今回の依頼は赤軸と黒軸との間でのペン先交換じゃ。プラチナ#3776のギャザード軸は最近、黒リブ軸、赤リブ軸が復活した。消費税込みで21,000円というお買い得価格。
現行品で言えば、パイロット カスタム・カエデ(Pilot 65の時代からのお辞儀した10号ペンを持つ唯一の現行品)と#3776リブ軸はお買い得商品の代表!
特に#3776は購入時点からペン先のスリットが開いているので、インクフロー抜群。拙者ですら未調整で使っているほど!本日も赤軸・太字を入手した。コンバーターの棚吊り現象もほとんど無い! さて、依頼は黒軸についている極太を赤軸についている太字と交換すること。こちらの画像が黒軸についている極太。ペン先のスリットが詰まっていてインクフローが悪そう。ただしペンポイントの形状は実に良い。#3776は国産三社の中では、最も研ぎに癖がない。まるでParkerかPelikanの現行品の研ぎのよう。こういう癖がないペンポイントは調整がしやすいのでアマチュア調整師にはありがたい!
ペン芯は溝がはいった改良後のペン芯。
もっとも#3776のペン芯は40種類以上あるそうなので、明確には指摘できないが・・・とりあえず改良後/第二世代といっておこう。 こちらが赤リブ軸のペン先とペン芯。ペン芯は第一世代で、溝が入っていない。非常にシンプルだがペン芯の美しさでは、第二世代、第三世代に負ける。
拙者は現行#3776についているエラが張ってハート穴がハート型をしたペン先が一番好きじゃ。書き味も未調整なら明らかに現行品が勝っている。ただし美術品として見れば、初期の丸っこいペン先は軸の形状とマッチしていて好感が持てる。
この溝のないペン芯はインクが出ない、インクがあふれる・・・など大いにケチがついたものらしい。このあたりは、【万年筆の達人】の【鳥取万年筆博士】の章で取り上げられている。 左側が黒軸についていた極太ペン先の調整前と調整後の画像。上が清掃後調整前で、下が調整後。ペン先のスリットを拡げているのがわかろう。極太であれば、これくらいは開いておかないと書き出しでインクが出ない。なんせ依頼人は200人以上いるWAGNER会員の中で、書き出し筆圧の低さでは、間違いなくトップ3に入るほど・・・
右側は赤軸についていた太字のペン先。こちらはスリット調整は施していない。もともとスリットは適度に開いている。これは現行品でもそう。意図的にスリットを開いて出荷していたのかも知れない。実に良い具合なのじゃ。 二枚とも上が第二世代、下が第一世代のペン芯。上が黒軸、下が赤軸についていた。
比べると明白なように、第二世代の方が圧倒的に出来が良いし、手間もかかっている。第一世代でのインクの出の悪さを解消するためか、インク溝が一本から二本に増えている。
このような複雑なエボナイト加工が出来る職人さんがいなくなったのは非常に残念じゃ。伊太利亜ではまだエボナイト製ペン芯を作っているのに、日本や中国からは消えてしまった・・・もし、職人さんが残っていたら、その技術を残すべくお手伝いをしたいものじゃ・・・ こちらが交換が終了した後の画像。比較してみると、同じ14金でも色合いが多少違う。第二世代のペン芯に乗っていたもの(左側)は白が勝っているが、第一世代のペン芯に乗っていたもの(右側)は、金色が強い。おそらくは第二世代は改良の為に銀の配合を増やしたのであろう。減ったのは何か?おそらくは銅。なんで銅の量を減らして銀の量を増やしたのかは不明!価格ではなかろう・・・おおらくは美観であろうが・・・真意はわからない。
かなり頻繁に設計変更をするほど、この#3776にかけていたのであろう。
最近では子会社の【中屋万年筆】ばかりが話題になるが、プラチナ#3776は現行の国産万年筆の中では最高の状態で出荷されていると断言できる。特にB(太字)で、調整無しで問題なく書ける万年筆は(拙者にとっては)#3776だけ!
これでペン芯の見映えが良ければ言うことはないのだが・・・
【 今回執筆時間:6.0時間 】 画像準備2.5h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間