2008年04月05日

土曜日の調整報告 【 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 】

2008-04-05 01 今回の依頼品には意表を突かれた。全く想像していたのと違う原因だった。やはり診断は慎重にやらねばならないと悟った。

 Pelikan 400NNの茶軸。当時作られていた400NNは日本市場以外では茶軸の方が本数が多かったのではないか?海外オークションでは非常に茶軸の比率が高い」ような気がする。

 緑軸はかなり退色するので、キャップに隠れている部分と外で蛍光灯や日光にあたっている部分との色の差が出やすい。先日、オークションを見ていたら、グレー軸として紹介されていたのが、緑軸の退色したものだった。キャップの内側に隠れた部分には緑色が強く残っていた。

 それにひきかえ、茶軸で退色というのを見た記憶がない。あるのかもしれないが、あまり目立たないのだろう。一本ごとの模様の違いも緑軸よりは明確なので何本でも欲しくなるのかもしれない。


2008-04-05 022008-04-05 03 患者の外観写真。一目見て、【ああ、あの半透明プラスティック製の安いソケットに交換されているな】と思った。

 従ってソケット交換して、スリットを拡げれば一丁上がり・・・と考えたのだが実際には・・・

2008-04-05 04 ソケットはちゃんとしたエボナイト製の純正品。エ〜!何故?という気持ちになった。どう見てもPelikan 140400NNに共通の純正エボナイト製ソケットに間違いはない。こういう予期せぬ事態があるから萬年筆の調整はおもしろい。

 その場で直すペンクリや自分の萬年筆をチョコチョコと直す修理や調整においては、記録が画像として残っていない。年をとってくると【デジャヴ】だと感じた事を、実は何度も体験していた(忘れてただけ)というのがよくある。

 従って、拙者にとっても週3回の調整講座は貴重な資料なのじゃ。自画自賛になるが、世界中でここまで詳細な修理記録をこれほど大量に掲載しているサイトは無い。


2008-04-05 05 ソケットとペン芯、ペン先を詳細に調べてみると、どうやらソケットの内径が若干広いようじゃ。計測上での差は関知出来ないが、ペン芯、ペン先、ソケットを取っ替え引っ替えして調べてみると、そのような結論になった。またニブも多少薄いようにも思える。

 原因がわかれば対策は簡単。現行品のソケットは、400NNの正規品よりも内径
が若干狭いのでちょうど良いはず。あとは、大問題のスリット調整じゃ。こちらは一筋縄ではいかない。

2008-04-05 062008-04-05 07 極端にお辞儀しているペン先は、エラを張らせてもスリットは容易には開いてくれない。しかも、この時代のPelikanのニブは鍛錬してあるのか、曲げてもすぐに戻ってしまう。いわゆる調整戻りが大きい。

 ある程度エラを張らせた後で、裏側からスキマゲージを入れて開こうと七転八倒したが、あまり効果が無かった。そこで、サンドペーパーを細く切った物をスリットに入れて、ゴシゴシ擦ってスリットを内側から摩耗させて、やっとスリットが通じた!

 Pelikanでは100
100Nは、修理する人の事まで考えた設計になっているが、それ以降の製品では退化している。残念じゃ。

2008-04-05 08 こちらが現行品のソケットを用いてまとめたペン先ユニット。実に強くホールドしてくれる。ネジのピッチが400NNと現行品は同じか、極めて近いので、使ってもほとんど違和感は感じない。ひょっとすると、この部品は大量に市場に流れた400NN140の保守部品の役割も担っているのかも知れない。性能から言えばエボナイト製よりもはるかにしっかりとHoldされ、多少の力で捻ってもペン先とペン芯がずれる事はない。

2008-04-05 09 これがスリット幅をペーパーで拡げたペン先のアップ画像。

 内側からスリットを削る際には、徐々にペンポインと方向にスリットが狭くなるように研磨する必要がある。

 その作業にコツは要らない。見ての通りの状態に研げばよい。その通りにならなかったら、何故ならないかを自分で研究するのじゃ。研究してこそ進歩がある!


2008-04-05 102005-04-05 112008-04-05 12 こちらは調整が終了したペン先の画像。これを残しておけば、再度ペンクリに持ち込まれた時に調整戻りの量が把握できる。それがなによりもメリットなのじゃ。

 それにしてもお辞儀しまくりのペン先じゃな。


【 今回執筆時間:6.0時間 】 画像準備2.0h 調整2.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

  


【これまでの調整記事】

2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 

2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・   
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換

2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!
2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
きくぞうしゃん

円形のソケットは痩せればきつくなります。従ってソケットが痩せたのではなく、別々の萬年筆についていた部品を組み合わせて作ったペン先ユニとだと思われます。

そういう状態を発見したら、まずはWAGNERまで持ち込んで下され。
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月06日 21:49
先月オークションで落とした400NNは、いーばい で落札された物の転売でしたが、同じようにスカスカソケットでした。もちろん黒いソケットです。
ひょっとして、ペン芯が痩せたかと思い、ペン芯に接着剤を盛りました。盛る場所を間違えて、芯とペンが泣き別れになってしまい、ペンを御辞儀させたりして泥沼に、、、

で、接着剤を盛るときは、ソケット先端側のペン先の反対側に盛らないといけないと悟りました。

ところで、FとかEFのペン先でも、スタブみたいに縦横の線の太さが違うのでしょうか。
Posted by きくぞう at 2008年04月06日 12:50