2008年04月16日

水曜日の調整報告 【 Waterman Gentleman かなりボロボロ! 】

2008-04-16 01 今回の依頼品はWaterman Gentlemanの緑軸。キャップを付けた状態では、多少ラッカーが剥がれているが許容範囲かな・・・という程度。金属に直接塗ったラッカー(工業用漆)は剥がれやすい。Parker 75のラッカーもペリペリと良く剥がれた。ところがPilotの金属軸に塗った蒔絵は剥がれない。本漆だからか、塗る技術が違うのか・・・今度聴いてみよう。

2008-04-16 022008-04-16 03 インクがほとんど出ないと言うことで、まずは全部を分解してみた。

 画像の状態に持ってくるまでに、5時間が経過し、背骨と肩が筋肉痛になった。とにかく硬かった・・・・・

2008-04-16 042008-04-16 05 左画像をご覧いただきたい。なんとペン芯に接着剤がびっしり!何故こういう事をしたのか?おそらくは以前の利用者はかなり左に捻って書く上に、非常に筆圧が強かったのだろう。その場合、Gentlemanレディ・アガサレディ・パトリシアなどは簡単にペン先がズレてしまう。何度もそういう状態になるのが耐えられず、ついに接着剤でペン先とペン芯を固定しようと考えたのか?萬年筆でインクが出る仕組みを全く知らない人がやったのは間違いがない。

 そして万策尽きて、オークションに出したか、ボロ市に出されていたのを、かわいそうに思った依頼人に身請けされたのであろう。

 右が接着剤を丁寧に取り除いた状態。ここまで清掃すれば問題はない。


2008-04-16 062008-04-16 07 こちらは修理前のペン先。根本に赤インクの痕跡がある。そしてペン先は多少曲がっているようにも見える。

 拡大してみると、ペンポイントは上下段差有り、またスリットは途中でぶつかり、先端ではまた開いている。いずれにせよ、これではまともにインクは出まい。

2008-04-16 082008-04-16 09 そこで、一端スリットを全開にして形状を調整した後で、再度寄せた。

 最初に上下に大きな段差を付け、片方ずつゴムブロックに両面テープで貼り付けたスキマゲージの上にあて、竹製の割り箸先端でしごいて形状を作るのじゃ。ここは匠の技・・・というほどではない。拙者とて10回目程度。要はどうやったら直るかという全体感を持つことじゃ。それに従って個々の部分を少しずつ直す・・・言葉で表現するのは難しいものだなぁ・・・

 右の画像のように首軸にとりつけた。首軸の金属腐食はいかんともしがたい。今後萬年筆を購入されるなら、首軸に金属があり、表面に特殊加工がなされていないものは避けた方がよい。ほとんど問題が起こらないのは、旧のセーラー首軸だけ。そのセーラーでさえ、最近では首軸先端の金属をプロフィットからは取り外した・・・

 このスリットの開き具合に注目して欲しい。これが【趣味の文具箱 vol.10】で紹介した【にゅるにゅる】の書き味を提供する調整。ペンポイントは細字用なのに、インクがにゅるにゅると紙の上に盛り上がるように出てきて、絶妙の書き味を提供してくれる。ただし、豆粒のような小さな字を書く人には向いていない。細くて大きな字を書く人向けじゃ!

2008-04-16 102008-04-16 11 こちらは横顔。ペンポイントの厚みは意外に太い事がわかろう。ペンポイントもEFにしては大きい。この厚さと大きさが調整の幅を拡げてくれる。調整師にとっては腕をふるう余地の大きい、楽しいペン先!ペンポイントもあまり残っていなかったので、多少丸めに研いでみた。さすがWatermanの細字!非常によい書き味じゃ!

2008-04-16 12 その他のトラブル。実はキャップがスカスカだった、分解してみると、インナーキャップがすり切れて、キャップを首軸に止める役割を果たしていない。しかも、インナーキャップが裂けている!

 この部品はさすがに無いので、接着剤を盛って多少はキャップを強くHold出来るようになった。久保工業所ならすぐに直してくれる不具合じゃよ。

 こういう満身創痍の萬年筆は、修理に時間はかかるが、終わったときの満足感は高い。依頼者の口元がふっと緩む瞬間を見たくて、この趣味をやっている。今後とも数多くの無理難題を持ち込んで欲しいものじゃ。


【 今回執筆時間:10.0時間 】 画像準備6.5h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
   
 


【これまでの調整記事】

2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   

2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差   
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 

2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・   
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!
2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
先日のペントレで調整師の山田さんが、引き抜いたレディ・アガサのペン芯から
ペン先をすっとはずされたのを目撃したのですが、いったい何が起こったのか
まったく理解できませんでした。

ちょうど良いタイミングで、この調整報告中にレディ・アガサの名前が出たので、
失礼かとは思ったのですがコメントの形で質問させていただきました。

しっかり固定されているように見えるのは、見た目だけなのですね。
疑問が解消されてすっきりしました。ありがとうございました。
Posted by 茶渋 at 2008年04月18日 09:47
茶渋 しゃん

たしかにレディ・アガサやレディ・パトリシアはペン先がペン芯を抱き込むようになっているのだが、挟まり方が少しなので、強筆圧だと外れるらしい・・・昨日も、一本そういうのが修理品として届いた・・・

拙者は筆圧が弱いので、人質交換を模索中。
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月18日 07:27
ロクリンパパ しゃん

久保工業所には部品があったはずじゃ。ずいぶん勘合がよくなりますぞ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月18日 07:23
レディ・アガサやレディ・パトリシアでは、ペン先がラミーの
ペン先のようにペン芯を抱き込むような形に曲げてあって、しかも
溝にはめこんであるので、ずれることはないと思うのですが・・・・

マン200、ジェントルマン、レディ・シャーロットでは、確かに
ペン先とペン芯が書いているうちにずれる可能性があると思います。

それにしても、すばらしい修復術ですね。びっくりしました。
Posted by 茶渋 at 2008年04月17日 01:54
こんなに手間暇かけて調整いただいていたとは。本当に有難うございます。早速仕事でフルに活躍しております。インクフローもよくなかなかのものです。大事に使っていきたいと思います。久保工業所には早速あたってみます。
Posted by ロクリンパパ at 2008年04月16日 23:45