2007年11月10日

土曜日の調整報告 【 Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 】

2007-11-10 01 今回の【生贄】はPelikan 400NN。拙者が最も好きな萬年筆の一つじゃ。特に、ST、F、Mあたりはこの上なくしなやかな書き味で楽しませてくれる。最近やっと、Pelikan 400NNの復刻に奔走した人々の情熱がわかるようになってきた。イロイロと書き比べていくと、良い物がわかってくる反面、今まで満足していた物に不満を持ちだしてしまう。

 拙者の苦い経験。学生時代毎日通った蕎麦屋の、年中食べられる【冷やしタヌキソバ】が忘れられなくて、20年後に訪問して勇んで食べたら・・・味は変わっていなかったのに、ちっともうまい感じなかった。舌が肥えてしまっていたから・・・この時は悲しかった。萬年筆も同じ・・・そして既に自転車でもそうなっている自分が怖い。人間は一生満足しない生き物なのか・・・

2007-11-10 02 この萬年筆には【FARWERKE HOECHST AG】という刻印がある。調べてみたら、現在では【Hoechst AG】と名前は変わっているものの現存する会社。

 米国では薬局チェーンが広告入りのCombo(ペンシル・ナイフ)を大量に配布していた時期があるが、こちらはクライアントに配った記念品だと思われる。創立記念などであれば年号が入るので、単なる記念品と考えるのが妥当であろう。

2007-11-10 03 ペン先はOMで綺麗な形状をしているが、おぞましい書き味!これがペリカンかぁ!と叫びそうになった。こんなに酷い書き味のPelikan 400NNに出会った事は無い。このあたりがオークション購入の恐ろしさじゃ。書いてみるまで書き味はわからない・・・

 MとFの間くらいの太さにして欲しい・・・との依頼だった。このOMの幅をMとしての事と考えたので、多少細めと設定した。しかしこの書き味の悪さは尋常ではない。何か根源的な構造上の欠陥か、材料上の問題があるはずじゃ。

2007-11-10 04 横顔を見ると、明らかに摩耗したペンポイントを研磨した形跡がある。しかもポイントを外している。これだけお辞儀したニブでこういう研磨をすれば先端が引っ掛かり気味になってしまう。

 それにしても酷い書き味。やはり分解してみる必要があるなと考えて、ペン先とペン芯を専用工具で挟んで左に回したら・・・スポっと抜けた。これはやはり・・・

2007-11-10 05 案の定、安いプラスティック製のソケットになっていた。これではペン先とペン芯は正しくホールドされない。

 このソケットは後で作られた修理部品ではなく、400NNの末期にコストカットで作られたものという噂もある。とするならば、同時期のペン先にも赤福のような材料不当表示があったのかも・・・邪推だが、最近、なんにも信じられない。

 ペン芯には手抜きはない。お手本のようなエボナイト製ペン芯で非の打ち所がない。


2007-11-10 06 ペン先はスリット先端が開いており、インクフローもそう悪くはない。にも関わらず惨くて酷い書き味。

 事前に依頼者と打ち合わせていたとおり、【カモノハシ】にするしかあるまい。しかしオブリークを【カモノハシ】にするというのは非常に危険。ペン先先端の重量が、ペンポイント左右のイリジウムの長さの差異の影響で、大きく異なり、書きごこちに影響を与えるのは明白。従ってそれも含めて調整する必要がある。調整には長時間かかるなぁ・・・

2007-11-10 07 400NNのソケットは現行品と互換性がある。この現行品は、正規品のエボナイト製ソケットよりも丈夫で良い。実用にするならこちらを使った方が具合が良い。

 それにしても何故、この割れやすくてサイズも微妙に違うまがい物が市場に多量に出回ったのか見当がつかない。やはり噂は本当なのかな・・・?

2007-11-10 08 こちらがカモノハシ化を施したペン先ユニットじゃ。当初と比べてずいぶんと削っているのがわかろう。実はここまで削らないと書き味は変化しなかったのじゃ。相当に剛性が高く、弾力が少ないニブだった・・・

 やっとこれでペリカンの書き味になった。ペン先先端だけがピコピコと曲がる感じ。

2007-11-10 09 Pelikan 400NNというよりも、M700トレドの初期のペン先についていた伝説の18C金一色ニブに似てはいるが、いっそうおもしろい。イリジウムの重量に応じて削りを変えたので、拡大してみると形状は不格好だが書き味は極上。

 ヘロヘロの柔らかさではなく、柔らかい中にも芯がある感じ。今までに経験したことの無い感触じゃ。

2007-11-10 10 横顔を見ると、若干立てて書くように変わっている。柔らかいペン先ほど立てても書けるように調整するのじゃ。力を入れればペン先自体は寝てしまうからな。

 また先端が紙に引っかからないように多少丸めてある。それにしても時間がかかった。24時ころから始めて終わったのは8時前。それから約一ヶ月ほどの間、微調整を繰り返した。あの惨い書き味がここまで改善されたとは自分でも驚いている。

 本日は雨・・・自転車を受取に行く日なのに・・・鬱!


今回執筆時間:12.5時間 】 画像準備2.5h 調整7.5h 執筆2.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
 
 


【これまでの調整記事】

2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B

Posted by pelikan_1931 at 10:30│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
色即是空 しゃん

左に捻って書かなければとりあえず大丈夫じゃろう。ペン先のスリットを開いて、インクがドバドバ出るようにしておけば、筆圧は下がるはずじゃよ。
それと出来るだけ、首軸先端から離れた所を持って、書けば筆圧は下がるし、ペンはまっすぐに紙にあたるようになる。

プラチナカーボンは毎日使うのであれば、どれに入れても大丈夫じゃ。ただしロットリングの洗浄液は常備する事じゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月11日 22:48
regulus821しゃん

生贄に飢えているでな・・・どんどん訓練しなされ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月11日 22:44
おはようございます。
いつも楽しく拝見してます。ここの項目でいいのかわかりませんが、
パイロットのカスタム845の購入を考えています。パイロットの15号のペン先はズレ易いとのことですが、筆圧が高いと使っていく上で支障をきたしてしまうでしょうか?

あともう一つ
プラチナのカーボンはM800に入れても大丈夫でしょうか?デュオフォールドなど両用式にはためらいなく入れれるんですが…(笑)
Posted by 色即是空 at 2007年11月11日 09:51
ソケット割れ、書き味悪化に途方にくれていたところでございました。
24時から8時・・・おまけに一ヶ月もかけていただいたなんて。
本当に、師匠には感謝感激です。ありがとうございました。
これからも、生贄を増やすべくガンガン素人調整して参る所存で
ございます。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by regulus821 at 2007年11月11日 01:49