2008年02月16日

土曜日の調整報告 【 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか? 】

2008-02-16 01 今回の生贄は1950年代前半のMontblanc No.142 14C-O。OFとかOMではなく、単にOというのもあったとはな。

 外見はけっこう綺麗。リングの緩みもほとんど無い。インク窓がインクのシミで見えなくなっている以外はまったく問題はない。

2008-02-16 02 こちらはペン先。ペンポイント先端が衝突して、スリットがO脚状態になっている。これでは毛細管現象が働かない。この状態ではインクはペンポイントまで誘導されないで、途中で止まってしまう。

 拡大画像を見ると、ペン先はOM程度だと思われる。オブリークのニブを極端にいやがる人もいるが、右に倒して書く癖のある人以外には全く問題はない。

 書き癖に合わせてペンポイントの接紙角度を若干調整すればよい。わざわざペンポイントを真っ直ぐに研ぐ必要はない。それどころは、通常ニブよりも表現力が高いので、装飾文字を書くときなどには非常に便利。

 左利き用とか、左捻り筆記用とか言われているが、カリグラフィー用と考えた方が正しいのじゃ。

 ただしペン先を右に倒して書く人にだけは使いにくい・・・書き出しで100%掠れてしまう。今回は多少右に倒す傾向がある依頼者なので、真っずぐに研ぐことにした。


2008-02-16 03 こちらは横顔。なんとペン先とペン芯が離れているのがわかる。しかも半端ではない。これもインクが切れる要因のひとつじゃ。

 左下の図を見ると、水が途中までしか届いていないのがわかろう。ただ、ペンを下に向けて書く場合には、いったんインクが出始めれば問題にはならない。スリットのO脚の方がはるかに根深い問題なのじゃ。

2008-02-16 04 この個体は首軸が外れない・・・コルク交換は首軸を外して前からコルクを押し込むのだが、それが出来なかった。そこで、後からピストンを引っ張り出したのが左の画像じゃ。

 コルクが痩せてインクがピストン機構まで回り込み汚れに汚れている。吸入機構はアルミ中心の素材なのでインクが後ろに回ると溶けてしまう可能性もある。コルクのメンテナンスは必須! ところが首軸が外れなければ簡単にはいかない。

2008-02-16 05 今回は仕方ないので、後ろからコルクをねじ込む事にした。通常は途中にある尻軸をねじ込むメスネジの部分でコルクがボロボロになってしまう。そこで今回は特殊な技を使ってみた。

 コルクを自転車用のサイクルオイルに漬け込み、その後でじわじわと軸に押し込んだ。真っ直ぐに押し込むとネジでボロボロになるので、ゆっくりとねじ込むようにするのじゃ。

 1時間ほどかけてねじ込んだ。いったん胴軸の中にコルクが入れば、またふくらんでピッタリと密着する。さらに胴軸に水を吸い込んで1日ほど置けば完璧。

 コルクピストンの萬年筆は、常にコルクが水分に接していることが重要。インクは使った分だけ毎日補充しておけば、10年間くらいはコルク交換は不要じゃろう。
拙者はそんな面倒な萬年筆はゴメンだがな。

2008-02-16 06 こちらが調整前のペン先。見事なO脚!出荷時点でこのようなO脚を見逃すはずはないので、購入後、落とすか、ぶつけるかして曲げてしまったのを、素人技で直したのだろう。しかもそれを拡げようとして、サンドペーパーを中に入れてゴシゴシ擦ったのではないかな?昔拙者もよくこんな状態にしたものじゃ。

2008-02-16 07 拡大してみると、どうやら上側が曲がっている。しかも曲げたあとで、削っている。従って曲がっているのに、トップの位置はそろっている。

 ピストンの状態からして、プロの仕業ではないが、調整の未経験者ではない。中途半端な知識を持った人が、手に負えなくなって放出したものと考えられる。こういうのが一番始末が悪い。入手するなら実績のあるSellerから入手するのが良かろうな。

2008-02-16 08 こちらがスリット調整後の画像。正直大変だった・・・

 もっと大胆に曲がっていれば直すのは簡単なのだが、ホンの少し曲げるというのはけっこう難しい。一回曲げたのを、もどして曲げ直すというのでは仕上がりが美しくない。

 一回できっちりと曲げる必要がある。なんとかうまくいった。オブリークを真っ直ぐに研ぐのは、慣れれば簡単。上から見た形状だけではなく、ペンポイントの腹の研ぎが腕の見せどころ。ぜひ実験されたし。

2008-02-16 09 こちらが横顔。上の方で述べたように、オブリークはカリグラフィー用途も考慮して作られている。従って、ペンポイントは薄く、横が細く、縦が太い字巾になる。

 すこし角度を変えてScanしたが、ペン先とペン芯との間の隙間が無くなっているのがわかろう。今回は薄いペン芯なので、ペン芯の方をお湯に入れて柔らかくし、上に反らして冷水で固定した。


 コツは多少反らせを強くし、ペン芯の上にペン先を乗せて首軸に突っ込んだ際、ペン先が左右に開き気味にする。そしてその状態でお湯に浸けると、ペン先がもとに戻ろうとする力で、ペン芯の反りがだんだんと少なくなる。適当な位置に来る一瞬前に取り出して冷水に入れ、位置固定するのじゃ。

2008-02-16 10

 最後の研ぎは、書き癖に合わせて多少番手の小さいペーパー(粗め)で研ぎ、金磨きクロスで8の字旋回でバフがけした後、ペン先のスリットを十分清掃する。この清掃が足りないとゴミが残って、インクが出ない。
 最後に紙の上でインクの出を確認し、書き出しでインクがスキップすれば、5000番の耐水ペーパーの上で、5个曚匹覆召譴于魴茲垢襦お試しあれ!


【 今回執筆時間:7.5時間 】 画像準備2.0h 調整4.0h 執筆1.5
h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
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2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
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2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
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2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 



Posted by pelikan_1931 at 12:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
たぶん、それらが重合してなったのでしょう。
あれでインクが出たら、悩みます。
Posted by 二右衛門半 at 2008年02月17日 23:26
二右衛門半しゃん

万年筆設計者の性(さが)として、ペン芯とペン先を離した設計はしませんから、ペン芯がお辞儀したか、ペン先が反ったか、ペン先の湾曲がきつい/ペン芯の押さえが緩くなってペン先が浮いたかですな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月17日 23:04
うちの手元に古い国産でペン先とペン芯が1cm近く離れているものがあります。
詳しい計測をしていないので実際には5mmぐらいかもしれませんけど、ここまで離れているのは初めて見ました。
まるでツバメの雛のくちばしみたいです。

整備しても使えそうにない品なので、なおしませんが、資料としては却っておもしろいかも・・・
Posted by 二右衛門半 at 2008年02月17日 19:15
venezia 2007 しゃん

この個体で、コルクを後ろから入れるのに長時間かかった。計画中のあの方式を用いれば、すんなりと入りそう。期待大ですな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月17日 17:01
師匠、
ピストン機構とペン先、ペン芯に問題のある3重苦の相当の難物だったことが良くわかりました。「外見は結構綺麗。」に騙されるというか、購入時に物理的に細部までチェックできないので、防衛手段としては実績のある所からの購入なのでしょうが、相当しっかりした所と思える所から入手しているつもりなんですが、昨今は全てのものについて細部まで見ていないのかもしれません。スリット調整については、どのようにしてこのように生き返らせることができるのか想像もつきません。ただただ感嘆です。後は、自分で最高の維持管理をしてこの後長らく存命させることで、瀕死の状態から生き返らせて頂いたご恩に報いないといけませんね。ありがとうございます。
Posted by venezia 2007 at 2008年02月16日 14:44