2007年10月15日

月曜日の調整報告 【 Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験 】

2007-10-15 01 今回の依頼品は古いMatador 996。拙者も以前所持していたことがある。スネーククリップがかわいい逸品じゃ。

 Matadorの高級ラインは非常に高価だが今回の品は中級ライン。凝った作りの割に値段が安いので相当ヒットしたのではないかな?

2007-10-15 02 依頼内容は、ピストンが機能しない。インクが後ろから漏れる。ペン先を首軸から外したら戻せなくなった・・・といもの。

 この時代の独逸マイナーブランドは、個々に独自の機構を持っている場合があり、分解には非常に気を使う。Matadorの場合は過去に分解した(壊した)経験があったので事なきを得た。

 画像で大きなコルクがあるが、これをカスのような大きさのコルクと同じ大きさまで削る。これは非常に時間がかかり困難な作業。少しでも円形がゆがむと空気が漏れてインクが上ってこなくなる。また後ろにインクが漏れてしまうこともある。

2007-10-15 03 今回の漏れの原因は、コルクの摩耗もさることながら、コルクを止めている軸とコルクとの間に隙間が空きすぎているのも原因ではないかと思われた。

 そこで松脂を塗ることを思いついた。実は海外で修理したピストンに松脂のような物が塗られているのが気になっていたので、今回チャレンジしてみた。

 こういう時にこそ【生贄】の出番じゃ!

 まずは松脂の入手だが、これは楽器店で各種取りそろえて売っていることがわかった。どうやら弦のメンテに使うらしい。

 固形石鹸のような丸い形状だが、カチカチに硬い。そのまま弦に擦りつけるのには良いだろうが、溶かして塗りつけるような場合には不向き。

 そこでビーカーに砕いて入れ、熱して液体状にした。それを熱した歯科用のメスの先端に付け、コルクと軸の間や、コルクがインクと接する面に塗りつけるわけじゃ。

 メスを熱していないと、メスに付けた段階で松脂は固まりはじめてしまうので、必ずメスを熱すること。

 当たり前だが、松脂は滑り止め。従ってコルクの側面に付着すると、胴軸内部との摩擦抵抗が大きくなって、ピストンの上運動がやたら重くなるので注意。

 実は、最初は側面にもたっぷりと塗って、動かなくなり、コルクを削り直した・・ボケの始まりじゃ!

2007-10-15 04 これが完成形。なかなか良いバランスだ。胴体に比べてペン先が大きい!そういえばMatadorには、あまりケチくさいニブが無い。当時の独逸マイナーブランドには小さなニブが多かった・・・その中でSoenneckenとMatadorのニブは大きかった。マイナーと呼んでは失礼かもしれないな・・・

2007-10-15 05 これは調整が終わったニブをスキャナーの上に、右向きに置いたものと、左向きに置いてスキャンしたものをつなぎ合わせたもの。スキャンの方向によって影の出方やコントラストがかなり変化するのでおもしろい。ルーペで見ると、右側に近い映像になる。

2007-10-15 06 依頼人がペン先が首軸に入らなくて苦労したようだが、確かにまともな力では入らない。首軸はセルロイドのようなので痩せたのかもしれない。

 ペン芯位置からかなりペン先が前にあるように見える。こういう状態が好きな拙者ですら、ややペン先が前過ぎるような気もするが、これ以上はペン先が奥にはには入らない。

2007-10-15 07 書いていてインク切れもなく、書き出しの掠れもないので、これで良しとしよう。

 Soennecken、Matador、Osmia、Goldfink
などは実に具合の良い万年筆を作っていた。こういうブランドに復活して欲しいものじゃ。

 もちろんブランド名だけではなく、ふさわしい技術も。やはりコレクターが復活するのが一番だろう。【妥協】が一番寂しい結果をもたらすからな・・・


今回執筆時間:5時間 】 画像準備1h 調整3h 執筆1h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
 
 


【これまでの調整記事】

2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換

2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
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2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
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2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
あおいしゃん・・・いや・・・女王様

ここでもダメ出しされてしまいましたな・・・

応急措置では小型スプーンの中に、かけらを入れ、ライターであぶって、溶けた頃を見計らって竹籤ですくっている・・・ヤクみたいじゃがな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年10月15日 23:47
stylustipしゃん

蝋やパラフィンワックス・・・なるほど
今度試してみましょう。蝋は耐久性が無さそうですがな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年10月15日 23:44
毎回面白く拝見していますが、今回は、松脂を使っているとのことで、
更に楽しく読ませて頂きました。
ただ、気になることが一つ。
松脂は、弦に付けるのではなく、弓の毛につけます。
弓の毛は、馬のしっぽですが、そのまま弾きますと、
キューティクルで滑ってしまって、音が出ません。
松脂を塗ると、弓はしっかり、弦を響かせてくれます。
擦弦楽器は、バイオリン属だけでも、バイオリンからコントラバスまでありますが、それぞれ粘性の度合が違います。
今回の用途に一番ぴったりと思われるのは、
二胡(胡弓)用の松脂です。何故なら、砕いて弓の毛に塗して使用するから、砕きやすいかと。
(粘性は関係ありませんね)
長々と失礼しました!
Posted by あおい at 2007年10月15日 23:19
師匠。
コルクに塗布されている物ですが、
蝋やパラフィンワックスの用にも見えます。
(爪痕が付く位に柔らかくて、滑りがよい)
実験用の生け贄が欲しい・・・
Posted by stylustip at 2007年10月15日 20:30