2007年11月12日

月曜日の調整報告 【 Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 】

2007-11-12 01 今回の依頼品はMontblanc No.342 Gじゃ。体は大きいがペンは小さいのが心地良いという方の持ち物。これは初期のモデルでフラットフィーダー付き。黒軸は、1951年に1年間だけ作られた。特徴は茶色のインク窓。翌年からはブルーのインク窓に変わった。同時期に輸出用として作られた赤軸、青軸にはインク窓はなかったはず。非常に多くの数が出ているので、手に入りにくいことは無いが、実物を見たのは初めてじゃな。

2007-11-12 02 ペン先はクーゲルのF。とてもFとは思えない大きなペンポイントじゃ。症状云々ではなくインクがなかなか出ない。出ても不安定。そして何より書き味が悪い・・・ということ。

 依頼者はWAGNERのメンバーの中では比較的ペンを立てて書く・・・というか、No.342 Gくらいの大きさだと、立ってしまうようじゃ。手が大きいので後ろ寄りをを持つと手から外れてしまうから・・・かな?

2007-11-12 03 上から見るとガチガチにスリットが詰まっているが、横顔には問題がなさそう。ペン先とペン芯の間に隙間は発生していない。

 ただしスリットを拡げようとして、ペン先を上に反らせると隙間が出来そうな感じ。かなり繊細な調整になりそう・・・

 またクーゲル先端の斜めに書き癖がついている部分が、依頼者の筆記角度と合っていない。これでは腹の下段のエッジで紙を擦ることになり、たとえペン先のスリットが開いていたとしても、ガリガリとした書き味になってしまう。

2007-11-12 04 まずはスリットを拡げてみた。よく見るとペン先の表面が少し荒れている。これは金磨き布でしばらく擦っていればすぐに綺麗になる。

 表面の荒れというのは光の乱反射によって、実際以上におぞましく見えるもの。傷のエッジを金磨き布で丸めてやれば、綺麗な光を出してくれる。

2007-11-12 05 こちらが金磨き布でゴシゴシと擦った後のペン先。スリットの広がり具合が良くわかろう。

 これくらい開いてエッジを丸めた後で、ペン先を多少お辞儀させるとペン先とペン芯の間にスキマは発生しない。

2007-11-12 06 こちらは、筆記角度に合わせてペンポイントを削って、仕上げる前の状態の横顔。

 ペンポイント斜面の角度はそれほど変わっていないが、紙に当たる面積を増やした。これによって紙当たりが柔らかくなる。

2007-11-12 07 拡大したのが左のが画像。エッジ処理をしていないので、この状態では許容範囲が少ない。少しでも傾きが変わればガリガリとなってしまう。

 通常はこの状態は枚数が増えるので公開しないのじゃが、今回は特別。まずは角度に合わせて削りまくってからエッジ調整や微調整に入るのじゃ。

 いくらペーパーの上で、角度を合わせながら削ってもダメ。常に最終形を頭に描きながら、その形状に合わせて削るのじゃ。微調整の連続では全体として良い書き味の調整は出来ない。これが何本も犠牲者を出した後に到達した極意じゃ。【部分最適を積み重ねても全体最適にはならない】・・・心せよ。

2007-11-12 08 こちらが微調整が終わった状態。少しだけお辞儀させているので、前よりは多少弾力はある。

 書いてみると・・・クーゲル独特の書き味が復活した!水田の泥の中を歩いているような・・・紙に絡まるような書き味。非常に好みが分かれるが、これこそがクーゲルじゃ。

 【沢尻エリカ】的な書き味ではなく、デビュー当時の【大竹しのぶ】のような【ねっとりとした書き味といえばわかりやすいかな?(なわけないか・・・)

 ブドウ畑の書き味ではなく、水田の書き味なのじゃ・・・ああ、難しい!

2007-11-12 09 こちらが拡大図。エッジを丸めたため、腹が引っかからなくなっている。No.14Xシリーズのクーゲルは多少腹を紙に引っかかるくらいに調整した方が意外性があっておもしろいが、No.342クラスでは【水田風】の書き味の方が好きじゃ。

 ここで紹介するのは、すべからく【生贄】なので、まずは拙者の好みの書き味にするのが基本。この書き味は好きじゃ! 最近、No.342に嵌っている。



今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1h 調整2h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の
合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
 
 


【これまでの調整記事】

2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B

Posted by pelikan_1931 at 08:08│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
stylustipしゃん

342の小さいペン先はブレが少ないので、まさに学童より。
だが、Kugelは扱いが難しくて、子供には無理だろう。女性がTargetだったのかも知れない。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月13日 06:03
青春の門ですね。。。
茶窓の342、私も先月間入手しました。
ソケット無しで首軸に直にフィードとnibが刺さってるんですね。
最近買ってるのは342-monterosaラインとか、
一般大衆向けモデルばかり。
市井の万年筆に親しみを感じてしまう私です。
Posted by stylustip at 2007年11月12日 21:09