2008年01月02日

水曜日の調整報告 【 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活! 】

2008-01-02 01 今回の依頼人は【 こいつはすでに死んでいる・・・ 】とつぶやきたくなる萬年筆を持ち込む名人!今回も通常なら埋葬されていそうな名品を持ち込んでくれた。嬉しい!

 なんと丸善アテナ萬年筆のセルロイド軸じゃ。拙者は初めて遭遇した。

2008-01-02 02 ペン先には【MARUZEN'S ATHENA 14K GOLD 3】との刻印がある。りっぱな14金ペン先。ちょっと笑えるのは切り割りがハート穴を突き抜けて入っていること。戦後なら出荷検品の段階ではねられるはずだが、まだそのような考えが弱かった時代だったのかも知れない。ま、ルーペがなければ見えないだろうが・・・

2008-01-02 03 この萬年筆の第一の欠陥は左図のとおり。ペンポイントの左側が曲がっている!どうやったらこんなに綺麗に曲がるのだろう?

 また相当強くペン先のスリットが詰まっている。これはペンポイントが真っ直ぐであっても満足にインクは出ないだろうな。

 この曲がりを直す方法はこちら同じ道具を使う。曲がった面を下にして、内側を割り箸の先で押さえつけて曲がりを直す。ホンの数秒の技じゃ。これまでに何本も曲がりを直したおかげで、ここ何年間も失敗はない。それまではほとんど失敗していた・・・道具とノウハウとコツと多少の器用さがあれば良い。

 拙者が小学生の時、成績は段階評価。オールに一番近かった時は、一科目だけであとは全て。その図画工作だったので、拙者とて器用な方ではない。経験は人を〔その分野では〕器用にするものじゃ。

2008-01-02 04 こちらがニブの表と裏。さすがに古いだけのことはあって、インクで相当汚れているが、金磨き布で擦ったらあっさりと綺麗になった。

 驚いたことに、表にはくっきりと見えるハート穴を通り過ぎた切れ込みが裏側では見えない。ひょっとすると、切り割りはペンポイント側からではなく、上からやっていたのかな? 不思議じゃ!

 蛇足だが、現在の丸善は国産三社とうまいお付き合いをしている。ATHENA復刻萬年筆や檸檬はパイロットに発注。マイカルタなどはセーラーへ、そしてアテナインキはプラチナへ発注しているらしい。等距離外交は影響力の大きな販売店としては最高の戦略。
萬年筆文化を担おうという心意気さえ感じてしまう。

2008-01-02 05 こちらはペン芯。上が清掃前、下が清掃後。ブルーブラックと思われるインクのカスがスリットにびっしりと詰まり、同時にスリット外側にもカスが盛り上がっていた。

 それらを丁寧にスキマゲージで擦り落とし、最後にロットリング洗浄液をアルコールランプにかけ、多少ペン芯を煮るとインクの色が落ちて下側画像のようになる。真似する必要は全くない・・・

2008-01-02 06 こちらは一瞬で曲がりが直ったペン先の清掃後。ペン先表面をバフかけしたら、ハート穴からの切れ込みも目立たなくなった。

 製造されてから何十年も経過しているのに、ペン先はまったく劣化していない。14金の強さを思い知らされた感じじゃ。


2008-01-02 07 この萬年筆には、もう一つの大きな欠陥がある。レバーフィラー機構が壊れている上に、サックが完全に腐っている。

 左図は腐ったサックを綺麗に取り除いた状態。これに新しいゴムサックをしかるべき長さに切り、サックセメントで固定する。

 なを、レバーフィラーの内部機構は修理不能なので、J−Barと呼ばれるレバーフィラー用バネを試してみるとピッタリフィット!これで完璧に修理が出来る!

2008-01-02 08 こちらはサックセメントで固定した状態。サックセメントは約一分で乾くので、すぐに水を入れての吸入テストが可能。慣れると本当にあっという間に修理が終わる。

 今回は久しぶりだったので、J−Barをどこに保存してあったか捜し回った・・・ また軸を磨いて綺麗にするのに時間がかかった。昔のものは模様は綺麗だが丈夫ではない。当時のペリカンとは製造技術のレベルが違うと感じた。もちろん価格もはるかに安かったのだろうが・・・

2008-01-02 09 こちらが首軸にセットし終わったペン先。穂先が長くて実に美しい。ペンポイントの削りにも破綻はない。昔は相当長時間かけてペンポイントを研いでいたのじゃろう。

 調整しおわったペンで書いてみると、日本語で重要な、ハネ、ハライが実にうまく表現できる。現在のペン先とは設計思想が違うようじゃ。

2008-01-02 10 全体的に見ると、金属加工技術が劣っているので高級感こそ無いが、書き味は秀逸!こういうペン先を現代のOMASのような軽い軸に装着したら、どれほど書き味が良いだろう・・・

 金ペンは蘇生することが出来る。ただし蘇生にはノウハウ以外にも部品が必要。物を修理して使う文化を放棄した日本には、そういった部品はない。こればかりは海外、特に、米国に頼るしかないのが残念じゃ。


【 今回執筆時間:7.5時間 】 画像準備2.0h 調整3.5h 執筆2.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!
2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 
2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 
2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
みーにゃしゃん

これは珍品ですぞ。うまく巻き上げてしまいなされ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月10日 23:26
(*≧m≦*)!
私は知らぬ間にそんな名人になっていたのですね。
まったく気づきませんでした!

これまた美しく仕上げてくださり、感謝しています。
切り割りが突き抜けているのはまったく気づきませんでした!

レバーフィラーまで手を入れて直してくださり、ありがとうございます。「J−Bar」は初めて聞きました。
色々手を尽くしてくださってる中、「まだですか?」なんて能天気に聞いてしまい失礼致しました。

こう見ると、つくづく綺麗な綺麗なペン♪
本当の持ち主に渡すのも、私もちょっと持たせてもらうのもとても楽しみです。ありがとうございます。
Posted by みーにゃ at 2008年01月10日 20:38