今回の依頼品には意表を突かれた。全く想像していたのと違う原因だった。やはり診断は慎重にやらねばならないと悟った。
Pelikan 400NNの茶軸。当時作られていた400NNは日本市場以外では茶軸の方が本数が多かったのではないか?海外オークションでは非常に茶軸の比率が高い」ような気がする。
緑軸はかなり退色するので、キャップに隠れている部分と外で蛍光灯や日光にあたっている部分との色の差が出やすい。先日、オークションを見ていたら、グレー軸として紹介されていたのが、緑軸の退色したものだった。キャップの内側に隠れた部分には緑色が強く残っていた。
それにひきかえ、茶軸で退色というのを見た記憶がない。あるのかもしれないが、あまり目立たないのだろう。一本ごとの模様の違いも緑軸よりは明確なので何本でも欲しくなるのかもしれない。 患者の外観写真。一目見て、【ああ、あの半透明プラスティック製の安いソケットに交換されているな】と思った。
従ってソケット交換して、スリットを拡げれば一丁上がり・・・と考えたのだが実際には・・・ ソケットはちゃんとしたエボナイト製の純正品。エ〜!何故?という気持ちになった。どう見てもPelikan 140や400NNに共通の純正エボナイト製ソケットに間違いはない。こういう予期せぬ事態があるから萬年筆の調整はおもしろい。
その場で直すペンクリや自分の萬年筆をチョコチョコと直す修理や調整においては、記録が画像として残っていない。年をとってくると【デジャヴ】だと感じた事を、実は何度も体験していた(忘れてただけ)というのがよくある。
従って、拙者にとっても週3回の調整講座は貴重な資料なのじゃ。自画自賛になるが、世界中でここまで詳細な修理記録をこれほど大量に掲載しているサイトは無い。 ソケットとペン芯、ペン先を詳細に調べてみると、どうやらソケットの内径が若干広いようじゃ。計測上での差は関知出来ないが、ペン芯、ペン先、ソケットを取っ替え引っ替えして調べてみると、そのような結論になった。またニブも多少薄いようにも思える。
原因がわかれば対策は簡単。現行品のソケットは、400NNの正規品よりも内径が若干狭いのでちょうど良いはず。あとは、大問題のスリット調整じゃ。こちらは一筋縄ではいかない。 極端にお辞儀しているペン先は、エラを張らせてもスリットは容易には開いてくれない。しかも、この時代のPelikanのニブは鍛錬してあるのか、曲げてもすぐに戻ってしまう。いわゆる調整戻りが大きい。
ある程度エラを張らせた後で、裏側からスキマゲージを入れて開こうと七転八倒したが、あまり効果が無かった。そこで、サンドペーパーを細く切った物をスリットに入れて、ゴシゴシ擦ってスリットを内側から摩耗させて、やっとスリットが通じた!
Pelikanでは100や100Nは、修理する人の事まで考えた設計になっているが、それ以降の製品では退化している。残念じゃ。 こちらが現行品のソケットを用いてまとめたペン先ユニット。実に強くホールドしてくれる。ネジのピッチが400NNと現行品は同じか、極めて近いので、使ってもほとんど違和感は感じない。ひょっとすると、この部品は大量に市場に流れた400NNや140の保守部品の役割も担っているのかも知れない。性能から言えばエボナイト製よりもはるかにしっかりとHoldされ、多少の力で捻ってもペン先とペン芯がずれる事はない。
これがスリット幅をペーパーで拡げたペン先のアップ画像。
内側からスリットを削る際には、徐々にペンポインと方向にスリットが狭くなるように研磨する必要がある。
その作業にコツは要らない。見ての通りの状態に研げばよい。その通りにならなかったら、何故ならないかを自分で研究するのじゃ。研究してこそ進歩がある! こちらは調整が終了したペン先の画像。これを残しておけば、再度ペンクリに持ち込まれた時に調整戻りの量が把握できる。それがなによりもメリットなのじゃ。
それにしてもお辞儀しまくりのペン先じゃな。
【 今回執筆時間:6.0時間 】 画像準備2.0h 調整2.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間