2008年03月29日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・ 】

2008-03-29 01 今回の生贄はMontblanc No.234 1/2Gじゃ。過去に一本だけ所有した事があるが、すぐにお嫁に行ったか壊したかしたらしく、使った記憶はない。また当然修理した経験もない。

 左写真の個体は、ピストンを動かしてもインクを吸入せず、ペン先もズタズタ・・・という酷い状態だった。

 直した経験も、直す自信もまったく無いが、【生贄】という事でお預かりした。左の図が全て分解した画像。内部構造がわからなかったので、ここに至るまでに既に1時間以上経過していた。

 こういう未知の萬年筆に対しては、過去に分解した他社製品での事例を参考に仮説を立て、その仮説を一つずつ試しながら分解していくことになる。

 幸いにして時計の分解と違って部品数が圧倒的に少ないので図を書きながら・・・という必要はない。

2008-03-29 02 これが今回、最も大変だった部分じゃ。新しいコルクは拙者が持っていたもの。その下の方にゴミのような黒い固まりがあるが、それがこの萬年筆についていたコルク・・・これではインクは吸う事は出来まい。

 このピストンはピンを外さないと回せないようになっている。首軸側からセットしたコルク毎つっこみ回してみる。動かなければ分解して、少しコルクを削ってまたセットして回してみる。だめならまたはずして削って・・・・というのを延々と繰り返した。

 一回の作業に30分以上かかり、それを10回近く繰り返した。気の遠くなるような作業。自分の萬年筆だったら途中で投げ出していただろう。【生贄】だからこそ出来たのじゃ!

2008-03-29 03 こちらが清掃したペン芯。根本をかなりサンドペーパーで削らないとペン先とピッタリと合わなかった。しかもペン芯を削っただけではダメで、首軸内部も多少削らないとペン先が入らなかった。はやい話しが収縮してギチギチだったのじゃ。

 いったんペン先とペン芯を首軸からたたき出したら、二度と押し込めなくなっていた。これも相当時間をかけて慎重に削った。

2008-03-29 04 こちらが当初のペン先。左(図では上側)の斜面に大きな傷があるのがわかるかな?どうやら落とすか、削るかしたらしい。書き味に異常はないが、いかにも醜い。両方の斜面を削って形を整えないと使う意欲が半減してしまう。弾力が絶妙なだけに、愛情をかけてもらえないのはかわいそう!

2008-03-29 05 で、こちらが研磨が終了した後のペン先じゃ。まるで新品同様に美しくなった。スリットの感じも絶妙。

 こうやって手をかけると綺麗になるというのがVintage萬年筆の魅力じゃ。拙者は字を書くなら現行品の方が手に合っている。従って筆記道具としてのVintage Montblancにはまったく興味がない。しかし、修理を楽しむ【生贄】としては最高。よくぞここまでトラブルを引き起こしてくれるものじゃ!

 その点Pelikanにはあまりこの手のトラブルは多くない。そういう意味ではVintage Pelikanではあまり楽しめない・・・・


2008-03-29 06 こちらが復活した胴体部分。ピストンが上下にスムーズに動き出した時に記念にスキャンした。ここだけで5時間ほど楽しませてくれた!

2008-03-29 072008-03-29 08 こちらが首軸にセットした状態のペン先。ペン先とペン芯を結婚させるのに非常に時間がかかった・・・

 ペン先の弾力が最も出やすい状態にペン先をお辞儀させ、それに合うようにペン芯を曲げる。ところが時間がたつとペン先が調整戻りしてしまう。それをさらに微調整して・・・というのを数週間やるのじゃ。現行のペン先は組成の関係か、調整戻りがほとんど無い。

 依頼者はスタブ系の書き味が大好きなので、この書き味はたまらいじゃろうな。拙者も久しぶりにVingtage Montblancの書き味を堪能した!


2008-03-29 09 これが修理が終わった全体像じゃ。この時代にまで遡ると、なかなか完全な状態の個体には巡り会えない。当然修理が前提となるが、これほどまでに時間がかかるとなると、時間単価で修理してくれるところには持ち込めない。今回の作業時間が監査法人に依頼するJ-SOX監査だと仮定すると・・・20万円以上になる。

 そう考えてみると、萬年筆を地獄から復活させる趣味というのは少しは世の為になっている・・・かも

 
【 今回執筆時間:11.5時間 】 画像準備2.5h 調整7.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

 


【これまでの調整記事】

2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!
2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
watarow しゃん

こういう修理は、直った時の喜びが大きい!

生贄募集!
Posted by pelikan_1931 at 2008年06月03日 21:34
いやーっ、師匠の久々の楽しみぶり?の記述、堪能しました!

化石に血が通ったような・・・。
月夜だったのでしょうか?

蘇った一本に、お目にかかってみたい気がします。
Posted by watarow at 2008年06月02日 22:26
にゃまあきしゃん

大切に使って下され。不具合が出てきたら、何度でも【生贄】に!
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月30日 19:46
きくぞうしゃん

この当時の万年筆市場は無限大だったはず。だからこそ、今から思えば大冒険をMontblancはやったのであろう。

しかし、歴史は残酷じゃ。当時の品で問題なく稼働するVingtage Montblancの数は減っている。

おそらく100年後に動くのはPelikanだけということになろう。

だからこそ大切に使って欲しいものじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月30日 19:44
venezia 2007 しゃん

出来の悪い子ほどカワイイ!というのも事実!  ただ・・・

次世代まで使える自信がないだけじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月30日 19:38

生け贄の司祭です
ペン先の傷については自分も気になっていました.おそらく前の使用者が毎日物差しを使用していた設計関係や簿記記入をされていたのでは?と一人思いをはせておりましたが,そんなのんきなモノではなかったようで…
スタブ神ならばきっと…と捧げましたが,大変な物を捧げてしまいました.帰ってきて後は神として崇めております
Posted by にゃまあき at 2008年03月30日 11:10
出来の良いペリカンと手のかかるモンブラン

設計側からすれば、安全率をどのくらい見込むか、限界の設計をするか?と言う、社風のような設計理念からくる違いでしょうか。
技術屋としては限界に挑みたいですが、市販品の精度を考えると安全率を大きく取りたい、、、

でも、市場の規模やターゲットユーザーを考えると、ペリカンのようなやり方もモンブランのようなやり方も、ちょっと違うかなぁ、、、
Posted by きくぞう at 2008年03月30日 09:42
いつもややこしいお願いをしている私のペン達以上のツワモノですね。「出来のよいペリカンと手のかかるモンブラン」、全くその通りだと思います。素材の選定と設計の両面でペリカンは50年、70年経ってもここまで安定していると当時のペリカンの設計陣がわかっていた上での開発であれば本当に凄いことです。但し、個人的には優等生よりは何かと手のかかる出来の悪い方がどうしてもいとおしく思えて。。。
Posted by venezia 2007 at 2008年03月29日 10:24