2007年11月01日

解説【萬年筆と科學】 その54-3

ウォーターマン社 創立50周年を祝した その54−3

 今回の【その54】に関しては非常に内容が濃い上に、一般には紹介されていない事が盛りだくさん!従って一回でまとめてしまうにはしのびないので、数回に分けて紹介することにする。

第三回目はL.E.Watermanの発明内容を紹介する


 今回はなぜWatermanが萬年筆と関わるようになったのか、また、彼の発明内容は何だったのかを明確にする。

 Watermanはエトナ生命保険会社の勧誘員をしていたが、当時生命保険はそれほどポピュラーなものではなく、勧誘員は多いが、客は少ないという状況だったらしい。

 従って勧誘員は油断も隙もなく立ち回らねばならず、また、客の気心もいつ変わるかも知れないという【心理的危険性】がつきまとう商売だった。

 申込者がいつ何時、どんな拍子に出来ようとも、まごつかないだけの準備をしておく必要があった。また、【契約書はインキにて申込者の自署を要す】という規定があり、それが即座に実行出来ないと競争には勝てなかった。

 従ってWatermanは当初、いつもペンとインキ壺を肌身離さず持ち歩くようにしておった。ところがインキで洋服にシミはつくは、書類は台無しになるわという始末で、ほとほと愛想をつかし、代替策を捜している時に萬年筆に出会った。

 元来新し物好きのWatermanは、さっそく奮発して一本購入し、【萬年筆は俺の助手だ!】と吹聴するほどの気に入り方であった。

 ところがある日、有名な事件(作り話かも?)が発生する。契約書にサインいただこうと萬年筆を差し出したところ、インクがドバーっと漏れて契約書が台無しになり、その時に訪ねてきたライバル会社の勧誘員に契約を取られてしまった・・・

 その時Watermanは冷静に、【この萬年筆が悪いのではなく、不完全な機構が悪いのだ。では自分で完全な機構を作ってしまおう】と考えた。

 幸いにしてWatermanは大工経験があり手先は器用。また速記術に詳しいのでインクフローのあるべき姿をイメージ出来た。

 彼はまず、市場で売られている萬年筆を詳細に調べ、また、萬年筆関係の特許も調べ上げた。その結果、ペン芯に穴があるだけではインクは出るわけではないという事実を悟り、ついに、ペン芯の機能上重要な二大原理を発見した。

 ★萬年筆のインクは毛細管現象で誘出されなければならない
 ★インクが誘出された分だけ、空気が入らなければならないこと

2007-11-01 01 その結果生まれたのが、ペン芯の背筋に一本の角溝を刻りつけ、その角溝の底に2本の(後に3本)細溝(Fissures)を切り込むことを思いついた。

 インクは毛細管現象で細い溝を通ってペン先先端に向かい、インクが吸い出された分だけ、空気が上の広い溝を通じて軸内に進入する理屈じゃ。これによってコンスタントなインクフローが保証される。このアイデアは1884年に彼の名で特許を取得している。

 これが近代萬年筆に繋がる最も大事な発明なのじゃ。Watermanが現代に復活したとすれば、必ず最高のペン芯を作ってくれると確信している。


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Posted by pelikan_1931 at 05:05│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 情報提供 
この記事へのコメント
yostos しゃん

ありがとしゃん。修正しておきました。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月01日 19:47
こんにちは、

>このアイデアは1984年に彼の名で特許を取得している。
きっと、1884?
Posted by yostos at 2007年11月01日 08:31