今回の依頼品はMontblanc No.32。拙者は1960年代のMontblanc 二桁番の修理は得意ではない。ペン先にある金属の出っぱりが指にあたって痛いから・・・従って、よほど興味のあるモデル以外の修理はお断りしている。軸内部の吸入機構も弱く、すぐに吸入機構が死ぬ場合もある。書き味は良いが、素材的には感心できるモデルではない。
ただし、このNo.32に関しては、ペン先内部の金属のデッパリが無いので、安心して修理できる。
ペン先が小さいので【学童用安価モデル】と言われているが、通常の二桁番のウィングニブとは違った書き味が楽しめる。
拙者が唯一好きな1960年代モデル。この時代はNo.149であっても、軸が割れやすいのでお奨めは出来ないのじゃ。 症状はペン先を裏返して、ペン芯に押しつけないとインクが出てこないこと。
こういう場合にすぐに思いつくのは、ペン先とペン芯が離れていること。ところが図のようにまったく問題はない。こうなってくると、次はエボ焼けの状況の調査に入ることになる。 ところがこちらも左画像のように、表・裏とも特に酷いエボ焼けがあるわけではない。
そうすると次は書き出しの筆記角度と、インクを疑う事になる。
この依頼者はMontblancのブルーブラックが大好きで、数多くの萬年筆に入れている。ところが、このインクはインクフローの変化が激しい。
紙によっては必ず書き出しで掠れる事もある。ロイヤルブルーならまったく掠れないのに、インクをブルーブラックにしたとたん、掠れたりする。ところが、その掠れるインクで相馬屋の原稿用紙に書くと、まったく掠れない!
ようするに、紙とインクとの相性というのは大きい!ということじゃな。好きな色なのに、インクフローが悪い場合、紙を変えるだけで潤沢なインクフローが楽しめる可能性もある・・・かも? とりあえず、スリットは多少拡げておいた。また筆記角度に自由度が出るように、書き出しで紙にあたるポイントを若干粗めに研磨しておいた。
これによって書き出し時にインクが表面に残っている確率が大きくなり、書き出し掠れがガクンと減るはずじゃ。
それにしても、ほれぼれするほど美しいペン先!企業ロゴなどは奥に隠されており、【585】と金の含有率だけが表示されている。スリットを多少拡げたことによって、エッジが引っ掛かる角度も出てきたので、慎重にエッジ処理を行った。
今回より、耐水パーパー、ラッピングフィルムに続く、第三の研磨素材を実験してみた。今までの研磨素材は削ることに重点が置かれていたが、今回より試行を始めた物は、表面はラッピングフィルムよりは粗いが、8の字旋回を50回やって、初めて多少削れる程度。すなわち、ほとんど削れない事が自慢の研磨素材なのじゃ。
本当に大丈夫との確信が持てたら、このBlogで紹介しよう!しばし待たれよ!
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.0h 調整1.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間