2007年06月06日

水曜日の調整報告 【 OMAS 360 Demonstrator 18K-B 】

2007-06-06 01 今回の依頼品はOMAS 360 Demonstrator。多少黄色っぽいゴールド・トリムの物と、この非常にクリアーなシルバー・トリムの物があるが、拙者の好みは圧倒的にシルバー・トリム!

 この透明感は只者ではない。スキャナーで調子を出すのに苦労したほど。しかも、Demonstratorだからこそ、内部のどの部品にも手抜きが無い。コストカットに血道を上げる万年筆メーカーが多い中で、見上げた根性じゃ!どこに買収されようともイタリア人気質は失ってないようじゃ・・・・ん? そういえば買収先も完璧主義の会社じゃった・・・・ 

2007-06-06 02 今回の不具合は、ペン先のソケットがぐらぐらして書き位置が決まらない事。どうやら首軸内径が真円になっていないらしい。せっかく褒めたのに・・・

 ただしソケットを強く右に回せば固定できた・・・が固定された位置は三角形の底辺の位置がペン先の正面。これでは書けない。三角形の頂点の位置にペン先のスリットが合わさる形状になって欲しい。

 直し方は簡単で、いったんソケットを固定した後でペン芯とペン先を引き抜いて、位置を変えて首軸に固定されたソケットに押し込めばよい。それだけなら非常に簡単なのじゃが・・・・

 デモンストレータにインクの汚れが付いているのが嫌いな拙者は、完全清掃をしてみたくなった。拙者のもとを旅立つ時には無垢な姿で戻って欲しいいう願いをこめて。

2007-06-06 03 こちらがソケットを首軸から抜いた状態。ネジの部分に赤くインクカスが付着している。赤インクは着色しやすいといわれるが、細かい粒子が素材の隙間に食い込むような感じになるのかもしれない。

 それにしても作りの良いエボナイト製のソケットじゃ。もちろんペン芯もエボナイト製。拙者が初めて購入したウォーターマンのル・マン100は必要にかられて購入したものであって、惚れて購入したのではない。惚れて購入した万年筆第一号はオマス・ジェントルマンだった。その時からずっとエボナイト製ペン芯。もっともその当時はNo.149ですらエボナイト製ソケット&ペン芯じゃった。

 製造時間の短縮、コストカット・・・などの目的でエボナイトの使用を止めるメーカーが多い中、OMASの企業姿勢は立派じゃ!意地さえ感じる。近くにエボナイトの製造と加工を行う部品メーカーが存在する事も、オマスの意地をささえてくれる要因でもあろう。ちなみにモンテグラッパもエボナイト製ペン芯に拘っているメーカーじゃ。


2007-06-06 04 ペン先をソケットからはずしてみると、根元にはロジウムは鍍金されていない。ロジウム鍍金自体は装飾目的以外にも、インクフローを向上する効果があるようで、メーカーでも効果を認める人もいる。それが理論的に実証されていればペン先の首軸内部の部分にも鍍金を施すじゃろうが、経験値でしか無い段階では、そこまで求めるのは酷かも・・・。ま、鍍金溶液に浸ける際にクリップで挟む部分に鍍金がかかってないことにしておこう・・・

2007-06-06 05 これは驚異の画像。特殊な工具が何も無くてもここまで分解出来るのは凄い!普通なら仕組みがわからないと怖くて分解出来ないような部分も、デモンストレータだからこそ可能になる。内部構造が全て見えているから!

 特に、尻軸とピストンを固定するピンのはずし方など、内部構造が見えない限り想像もつかない。これをはずすのにも特殊工具は要らない。先端が平たい注射器の針を使ってタタキ出すだけ。

 オマスはこれまでに100本以上分解して来たが、ここまで完全分解出来たのは初めて!非常に気持ちよい。今回はペン先調整は求められていなかったので、低テンションで始まった修理じゃったが、俄然最高潮のテンションになった!

 首軸内部の部品の隙間の薄い色残りを除けば、完璧に清掃が出来た。


2007-06-06 06 こちらが組み立てなおした状態。これでこそデモンストレータじゃ。実に美しい!しかも、ペン先を多少伸ばしてみたのじゃが、どの位置まで伸ばすと、首軸内部の頂点にあるネジに衝突するか良く見える。これは助かる。

 尻軸は三角形なので最後がきちんと胴軸とそろうのか不安じゃったが、まったく問題はなかった。これは非常にうまい仕組みによるものだが、その説明は文章ではなかなか表現できない・・・・

2007-06-06 07 ペン先はBで、ほとんど使われていない状態。多少腹開きにしておいたのでインクフローは良いじゃろう。デモンストレータには自分ではインクを入れて書かないので確信は無いがな。

 今回は今までで一番興奮させられた修理じゃった。いままでモヤモヤしていた事がすっきりした!


【 今回の調整+執筆時間:2.5時間 】 調整1.5h 執筆1h


これまでの調整記事

2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
2007-05-30   Pelikan 400 灰茶 14C-F 
2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
2006-12-30   セーラー プロフェッシュナルギア 水色 
2006-12-27   Sheaffer コノソアール 赤軸 OB  
2006-12-16   Sheaffer インペリアル 777 金キャップ & 青軸 
2006-12-13   Montblanc デュマ 
2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
2006-10-14   Senator  President  B 
2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB   
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
t_stone しゃん

尻軸はずしが妙味なのじゃが、再組み立てもそれなりに難しい。
出来たのはデモンストレータじゃから。
おもしろいですぞ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年06月07日 02:52
生け贄としては、非常に気に入っていただけたようで、光栄です。
分解清掃ありがとうございました。
構造が見えているものの首軸すら怖くて外せなかったので、またの
機会にでも、分解方法を教えていただければありがたいです。
Posted by t_stone at 2007年06月06日 22:48
しし しゃん

アクリルは旋盤にかけると非常にヒビが入りやすいと聞いた。
これは驚くべき加工精度じゃ。
欲しくなって困っている・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年06月06日 19:40
部品点数の少なさは驚異的ですね
胴軸、キャップなんかは特に芸術的なまでのデザイン

その分は設計と加工に負担が掛かってそうですけど
Posted by しし at 2007年06月06日 09:31