2008年02月20日

水曜日の調整報告 【 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 】

2008-02-20 01 今回の依頼品はPelikan 100Nじゃ。ごく普通のグリーンマーブル軸なのだが、なんとなく怪しい雰囲気を漂わせている。萬年筆研究会【WAGNER】の裏定例会でも、さんざんと話のネタになった一本!Pelikanに詳しい人ほど【怪しい!】というのだが、決定的証拠がない・・・結局は誰も結論を出せないまま生贄になってしまった。

2008-02-20 02 ペン先の刻印を見ると、文字がなんとなくぎこちない。ただ、第二次世界大戦直前に作られた物であれば、それもありかな? そもそも、刻印機の前に14金製のペン先こそ供出させられたのではないか・・・など様々な意見が出たが、だれも結論を出せないまま灰色決着した。

 こんな面倒なペン先など、誰も偽造はしないだろう・・・というのが結論。すなわち疑いは晴れた!

2008-02-20 03 ペンポイント周囲を拡大してみると、スリットは先端部で両側から押しつけられている。これではインクの出が極端に悪いはずじゃ。しかも先端部に紙の繊維のようなものが詰まっている。これでは字形が崩れてしまう。

 非常に綺麗に研がれたペンポイントだが、スリット調整だけは必要らしい。ペン芯の位置は絶妙で文句の付けようがない。

2008-02-20 042008-02-20 05 横から確認しても非常に美しく見える位置になっている。こういう綺麗なセッティングが出来る人はそう多くはない。

 ペンポイントはクーゲルというだけあって、丸い形状をしている。こんなに丸い形状のニブには初遭遇じゃ。シャイベンとはまったく違った形状に研ぎ上げられている。良い物を見せてもらった・・・

2008-02-20 06 このように簡単にピストン機構が外れるのがPelikan 100からの伝統。

 400からは
外れなくなったのは残念だが、Pelikan 100の復刻版【Peikan 1931】などでは、同じようにピストン機構を右にねじれば外れる。お試しあれ。

2008-02-20 07 このペン芯は非常にシンプルなデザイン!まるでPelikan 100のペン芯のよう・・・ 

 ただし拙者は100も100Nも持っていないので、どれが正しいか言い当てることは出来ない。

2008-02-20 082008-02-20 09 左が調整前のニブの表裏で、右が調整後のペン先。

 ペンポイントの反射を避けるために、左右二方向からスキャンしている。

 この画像でもわかるように、多少の傷は金磨き布でゴシゴシ擦れば、すぐに消えてくれる。ただしゴシゴシ!に際しては必ずインクを抜いてからやって下され。インクや水分が軸に残っていると金磨き布が悲惨な状態になりますぞ!

2008-02-20 11 これがペン芯にセットした状態でペン先部分を拡大した画像。ちゃんとペンポイント部分に隙間があるのが分かるであろう。こうすれば、少なくとも、書き出した後のインクフローの問題は無くなる。

 あとは最も重要な、書き出しの掠れが無いようにする調整。筆圧が下がるにつれて、また、ペンを寝かせて書くようになるにつれて、書き出しの掠れの確率が高くなるのじゃ。この掠れには多くの人が悩み、また調整師もそれぞれに秘技を持っている。いわゆる腕の見せ所!

2008-02-20 12 拙者の場合は、依頼者の筆記角度で320番の耐水ペーパーで荒削りし、その後で2500番の耐水ペーパーでで形状を整え、金磨き布でバフがけする。この状態ではインクは掠れる可能性が高い。そこで最後に5000番の耐水ペーパーでペンポイント表面に少しだけ傷をつける。従来はこれで終わりだったが、最近新兵器で仕上げをしている。

 書き出し掠れに最悪なのが15000番や10000番のラッピングフィルム。これらは小片を手に持ってエッジの引っ掛かりを落とす物であって、この上でペンポイントを擦ったらとんでもないことになる。間違わないようにな。



【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!

2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
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2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
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2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
たむさん しゃん

メーカーのペンクリは

【こびりついたインクを超音波洗浄機で製造して書けるようにする】
【切り割りを開いてインクフローを良くする】
【筆記角度や切り割りの関係で書き味が悪いのを研いで改良する】

という作業が中心じゃ。クリップの鍍金などは対象外なので期待しすぎないようにな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月24日 21:34
ありがとうございました。

万年筆に喜ばれるような人になれるよう頑張ります。
Posted by たむさん at 2008年02月23日 10:37
たむさん しゃん

萬年筆との付き合いは、若々し恋人との付き合い方ではいけない。
年老いた祖母に対する気持ちでお付き合いなされ。

必要なのはいたわりの気持ちじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月21日 06:15
裏定例会でのコメントから、90%以上は偽物かリチップ品なのかなあと思っていましたが、晴れて本物とご判定頂き、非常にすっきりした気分です。裏をかえせば、Pelikan については百戦錬磨のWAGNERの皆さんでも、見たことの無いへんてこ品ということは、かなり珍しいものと解釈できますよね。大切にします。所でペン芯のコメントですが、これを含めて100Nは3本ありますが、どれも同じ形でした。よってこの形が100Nの純正だと思います。
Posted by venezia 2007 at 2008年02月21日 00:01
やっぱりペンポイントって普通は丸くなってなきゃいかんですよねぇ。。
何なんだろうか分かりません。
ペンクリ行ってみます。
去年から、クリップの部分のメッキが浮いてきました。キャップを分解してクリップ部分を見てみたらサビが出てて、磁石にくっつきまして。。。どうでも良いけどちょっとショックです。
Posted by たむさん at 2008年02月20日 13:38