水曜日の調整報告 【 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ? 】
今回の依頼品は、古くからの友人の所有物。ずいぶん前に仏蘭西で購入したらしい。名前は【Waterman ラプソディ グリーンマーブル】。日本では定価45,000円で販売されていた。
ベースは【ル・マン200】で軸の素材を変えたもの。【キャビア】という多少下品な模様のものもあった。
【ル・マン200系】は、あまり騒がれることは無かったが、非常にペン芯の設計がすばらしいモデルで、【ル・マン100】よりもバラツキが少なくて好きだった。ただ、このラプソディ系は、通常モデルより値段が高いのが気になって一本も購入しなかった。

依頼品のどこに不具合があるかといえば、首軸の金具が軸に密着してしまい、カートリッジを取り替えようと首軸を捻ると、黒い樹脂の部分が外れて
首軸の内臓が出てしまうということ。
図では緑の軸部分と金色の首軸金具との間に隙間が見えるが、これ以上首軸を締めることも、緩めることも出来ない状態!これは重傷!
当初は漏れた
インクがネジの部分で乾燥して接着剤の役割を果たしているのかと考えていたが、そんな甘い密着度合いではない。どう考えても
軸の素材が収縮してしまったとしか考えられない。
一般的に
冒険的な新素材を使うときには、かなりのテスト期間が必要になる。【
大丈夫だろう〜】という楽観的な読みは、重大な結果をもたらすことになる。【
ラプソディ】があまりの短時間でカタログ落ちしたので不思議に思っていたのだが、こういう不具合を隠そうとしたのじゃな。
当時
コンプライアンスはそれほど重視されなかったので、うやむやにされたのだろう。今なら正直に告白しておかないと、会社が潰れるほどのインパクトになるぞ!

長期間使っていなかったせいで、ペン先の根本にインク滓がこびりついている。首軸先端部が金鍍金なのは当時の流行だったが、これは大失敗。現在では首軸先端に金属を使ったら物笑いじゃ。
ル・マン100でも、この金鍍金部分がフケのようにハラハラと剥がれているのを何度も目撃した。たとえカートリッジ式であっても、コンバーターを使えば、インク瓶に首軸を浸すのでな。
ペン先の形状は先細で実に美しいし、繊細な書き味を提供してくれる。またボディ全体を見ても、まったくデザインの破綻がない。キャップを後ろに挿した状態で最も美しいシルエットとなる!

こちらは横顔。ペンポイントの形状もなかなか良い。ウォーターマンは日本市場で売られているものは驚くほど品質がよいが、本国では酷いと言われていた。拙者も仏蘭西土産でもらったル・マン200の切り割りズレなどを経験した。だが、このラプソディには、そういった不具合はなかった・・・軸の痩せ以外は・・・
98度の熱湯に浸して軸を膨張させて捻ったら首軸部分は外れた。ものすごく硬かった・・・これほどまでに軸が収縮していようとは思わなかった。この時点で、完全復活はあきらめた。少しは回るようにするのがせいぜいだな・・・と感じた。

まずは首軸内部の清掃をして、インクが通るようにする必要がある。超音波洗浄機に熱湯を入れて10分。その後でロットリング洗浄液に2日間。再度超音波洗浄機に部品単位で入れて清掃。最後は綿棒にロットリング洗浄液を浸してゴシゴシ擦る!
これで完璧に美しくなる。特にペン芯の溝は念入りに!場合によっては
スキマゲージでスリスリする。

上が調整前のペン先。清掃後であってもこれほどスリットが詰まっていては、満足にインクは出てこない。
それに対して調整後はごくわずかだけスリットを開いた。萬年筆愛好家と違って、ツユダクのインクフローを好むわけではないので、【
にゅるにゅる】とインクが出る状態にしておいた。
これ以上スリットを拡げると、筆圧が相当弱くなければ使いこなせなくなるのでな。

胴軸内部のインク滓を取り除き、多少研磨し、時計用のシリコンオイルをネジ部に塗っても首軸金具は最後までは胴軸にねじ込めない。上の画像のようにごくわずか
スキマが空いてしまう。
そこで、この部分にOリングを嵌めてみた。これが大正解。キャップの嵌り具合も格段に良くなった。実は、首軸を握って捻っても、以前のように
内部機構がバラバラにならないよう、首軸と首軸金具は強力なパテで接着してある。二度と分解できないので通常はやらないのだが、この萬年筆を少しでも長い間使ってもらうには、これしかない。いわゆる若干の延命を図ったわけじゃ。
それにしても。これほど激しい収縮はセルロイドでもめったに発生しない。よほど懲りたと見えて、Watermanは二度と同じような素材は投入してこない。ちゃんと教訓が語り継がれる社風なのだろう。
ワンマン経営の会社では、社長が教訓を忘れると、下が文句を言えない状態になり、結局教訓が生かされない事も多い。萬年筆各社で、そういう事が無いのを祈るだけじゃ。結局しわ寄せは、利用者と株主に行くからな・・・【 今回執筆時間:5.0時間 】 画像準備1.5h 調整2.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(16)│
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萬年筆調整
shideしゃん
東京勤務ですか! 大歓迎です! お待ちしています。
ご返事ありがとうございました。
昨年末、首軸のシルバーとバンブーブラックのコントラストの美しさに負けてモンテの1931エキストラを購入してしまったのですが…まあ気にせず使うことにします。
モンブランやアウロラのシルバーモデルが首軸までシルバーにしてないのはそういう訳なんですね。限定品にはあるようですが。
私事ですが、4月から上海→東京に転勤になりそうですので定例会のほうにお邪魔させていただけたらと思っております。よろしくお願い致します。
shide しゃん
銀は、酸にやられる以前に、黒く変色するので、首軸の素材としてはダメですな。上にクリアラッカーでも塗ってれば別ですが。
はじめまして。
146を10年近く使っておりましたが、最近万年筆沼にはまりつつある者です。
やはり首軸が金属のものは樹脂のものに比べて耐久性が落ちるのでしょうか。
最近首軸が金属製のものをわりと見かけるように思います。
ゴールドやチタンなら腐食されないでしょうけど、シルバーなんかはどうでしょうか。
ご教示いただければ幸いです。
うちのところのマン200黒軸、首軸の樹脂が割れて金属リングがその下の樹脂毎外れます・・おそらく金属腐食と関係があると思うのですが・・・ですから安心はできないと思います。
pelikan_1931さん
御返答有り難うございました。これで安心して、ル・マン100を使用できます。ただし、金属パーツの腐蝕をのぞいてですが....。
きくぞう しゃん
拙者がPilotで経験した軸痩せは、カスタム・ベッコウのグレー軸。ただし径が細くなるのではなく、丈が短くなること・・・
どうやらマーブル模様で、別の組成の材料を混ぜ合わせたものは、要注意ということになりそうです。
sayarika しゃん
酒井さんの軸なら胴もキャップもエボナイト製なので共摺りは良い方法ですな。
monolith6しゃん
軸収縮はエボナイトであっても多少は発生するので、完璧を期すなら、プラチナ90周年記念のような、カーボンファイバー製しかないでしょうな。
あれは軸としては最高です。軽すぎて拙者にはつらいものがありますが・・・
Bromfieldしゃん
ル・マン100や200はNASAプラスティック製なので大丈夫じゃ。
このラプソディに限っての不具合じゃ。
私の一番大切な萬年筆であるパイロットのカスタムグランディは、主軸先端部に金メッキの輪がはめてあります。インクはカートリッジのBBでした。
20年も経過すると、メッキは剥がれて白いステンかアルミの地金が露出しています。樹脂製のボディですが、痩せは発生していませんから、プラスティックだからと言うのではなく、あまたあるプラスティックの どれを使ったか によるのではないかと思います。
monolith6さん
御返答有り難うございました。少しでも金属腐食を送らせるためには、カートリッジの使用が無難との理解をいたしました。
さて、最初の書き込みについてですが、ラプソディ発売当時生産されていた他のウォーターマンの万年筆にも、同じプラスチック素材が使われていたのでしょうか。同様の軸痩せの現象がル・マンの他のシリーズ、例えば100などで起こっているのか、気になります。また「某ステイタス・メーカーの製品であるにしても同じ」ように、現行品に至るまで軸痩せが起きているのでしょうか。この点もご教示いただければと存じます。
1986年前後に近鉄デパートが発売した兜木銀次郎ペン先、坂井英助ボディの万年筆を買いしばらく使用しないまま10数年後に使用しようとしたら、ボディと首軸のネジがひどく硬くなってしまい、なんとか緩めることはできたのですが、そのまま締めこむと胴軸の先が割れそうで困った経験あり。軸のプラスティックが収縮したのですね。それで、金型などの研磨仕上げに使用するダイヤモンドコンパウンドの1,200番をネジ部に少しつけ、少しずつねじ込んだり緩めたりを数十回繰り返したところ、うまく共摺りでクリアランスができ、後はコンパウンドを洗剤で洗い落としたら、非常にスムーズに程よいトルクで開け締めする事ができました。ねじ山を再生するのは大変ですが、研磨剤で共摺りするのは道具も不要で簡単且つ安全ですので、一度試されてはいかがですか。
Bromfield さん、インクを吸入する以上、100とかであっても金属の腐食は不可避だと思います。たとえばパイロットなんかが、首軸先端部に金環を付けないのは、こういうことで発生する不具合を回避するためであると聞いたことがあります。私も金環はあくまで見てくれの良し悪しには貢献しても、長持ちという観点からは全く意味をなさないものであるという認識です。
やれやれ、ウォーターマンが何でも軸を金属で作る理由が分かった気がします。かねてから関心を寄せていたプラスティック軸のラプソディでしたが、収縮してしまうのですね。現在、プラスティックで作っているのはチャールストンだけですが、その他は全て金属製の軸。それにしても一流メーカーのくせして、プラスティックの素材管理さえ満足にできないとは、一体どうなっているのか、と呆れます。尤も、このような体たらくであるのは、某ステイタス・メーカーの製品であるにしても同じですが。
以前から、首軸先端に金属の腐蝕については、多くの万年筆についてうかがうことはありましたが、今回ル・マン200の軸痩せについて、初めて知りました。
そこで疑問に思ったのですが、これはル・マンの他のシリーズ、例えば100などにも現れる現象なのでしょうか。また金属の腐食を避けるためカートリッジを使用するのが、唯一の解決策なのか。それとも、ブルーブラックなどの特定のインクを避ければ解決するのか、などの点です。
ご教示いただければ幸いです。