今回の生贄はMontblanc No.234 1/2Gじゃ。過去に一本だけ所有した事があるが、すぐにお嫁に行ったか壊したかしたらしく、使った記憶はない。また当然修理した経験もない。
左写真の個体は、ピストンを動かしてもインクを吸入せず、ペン先もズタズタ・・・という酷い状態だった。
直した経験も、直す自信もまったく無いが、【生贄】という事でお預かりした。左の図が全て分解した画像。内部構造がわからなかったので、ここに至るまでに既に1時間以上経過していた。
こういう未知の萬年筆に対しては、過去に分解した他社製品での事例を参考に仮説を立て、その仮説を一つずつ試しながら分解していくことになる。
幸いにして時計の分解と違って部品数が圧倒的に少ないので図を書きながら・・・という必要はない。 これが今回、最も大変だった部分じゃ。新しいコルクは拙者が持っていたもの。その下の方にゴミのような黒い固まりがあるが、それがこの萬年筆についていたコルク・・・これではインクは吸う事は出来まい。
このピストンはピンを外さないと回せないようになっている。首軸側からセットしたコルク毎つっこみ回してみる。動かなければ分解して、少しコルクを削ってまたセットして回してみる。だめならまたはずして削って・・・・というのを延々と繰り返した。
一回の作業に30分以上かかり、それを10回近く繰り返した。気の遠くなるような作業。自分の萬年筆だったら途中で投げ出していただろう。【生贄】だからこそ出来たのじゃ! こちらが清掃したペン芯。根本をかなりサンドペーパーで削らないとペン先とピッタリと合わなかった。しかもペン芯を削っただけではダメで、首軸内部も多少削らないとペン先が入らなかった。はやい話しが収縮してギチギチだったのじゃ。
いったんペン先とペン芯を首軸からたたき出したら、二度と押し込めなくなっていた。これも相当時間をかけて慎重に削った。 こちらが当初のペン先。左(図では上側)の斜面に大きな傷があるのがわかるかな?どうやら落とすか、削るかしたらしい。書き味に異常はないが、いかにも醜い。両方の斜面を削って形を整えないと使う意欲が半減してしまう。弾力が絶妙なだけに、愛情をかけてもらえないのはかわいそう!
で、こちらが研磨が終了した後のペン先じゃ。まるで新品同様に美しくなった。スリットの感じも絶妙。
こうやって手をかけると綺麗になるというのがVintage萬年筆の魅力じゃ。拙者は字を書くなら現行品の方が手に合っている。従って筆記道具としてのVintage Montblancにはまったく興味がない。しかし、修理を楽しむ【生贄】としては最高。よくぞここまでトラブルを引き起こしてくれるものじゃ!
その点Pelikanにはあまりこの手のトラブルは多くない。そういう意味ではVintage Pelikanではあまり楽しめない・・・・ こちらが復活した胴体部分。ピストンが上下にスムーズに動き出した時に記念にスキャンした。ここだけで5時間ほど楽しませてくれた!
こちらが首軸にセットした状態のペン先。ペン先とペン芯を結婚させるのに非常に時間がかかった・・・
ペン先の弾力が最も出やすい状態にペン先をお辞儀させ、それに合うようにペン芯を曲げる。ところが時間がたつとペン先が調整戻りしてしまう。それをさらに微調整して・・・というのを数週間やるのじゃ。現行のペン先は組成の関係か、調整戻りがほとんど無い。
依頼者はスタブ系の書き味が大好きなので、この書き味はたまらいじゃろうな。拙者も久しぶりにVingtage Montblancの書き味を堪能した! これが修理が終わった全体像じゃ。この時代にまで遡ると、なかなか完全な状態の個体には巡り会えない。当然修理が前提となるが、これほどまでに時間がかかるとなると、時間単価で修理してくれるところには持ち込めない。今回の作業時間が監査法人に依頼するJ-SOX監査だと仮定すると・・・20万円以上になる。
そう考えてみると、萬年筆を地獄から復活させる趣味というのは少しは世の為になっている・・・かも
【 今回執筆時間:11.5時間 】 画像準備2.5h 調整7.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間