2008年04月26日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル 】

2008-04-26 01 今回の依頼品は生贄ではない。修理依頼じゃ。一部部品持込の・・・こういうケースは極めて珍しい。ある意味実験という観点もあった。それに最適の状態を持つ萬年筆であったのじゃ。

 物はMontblanc No.644の金張りキャップ。金属製のキャップはクリップの部分が横に振れる時に、キャップに傷を付けてしまうので、拙者は好んでは使わない。この金張り軸では目立たないが、銀色キャップの場合は、傷が酷く目立つ。見映え第一主義の拙者には耐えられない・・・

2008-04-26 022008-04-26 03 ペン先はB。スリットが詰まっているのでインクフローは良くない。が、この個体に置いては、それが一番の問題ではない。

 それにしても美しい形をしたペン先じゃ!クーゲルのペン先は、どれもぽっちゃりとして垢抜けないが、このBは美しい。贅肉のないすばらしい形状をしている。今までに見たMontblancの中では、【開高健モデルの先端の平たいM】の次に美しいペン先だと思う!

2008-04-26 042008-04-26 05 横顔には、まったく破綻がない。ペン先とペン芯は密着しており、インクフローに影響を及ぼす原因はない。つまりはスリットさえ拡げれば、すばらしい書き味になることは見えている。

 しかし、それがこの萬年筆の問題ではない・・・

2008-04-26 06 問題は、ピストンが途中までしか下がらないこと。途中まで下がると、そこから下へは一切下りてこないのじゃ。

2008-04-26 07 左がインク窓の拡大図。ピストンを思いっきり左にまわして下げたところ。にもかかわらずインク窓からピストンは見えない!

 途中で引っ掛かっているような感じがする。
Montblancの50年代モデルは、ピストンを一番下まで下げた状態でコルクを変えるので、このままではコルク交換が出来ない。今の内に直しておく必要がある。

2008-04-26 08 工具を使ってピストンを後ろから引っ張って抜いてみたところ、途中で金具が引っ掛かって、それ以上伸びない状態になっている。

 また後ろから引き抜いた時に、コルクが胴体軸にピストン機構をねじ込む部分で抉れて色が変わっている。こうなるとピストンは空気がスカスカ通り、ピストンとしての役割を果たさなくなる。

 すなわちコルクが生きている状態で後ろから引っ張れば、コルクを殺すということになる。そうならないための新兵器を準備して望んだのが今回の修理じゃ。

 引っ掛かっていたピストン機構は、内部にシリコンスプレーを噴霧し、ある程度引っ掛かりそうな部分をダイヤモンドヤスリで擦って丸めたところ、どうにかこうにか力を入れれば、引っ掛かりが外れるようになった。すなわち、ピストンは首軸部分まで下げる事が出来た!

2008-04-26 09 そして新兵器は弁!コルクではなく、秘密の素材を使っている。コレを使っていれば、万一ピストン機構を後ろから引っ張り出す場合でも弁が痛むことはない。

2008-04-26 10 これが新兵器がピストン内部にある状態じゃ。ちゃんと首軸近くまでピストンが下がっているのがわかろう。

 これで修理は完了した。あとは多少インクフローを良くしてあげれば万々歳だろう。

 ついでに、少しだけスイートスポットも入れておいてみよう。書き味はぐっと良くなるはずじゃ。

2008-04-26 122008-04-26 13 こちらがスリットを拡げてインクフローを良くした状態。

 1950年代の萬年筆は色々弱いところが多く、拙者はとても使う気にはならない。

 しかし、このニブであれば弄んでみたいという欲求はある。そういう意味で今回は大いに楽しめた調整であった。


【 今回執筆時間:8.0時間 】 画像準備3.0h 調整3.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間


   
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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
venezia 2007 しゃん

ステンレスキャップはクリップがキャップと接する部分が傷つきやすいので大事にな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月27日 23:47
師匠、今の所これが The Best Pen. です。一時はピストンの不調でペン先、軸、キャップは申し分ないのにと非常に憂鬱な思いでいましたが、いまはすっきりと晴れ渡った心地です。有難うございました。先日縁あって、ステンレスキャップの644のMを入手しましたが、これもペン先形状はBに劣らず素晴らしいものです。またこちらの書き心地は悪くないので、そのまま使っておりまだ師匠にお目にかかっていませんが、644シリーズは14Xシリーズ以上の優れもののように思います。
Posted by venezia 2007 at 2008年04月27日 21:52
stylustip しゃん

Blogでは公開できませんが、すばらしい素材です。
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月26日 22:13
師匠、ピストンシールは樹脂もしくはラバーのようにも見えますが、
真相や如何に。
ああ、そう言えばウィングニブの調整依頼品をまだ送れていません。
もう少し落ち着いたら、送りますので診察宜しくお願いします。
Posted by stylustip at 2008年04月26日 11:06