2008年02月27日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘 】

2008-02-27 01 今回の依頼品はすごかった・・・。調整と言うよりも修理・現状復帰準備作業に時間がかかった!

 物はMontblanc No.142。小振りでかわいいテレスコープ吸入式じゃ。この時代のMontblancはセルロイドの素材に問題があったのか、大いに痩せてくれる。キャップが痩せてボコボコになるのは仕方ないが、メスネジの部分がやせてネジがきつくなったりする。この個体ではキャップを尻軸方向からに真っ直ぐには挿せなくなっている。

2008-02-27 02 ペン先はスリットが詰まってインクの出が悪い。これはいつものこと。汚れも少なくてなかなか良い状態ではないか・・・と思ったのだが、それが大きな間違いであったことは後にわかる!

2008-02-27 03 ペン芯と首軸との位置関係はほぼOK。欲を言えばもう0.5ほど首軸内に押し込んだ方が良い。

 ペン芯の凹み部分がごくわずかに首軸から見えている状態が一番美しい。

 このペン芯は1950年代後半の厚いペン芯。こちらの方がフラットなペン芯よりもインクを保持する能力は高い。だが、多くの1950年代愛好家はフラットフィードを好んで使うようじゃ。拙者もそうだったがな・・・

2008-02-27 04 ペンポイントの拡大図を見ると、上から見て左側のペンポイント(左画像ではむこう側)が少しだけ下にズレていることがわかる。

 ペンポイントはほとんど摩耗しておらず、非常に良い状態じゃ。それが何故にオークションに安く?出たのか不思議に思っていたのだが・・・後にその理由はわかる!

2008-02-27 05 首軸もソケットも接着剤で固定してあった。厚いお湯を入れた超音波洗浄機に長時間かけてから作業したので外れたが、そうでなかったら尻軸側からのコルク交換というハイリスクな作業をやらねばならなかったはず・・・

 こんな所に接着剤やパテを使うなんて言語道断じゃ!Vintage萬年筆の修理は、遠い将来の修理まで考えてやらなければならない。【この萬年筆はオレ一代だから・・・】なんて甘い考えはいかん!休死したらコレクションは全て処分されると考えた方がよい。そういう時には接着剤で固定された萬年筆は二束三文になってしまう。Vintage萬年筆は修理されながら使われるのじゃ!絶対に接着剤で固定してはいけない。インク漏れくらいは我慢せよ!

2008-02-27 06 これこそがこの萬年筆が手放されることになった理由。べっとりと紫色のインクがついている。これは萬年筆用のインクではない。胴軸内に残った同じインクは、スポンジのようにプワプワしながらこびりついていた。

 ロットリング洗浄液にも溶け出してはこなかった。化学療法はあきらめて、ヒゴで削ぎ落として、それをピンセッで除去するという・・・気の遠くなるような作業を行った。

 ちなみに上図下側のペン先画像は、清掃とスリット調整を施したペン先。見違えるように綺麗になったのがわかろう。

2008-02-27 07 弁は通常のコルクから樹脂に変わっている。その樹脂に亀裂が入ってインクが後ろに回っていた。それを除去して、ここまでになった。

 あとは弁の代替品を見つけるだけじゃ。ここで今回は新兵器を
試みた。

2008-02-27 08 左が修理用のコルク。多少外径は大きくなっている。これをサンドペーパーで削って弁として使用するのじゃ。

 今回は耐久性を考え、シリコン樹脂で弁を製作してもらい、それを削って大きさを合わせようかと考えたのだが・・・見事に失敗

 シリコン樹脂が柔らかすぎてサンドペーパーでほとんど削れない。どんなに強くサンドペーパーに擦りつけても削れない!この作業は6時間が経過した段階であきらめてコルクを使うことにした。徒労の6時間!しかしこれで新たな配合のヒントが得られた!耐久性を考えると、このシリコン樹脂の弁はどうしても完成させねばならないのじゃ。

2008-02-27 09 さらなる問題点を発見!尻軸をねじ込む部分に亀裂が入っている。筆記にはいっさい問題はないが、亀裂が大きくなってはやっかいじゃ。

 そこで【アロンゆるみ止め】をクラックの中に挟むようにして接着。これで空気が漏れるようなことはない。一番危ないのは胴体洗浄の際に、クラックから水分が胴軸内に染みこみ、テレスコープ機構を腐食させる事。クラックを甘く見てイカンのじゃ。

2008-02-27 10 こちらが首軸に装着したペン先。スリットの具合もペン先とペン芯との位置関係もほぼベストじゃ。

 これくらいスリットが空いていれば、人並み外れて筆圧の低い依頼者でも、書き出しでインクがスキップするような事にはなるまい。ペンポイントに独逸製5000番の耐水ペーパーでかすかに傷を付けると、書き出しでのスキップが嘘のように消える。お試しあれ!

2008-02-27 11 こちらがペンポイントの研ぎ。ペンを寝かせて書く依頼者に合わせて、かなりペンを寝かせた位置にスイートスポットを作ってみた。

 持った人にしかわからないスイートスポットというのは、調整師にとって密かな楽しみなのじゃ。依頼主が気付くかどうかワクワクしながら試し書きを見入ってしまう。



【 今回執筆時間:14.0時間 】 画像準備2.0h 調整10.0h 執筆2.0h

画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

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2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆