2008年03月24日

月曜日の調整報告 【 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換 】

2008-03-24 01 今回の依頼は赤軸黒軸との間でのペン先交換じゃ。プラチナ#3776のギャザード軸は最近、黒リブ軸赤リブ軸が復活した。消費税込みで21,000円というお買い得価格。

 現行品で言えば、パイロット カスタム・カエデ(Pilot 65の時代からのお辞儀した10号ペンを持つ唯一の現行品)と#3776リブ軸はお買い得商品の代表!

 特に#3776は購入時点からペン先のスリットが開いているので、インクフロー抜群。拙者ですら未調整で使っているほど!本日も赤軸・太字を入手した。コンバーターの棚吊り現象もほとんど無い!

2008-03-24 02 さて、依頼は黒軸についている極太赤軸についている太字と交換すること。こちらの画像が黒軸についている極太。ペン先のスリットが詰まっていてインクフローが悪そう。ただしペンポイントの形状は実に良い。#3776は国産三社の中では、最も研ぎに癖がない。まるでParkerPelikanの現行品の研ぎのよう。こういう癖がないペンポイントは調整がしやすいのでアマチュア調整師にはありがたい!

2008-03-24 03 ペン芯は溝がはいった改良後のペン芯。

 もっとも#3776のペン芯は40種類以上あるそうなので、明確には指摘できないが・・・とりあえず改良後/第二世代といっておこう。


2008-03-24 042008-03-24 05 こちらが赤リブ軸のペン先とペン芯。ペン芯は第一世代で、溝が入っていない。非常にシンプルだがペン芯の美しさでは、第二世代、第三世代に負ける。

 拙者は現行#3776についているエラが張ってハート穴がハート型をしたペン先が一番好きじゃ。書き味も未調整なら明らかに現行品が勝っている。ただし美術品として見れば、初期の丸っこいペン先は軸の形状とマッチしていて好感が持てる。

 この溝のないペン芯はインクが出ない、インクがあふれる・・・など大いにケチがついたものらしい。このあたりは、【万年筆の達人】の【鳥取万年筆博士】の章で取り上げられている。

2008-03-24 062008-03-24 06 左側が黒軸についていた極太ペン先の調整前と調整後の画像。上が清掃後調整前で、下が調整後。ペン先のスリットを拡げているのがわかろう。極太であれば、これくらいは開いておかないと書き出しでインクが出ない。なんせ依頼人は200人以上いるWAGNER会員の中で、書き出し筆圧の低さでは、間違いなくトップ3に入るほど・・・

 右側は赤軸についていた太字のペン先。こちらはスリット調整は施していない。もともとスリットは適度に開いている。これは現行品でもそう。意図的にスリットを開いて出荷していたのかも知れない。実に良い具合なのじゃ。


2008-03-24 082008-03-24 09 二枚とも上が第二世代、下が第一世代のペン芯。上が黒軸、下が赤軸についていた。

 比べると明白なように、第二世代の方が圧倒的に出来が良いし、手間もかかっている。第一世代でのインクの出の悪さを解消するためか、インク溝が一本から二本に増えている。

 このような複雑なエボナイト加工が出来る職人さんがいなくなったのは非常に残念じゃ。伊太利亜ではまだエボナイト製ペン芯を作っているのに、日本や中国からは消えてしまった・・・もし、職人さんが残っていたら、その技術を残すべくお手伝いをしたいものじゃ・・・

2008-03-24 102008-03-24 11 こちらが交換が終了した後の画像。比較してみると、同じ14金でも色合いが多少違う。第二世代のペン芯に乗っていたもの(左側)は白が勝っているが、第一世代のペン芯に乗っていたもの(右側)は、金色が強い。おそらくは第二世代は改良の為に銀の配合を増やしたのであろう。減ったのは何か?おそらくは銅。なんで銅の量を減らして銀の量を増やしたのかは不明!価格ではなかろう・・・おおらくは美観であろうが・・・真意はわからない。

2008-03-24 12 かなり頻繁に設計変更をするほど、この#3776にかけていたのであろう。

 最近では子会社の【中屋万年筆】ばかりが話題になるが、プラチナ#3776は現行の国産万年筆の中では最高の状態で出荷されていると断言できる。特にB(太字)で、調整無しで問題なく書ける万年筆は(拙者にとっては#3776だけ!

 これでペン芯の見映えが良ければ言うことはないのだが・・・



【 今回執筆時間:6.0時間 】 画像準備2.5h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
 


【これまでの調整記事】

2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!
2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
師匠へ

 なるほど見方を180度変える。つまり柔軟にその万年筆の特性に応じ
 て付き合うということですね。優等生の万年筆ばかりだったので、考え方
 が硬直化してました。純正インク、純正コンバータで何故だと正論で頭  が1杯になってました。反省します。せっかく買ったものですから、大
 事に付き合います。アドバイスありがとうございます。
Posted by モンブラン32年目 at 2009年03月08日 14:38
モンブラン32年目 しゃん

インクフローが悪くなる原因のひとつは、空気穴をインクカスがふさいでしまうこと。

インクに問題がある場合もありますぞ。修理するのもいいですが、パターンがわかっているなら、パターンに合わせてインクを補給してあげるのも手です。

自分に万年筆をあわすよりも、万年筆に自分を合わせてみては?
Posted by pelikan_1931 at 2009年03月05日 09:01
師匠へ

 私も黒ギャザード太字を買ったのですが、コンバーターのインク残量が少なくなると途端にインクがかすれて字も薄くなり、非常に書きにくくなります。個体差でしょうか?コンバータのはずれでしょうか?先日中屋万年筆のペンクリを受けてもだめなので、販売店を通じてメーカーに送ることにしました。書き味もよく、ペン先も良く、期待値が高かっただけに、ちょっとがっかりです。
Posted by モンブラン32年目 at 2009年03月03日 17:28
 こういったパーツのすげ替えで、一番問題になるのがペン芯根本と細管との接合部分の形状の違いです。この画像では、第二世代のペン芯が第一世代と偶々同じ形状で、しかもこれらのペン芯を受ける首軸の内部も、この形状とカギのように合わさる形状を持つものだったのですげ替えが可能でしたが、ここが異なる場合には、他に同様のパーツがない場合には首軸毎移植する以外にない訳で、色違いになってしまいますね。
Posted by monolith6 at 2008年03月24日 16:49