_1931さんの記事を見て入手しました。】
《えぇ!あ、本当だ!925の刻印がある!しかも漆が剥がれていない。これすごく剥がれやすいから気をつけてね。》
【軸に都彭という名前が彫られているのですが、漆職人の銘ですかね?】
《純銀にオレンジの漆を塗り、その上にブルーの漆を塗って、銘のところを削ってオレンジ文字を出しているようですな。Parkerだと漆モデルは製造初年度だけ銘のようなものを入れていたが・・・kugel_149しゃん、知ってる?》
彼はおもむろにティファニーのルーペを取り出して刻印を見て・・・
『都彭ていうのはDupontのことです。私も持ってました。純銀軸に漆をかけた万年筆も!』
《【ええ!都彭ってDupontのことだったんだ!】》
といって納得したのじゃが、昭和52年に発売された世界の文房具に掲載されていた。写真の10番の物には都彭との銘が入っていると解説されてる。それがDupontを意味することは知らないようじゃ。
しかも10番のモデルは真鍮に漆を塗ったモデルではないかな?純銀に漆のモデルはそれより古いのではないかとも思う。が、この当時はまったく万年筆に興味が無かったので、時代を共有していない・・・残念じゃ。
いずれにせよ、Montblanc No.149が2.8万円、No.146が2万円の時代に8万円!今のNo.149の定価から想定すれば、ファーバーカステルの琥珀のような存在かな?
当時の最先端文房具はタイプライターだったのか、相当たくさん紹介されている。コンピューターは非常に高価で80MBの磁気ディスク装置が何千万円もした時代。
この当時、拙者は外資系に勤めていたので、経営会議などの資料は英文タイプだった。幸いにして身の回りにキーパンチャーがたくさんいたので、彼女らにタイ焼きと交換でタイプしてもらっていた。
外国との文書のやり取りが多い部署ではIBMのボール式電動タイプライターを使っていたが、その他の部署では安いオリベッティーの標準型タイプライターを使っていた。文字数を数えてピッチを計算し、単語の変なところで改行されないようにするのが技だった・・・らしい。拙者はいつも【タイ焼きでおねだり】を繰り返していたので仕上がりは早かったが、いまだにブラインドタッチが出来ないままじゃ。まるで蟻とキリギリスみたい。
オリベッティはイタリアのメーカーだが、タイプライターも実にカラフル、かつデザインも洗練されている。ヘルメスとかトライアンフというのもあり、なかなかしゃれている。まるで駆逐艦みたい。それに対して左下のコクヨの和文タイプは戦艦大和のように重厚。海外にはタイプライターコレクターがたくさんいると聞くが納得させられる。彼らにとって和文タイプライターは蒔絵万年筆のようなもの?
今回、万年筆とタイプライターを取り上げたのは・・・当時最先端文房具だったタイプライターは姿を消し、ワープロ、PCに取って代わられた。機能で売るものは上回る機能を持つものにリプレースされる。
一方で万年筆は現在まで生き残り、ブーム復活が感じられるようになった。機能や性能が受けているのではなく、また、ノスタルジーが受けているのでもなく、【愛でる道具、愛玩具】と評価されているのかもしれない。
昔、田舎では犬猫は家畜じゃった。番犬とかネズミ捕りを期待されていた。現代の都会における犬猫はどうか?彼らに期待するのは、家畜としての役割ではなく、癒してくれるパートナーじゃろう。
拙者にとっては万年筆は、猫と同じ存在なのかもしれない。気が付けば、拙者と同じ体型の【チビブー(猫の名)】が拙者の足の指を舐めている。どうやらおなかがすいているようじゃ。チビブーにとっては拙者は、何でも言うことを聞く家畜なのかもしれない。
【過去の記事】
2007-05-22 暮しの設計 No.117 1977年【世界の文房具】その6
2007-05-15 暮しの設計 No.117 1977年【世界の文房具】その5
2007-05-08 暮しの設計 No.117 1977年【世界の文房具】その4
2007-05-01 暮しの設計 No.117 1977年【世界の文房具】その3
2007-04-24 暮しの設計 No.117 1977年【世界の文房具】vs【趣味の文具箱 Vol.7】
2007-04-17 暮しの設計 No.117 1977年【世界の文房具】その1