2008年03月22日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・ 】

2008-03-22 01 今回の依頼品は、Montblanc No.254じゃ。樹脂の素材に問題があってキャップにクラックが入りやすいという問題点はあるものの、書き味という点ではすばらしい素質を持っている。

 最近、どの時代の萬年筆が良いか?と良く問われるが、拙者は常に、【現行品が最高じゃ】と答えている。嘘ではない。正確なデータに基づいている。

 この【調整報告】を読んでみればわかるが、修理や大幅改造が必要なのは、ほとんどが1950年代や1960年代のもの。それ以降のものもペンクリには大量に持ち込まれてはいるが、ちょろちょろと修理すればすぐに終わるので、持ち帰り修理・調整したものを掲載する【調整報告】には出ない・・・

 一方で1950年代や1960年代の物は、ある程度の修理をしなければ使い物にならないということになる。

 ただし、それぞれの時代の貨幣価値と萬年筆の販売価格を比較してみると、どれだけ手をかけて作られているかはおおいに違う。昔の萬年筆の方が相対的にははるかに高価!その分だけ【ペン先】の基本性能だけは、昔の方が優れている場合もある。それが1950年代や1960年代MontblancPelikanということじゃ。

 往年のスポーツカーが良いか、現代の大衆車が良いかという比較になろうか?しかも比較するのがスピードや耐久性、乗りごこちではなく、エンジン音の美しさ・・・という感じかな?

2008-03-22 022008-03-22 03 こちらが調整前のペン先の拡大図。拙者の好みから言えば、ペン先をもう少し胴体に押し込んだ方が良い。イカペンの首が見えるのは、ももひきの裾が見えているようで下品じゃ。

 またスリットは徹底的に詰まっている。これではインクフローが不十分で、【官能に溺れるような書き味】にはならない。

2008-03-22 042008-03-22 05 このままの状態で書いてみると、最近はやりの【上品さに欠ける】書き味じゃ。

 いわるるスイートスポットが無い・・・無いとどうなるかと言えば、長い横線や縦線を真っ直ぐにひいていると、途中で線の太さが不規則になる感触がある。自分の筆記角度にマッチした平面(あるいは平面と感じさせるような非球面)が形成されていないので、【線の端(上下または左右)がボロボロ】になってしまう。そしてインクフローが少ないので、それが強調されてしまう。字が多少下手に見えてしまうのじゃ。

2008-03-22 06 左図は分解してみたもの。No.25XPelikan 100100Nと同じく、専用工具無しで分解できる。これはピストン吸入式を修理しながら長期間使うには必須の条件じゃ。当時はそれが常識だったはず。

2008-03-22 07 何故なら、ペン先ユニットに接着剤のカスがついていない。これはネジの精度でインク漏れを防ぐことをねらったわけではなく、何度も分解清掃することを前提としていたからじゃ。

 現代の車は運転を制御する部分はブラックボックス化されている。接着剤で萬年筆を組み立てるのは、ブラックボックス化と同じ事で、基本性能は保たれるがチューニングには不向き。

 ちなみに、この個体は何度か清掃されているが、ペン先とペン芯を前から引っ張って抜き、あとで適当な位置に押し込んである。ペン先のスリットの延長上にソケットの凹が位置していないと、専用工具が使えない。使わなくても支障は無いが、美しくはない。

2008-03-22 082008-03-22 09 これがスリットを多少拡げた状態。イカペンのスリットを拡げるのは、以外と難しい。エラを持って両側に反らすと、スリット部分が凹んで光の反射が美しくない。スキマゲージでスリットを拡大したあとで、サンドペーパーで荒れた部分を丁寧に落とし、最後に金磨き布に擦りつけて仕上げじゃ。

2008-03-22 10  こちらがソケットに取り付けた状態。これを首軸内部にねじ込む。最初にスリットの延長上にソケットの凹があることを確認し、 ある程度押し込む。そして専用工具でソケットをきっちりと首軸に押し込んだのち、ペン先とペン芯をゴム板でつまんで、グっと押し込む。

2008-03-22 112008-03-22 12 それが左図の状態。イカペンでは首が見えない方が美しい。

 ペン先をペン芯に乗せる前よりもスリットが開いていることがおわかりか?ペン芯をお湯に入れて多少反らせてからペン先を乗せ、再度お湯に入れてペン先の戻りでペン芯の反りが直っていくのを待つ。頃合いを見て水に浸けて戻りの進行を止める。まだ多少ペン芯の反りが残っていた方がペン先とペン芯の密着度合いは良い。


2008-03-22 132008-03-22 14 最後にスイートスポットを作り込んでいく。以前のポッチャリとしたペンポイントから、シャープな形状に変わったのがわかるかな?

 スイートスポットは粗いサンドペーパーの上で20文字ほど強筆圧で書いて、自分で書き癖を付けてもらった物で、書き癖を判断し、同じ角度でその3倍ほど削り込んだ上で、丸めを入れてある。これだと自分の筆記角度そのままなので、非常に上品な書き味になるのじゃ。

 これは丸めの技術があって初めて意味がある調整方法なので、Vintage萬年筆に対してはあまりやらないように!現行品でさんざん練習してからやるのが良かろう。

 ちなみに現行品にこの調整を施すと、Vintageよりもここち良く書けるようになりますぞ。なんども言うが、総合性能は現行品の方が上なので、インクフロー、ペンポイントの形状とも、普通の人にとっては現行品の方がはるかに手に合いやすいのじゃよ。


【 今回執筆時間:6.5時間 】 画像準備2.5h 調整3.0h 執筆1.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

  

【これまでの調整記事】

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Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
stylustip しゃん

いつでもどうぞ! 危険な匂いは好きなので。
危険な臭いはこまりますが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月26日 23:36
私の252ニブの書き味がお下品で手こずっています。
自力で何とかしたいのですが、危なそうな匂いがぷんぷん。
診察をお願いできませんか?
Posted by stylustip at 2008年03月26日 19:29
怠猫しゃん

じ、時代が・・・かなり逆行しているような・・・

拙者の時代は・・・上戸彩?
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月25日 22:01
こんばんは。
ちび猫はV8@1970年代の音に官能を感じます。
特にシェルビー・コブラ(500なら言う事なし!)
現行ならポルシェ959。
↑ま、ちび猫は後ろ足がペダルに届かないので無縁ですが...
ショーファー付なら、漆黒ファントム此
(エンジン関係なし。浪漫です)

え?映画女優は、
イングリッド・バーグマン。
キャサリン・ヘップバーン。
ジョディ・フォスター。
シャロン・ストーン。

日本人なら
吉永小百合。
原節子。
薬師丸ひろ子(若い頃!)。

最近、同世代の猫に隔壁を感じます。(爆笑)
Posted by 怠猫 at 2008年03月25日 21:49
榊 主水 しゃん

拙者は1970年代後半のアメ車の5リッターエンジンの音が好きじゃ・・・
書き味にたとええば、ぬらぬらではなく、カサカサじゃが。

昨日のWAGNERでもクラシックカーを何本も見たが、グレタ・ガルボとか、マレーネ・デートリッヒのような気品のある物が、多かった。

現行品はマドンナのような感じかな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月23日 06:37
4
言ってみれば、現行の車両で運転するか、ミッレミリアに出るようなクラシックカーを運転するか、と言うところでしょうか。

技量が必要なのはミッレミリアの方でしょうね。

そう言えばエンジン音が気持ちよく聞こえる現行車両ってなかなか見ない様な・・・。
Posted by 榊 主水 at 2008年03月22日 16:27