2008年01月07日

月曜日の調整報告 【 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 】

2008-01-07 01 今回の生贄は難物だった!正味修理時間だけで6時間。全体で11時かかった。途中で何度も叩き折ろうと思ったが、悔しいのでなんとか最後までがんばった! 

 お正月に実施した何本もの修理を通じて、内部に金属機構を使った万年筆はすべて設計ミスだと断言できる。

 拙者は金輪際テレスコープ吸入式とスノーケルやタッチダウンの万年筆は買わないだろう。それほど衝撃を受けた!

2008-01-07 02 こちらが修理前のペン先の様子。スノーケル機構がここから動かない!女性の力ではビクともしなかったらしい。

 拙者もスノーケルは50本以上修理しているが、これほど状態が悪いのは初めて!相当錆びているぞぅ〜!と期待しながら何とか分解してみた。この分解に至った段階で、既に1時間が経過していた・・・

2008-01-07 032008-01-07 042008-01-07 05 こちらが尻軸、尻軸に固定される吸入機構の外管、外管を尻軸に固定するネジ。ネジのサビ具合が、いかに長期間、内部にインクを入れたまま放置されていたかがわかる。

 よくネジが外れたものだ・・・と感心!こういう外観の場合、ほどんどこのネジも腐っているが、今回は生き残っていた。非常にラッキー!

2008-01-07 06 左画像の上側がこの万年筆に使われていたバネ!下がオリジナルの状態のバネ。いかに錆が凄いかがわかろう。

 いくら磨いても下の状態にするのは無理。既に死んでいる・・・そこでバネを新しい物と取り替えることにした。これも簡単ではなく、バネは強く捻ったり、反対にねじったりして、それぞれの個体が最もスムーズに動くように微調整が必要なのじゃ。ペン先調整に近い技が要求される。実に奥が深い。

 Sheafferのタッチダウン方式やスノーケル方式は、内部機構に大量のアルミ合金を使う。ところがこれらアルミ合金とインクとを隔てているのは一枚のゴムチューブ。もしこのゴムチューブが腐ってインクが胴軸内に出てきたら・・・ありとあらゆる金属部品が錆びてしまう設計じゃ。これを設計ミスと言わすして何と呼ぼう!

2008-01-07 07 こちらがこの万年筆に入っていたスノーケルの心臓部。ただし分解掃除前なので、あちこちに破綻がある。サックのゴムは腐っているが、腐ったまま内部機構にこびりついているので、少しずつ、歯科医用の小さなメスで丹念に取り除く。この作業は意外に時間がかかる。熱湯に入れて煮たりもした。

2008-01-07 08 こちらは分解が完了した画像。分解するにはゴムチューブを覆っているアルミ筒の頂点にある穴から、細い針金を突っ込んでトンカチでたたき出すのじゃ。大変乱暴な方法に見えるが、ちゃんとSheafferのリペア・マニュアルにそのとおり書かれている。

 やってみると驚くほど簡単に抜ける。この四角形の首軸への差し込み口だが、ちゃんと位置が決まっている。ある一ヵ所しかスムーズに首軸に差し込めなくなっているので、要注意!

2008-01-07 09 こちらは清掃前のペン先の表裏。ペン先のスリットは絶妙に開いており良い調整状態!このあたりはSheafferの独壇場!当時のSheafferのニブはちゃんとスリットに気を配っている物が多い。

 裏の汚れはエボ焼けではない。単なる汚れ。ただし長い間に表面にこびりついてしまっており、そう簡単には剥がれない。金磨き布で丹念に擦って落とすしかない。


2008-01-07 10 新しいゴムチューブをサックセメントを使って取り付けた状態。この画像はどの程度の長さにゴムチューブを切断するかの目安を示した物。筒の内部にピッタリと入らないとインクを吸う力が弱くなるので慎重に長さを計測してから切断!

 サックセメントは1分ほどで乾くが、念のため5分間は水を吸わせないように!

2008-01-07 11 こちらが管に装着した状態。たまにボムチューブを貼り付けた栓がひっかかってなかなか入らない場合がある。短気を起こして栓を削るとスノーケル機構が台無しになるので根気よく入れるようにな・・・

2008-01-07 12 こちらはペン先ユニット。実はここまで分解したのは初めて。あまりに具合が悪い万年筆なので完全分解して清掃しないとどうにもならなかった・・・

 おかげさまでこのタイプのスノーケルの修理はエキスパートになれそうじゃ!

 実は一番時間がかかったのはこれから先・・・

2008-01-07 13 当初は錆びたバネがひっかかって尻軸は下の状態までしか引っ張り上げられなかった。バネを調整してスムーズに動かすまでに必要な作業もいっぱいあった。 

 一番イライラするのは胴軸内のOリングの交換。細かいピンセットでつまんで交換するのだが、5秒で出来ることもあれば、今回のように2時間格闘したこともある。

 いずれにせよ、インクと薄いゴム一枚隔てた位置に大量の金属部品を使うことの愚かさをつくづくと感じた修理経験だった。

 スノーケル機構の先端での失明事故があってスノーケルの製造を中止たと伝えられているが、もし中止していなかったらライフタイム保証をぶちあげていたSheafferはスノーケルの修理費用で倒産していたであろう。

 下手な設計は会社を滅ぼしかねない。もし現代にスノーケル機構を復活させるのであれば、すべてを樹脂で実現する必要がある。もっとも非常に複雑な機構の割に吸入できるインク量はごくわずかなで魅力は少ないかも知れない・・・



【 今回執筆時間:11.0時間 】 画像準備3.5h 調整6.0h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
  


【これまでの調整記事】

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2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
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2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 
Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
ヒントをありがとうございます。定例会、是非一度参加させてください。
次回の参加要項などはどこを見ればよろしいのでしょうか?
Posted by 目黒のハチドリ at 2009年12月31日 18:16
目黒のハチドリ しゃん

WAGNERの定例会に参加すれば、その場で全てお見せできますぞ。
ゴム板で強く握るだけじゃが、その前にやることがある。
Posted by pelikan_1931 at 2009年12月31日 15:46
初めてお便りします。いつも楽しく読ませて頂き参考にさせて頂いております。ありがとうございます。
さて、私もこのスノーケルという万年筆を、アメリカが産んだ20世紀屈指の"ジョーク"と信じて疑わない1人です。まあ、ブリキ製のメカの是否はともかく、先生も度々ご指摘されるとおり、巻きニブの独特の書き味は素晴らしいし、カラフルなプラスチックボディに付属するメタルパーツやキャップの構造、クリップなど各部位が実によく出来ていて今更ながら感心します。ミッドセンチュリーのアメリカを愛する私としては、まさに愛すべき道具のひとつなのです。で、実は私も自分で出来ることはやろうと挑戦し、これまで何度か"力"の加減が分からずに何本もオジャンにしてきたクチです。そして今、また1本古いスノーケルを手に入れ、先生のご指導通りまさにブリキ製のサックカバーからこびり付いた古いゴムサックを排出しようとしております。案の定先端の樹脂製キャップも簡単に抜き取れません。そこでご教授願いたいのですが、ハンマーで叩き出す際に、金属カバー本体はどのように「固定」していらっしゃるのでしょうか?カバーの金属自体が非常に柔らかく変形しやすいので、ペンチや固定台で挟む事が出来ませんね。また金属カバーに付属しているバネ留めのリングは可動性なので、凹凸の無いカバー本体の梃子としては使えません。スノーケルパイプ受けの樹脂製キャップはO-リングやガスケットのように簡単に手に入らないので無理をして引き出して壊したくないし・・・。
どうぞ、悩めるスノーケル好きに是非適切なご指導をお願い致します。
Posted by 目黒のハチドリ at 2009年12月31日 15:16
みーにゃしゃん

ラウンドニブのスノーケルにしなされ。そちらは機構の精度が高い。
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月10日 23:25
こんばんは!!
ひゃぁ〜!めちゃめちゃご苦労をおかけしてしまって申し訳ありませんでした!

このタイプのニブは初めてだったので、譲ってもらって浮かれていたのです♪・・・が、こんなにご苦労をおかけしてしまったとは恐縮です。

動かないスノーケルは哀れで、でも師匠ならきっと直してくださる…と希望を持っていたのは間違いではなくって本当に嬉しいです。
再会できるのが楽しみです。

スノーケル、設計ミスというのは残念ですが納得です。
好きなのは変わりませんが…♪



Posted by みーにゃ at 2008年01月10日 20:25
数秒から2時間までばらつくのじゃ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月09日 21:19
 手元にインクをきちんと吸入するのかしないのか、よく分からないスノーケルが2本あるのですが、Oリングの交換に大いに時間を要する場合があるということですと、修理をお願いするのがためらわれますね...。
Posted by monolith6 at 2008年01月08日 19:10