今回の依頼品はPelikan 140。小粒で強筆圧でこそ楽しめる逸品。Pelikan 140の開発意図が【強筆圧者の友】であったかどうかは定かではない。むしろPelikan 400の廉価版、あるいは、初心者用といった狙いだったかも知れない。
子供の筆記スタイルを見ていると、いかにも筆圧がかかりそうな握り方をしている。そういう人であってもPelikan 140だけはちゃんと使えそうな気がする。
拙者も大好きな萬年筆だが、筆圧をかけて線幅の変化を楽しむこと に徹すると大いに楽しめる逸品じゃ! 依頼品は14C-B付き。Pelikan 140のBニブはあまり中古市場に出てこないので見つけたらとりあえず購入しておくことをお奨めする。
ペン先表面にサンドペーパーで汚れを落とそうとした痕跡が残っている。またスリットは詰まり、ペンポイントは右傾斜に摩耗しているように見える。これはてこずりそう・・・という予感。
さらに裏側を見るとペン芯が異様に首軸に入っている。こりゃ、例の割れやすい透明プラスティックのソケットを使ったな!と即座に理由がわかった。いくつも症例を経験すると、見ただけで故障原因がわかる。
もっとすごい人もいる。数年前、centenaire26しゃんが堀切の久保工業所に行ったときのこと・・・【このル・マン100の・・・】と言いかけたとたんに【キャップの嵌りが悪いんだろう】と症状を当てられたそうじゃ。商品名を聞いただけで症状がわかる!こうなるためには、数限りない同様の修理をし、【○○のXXXは壊れやすい】を経験知として記憶する必要がある。恐れ入りました・・・やはりプロには勝てんな。 ペン先ユニットを分解してみると、やはり例のソケットが使われていた。今までに何度か紹介したが、ほぼ100%クラックが入り、ペン先がぐらぐらになっている。当時のPelikanは品質チェックをしないでこのソケットを市場投入したのか、あるいは、修理部品専業メーカーがとりあえず作った程度のものなのかはわからない。
最近、疑惑が深まっている。これほどまでに頻繁に出会うと言うことは・・・ひょっとして純正部品かも? いやいや天下のPelikanがこんな品質の物を世に出すわけがない・・・? こんな事で頭を悩ますとは・・・平和じゃのぅ ニブは首軸から抜かない状態でサンドペーパーで汚れを落とそうとしたらしく、根本を除いてザラザラ!これはスムーズにしないとかわいそう。一方で裏側はほとんど汚れていない。またペン先はかなり詰まっている。
当初右に傾いて摩耗していると感じたが、そうではなかった。左右の段差が大きく、右側のお辞儀が大きかったので、そう見えただけのようじゃ。これなら研磨は楽! こちらが清掃し、調整が終わったニブとそれをソケットに取り付けた画像じゃ。
ニブを金磨き布の上に(体重をかけて)擦りつけていると左の画像のようになる。汚れたペン先の清掃には、金磨き布に擦りつけるのが一番!たいていの傷は消えてしまう。金磨き布を手に持って擦るのでは時間がかかる。机に金磨き布を二枚に折って置き、その上に擦りつけるのがよい。
ソケットには現行M400用を使った。これが一番入手しやすいし、しっかりとホールドしてくれる。 Pelikan 140の書き味を楽しむには、あまりスリットを拡げすぎない方がよい。左のようにごくわずかに開いて、書き出し時の掠れを防ぐだけで良い。その後は筆圧の強弱で書き味を楽しめば、インクはポンプ運動によってどんどんとペン先に送り出されてくる。この書き味は溺れやすいので要注意!
最後に横顔の確認。Pelikan 140はペン先とペン芯との間に隙間が出来やすい。スキマが出来ると書き出しでインクが出ない状況が頻発する。また長い間書いていると、突然インクが途切れてしまう事もある。
構造上、ペン芯を上に反らす事は不可能。その場合はお辞儀を強くしつつ、スリットを拡げるという相互に矛盾する作業が必要となる。スキマゲージと指の力でひん曲げるわけだが、そう頻繁にはやりたくない作業じゃ。
【 今回執筆時間:5.0時間 】 画像準備2.0h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間