2008年04月28日

月曜日の調整報告 【 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換 】

2008-04-28 01 今回の依頼品はPelikan M800の現行品。購入したばっかりとの事だった。

 M800は輸入萬年筆の定番品の中では、最も好ましい重心位置を持っている。(拙者にとってはという注釈は必要だが)

 二番目はNo.146・・・で間違いあるまい。出荷時のペン先の調整度合いを評価に入れればM800のランクは落ちるが、それでも5位は下らない。

2008-04-28 02 ペン先は現行品の3B森山スペシャルとして今でも多くの萬年筆愛好家の元へ送り出されているモデルのベースも、この3Bが一番多いと聞いたことがある。

 拙者もM800のニブとしては、最近は3Bしか購入しない。依頼主も同じような趣味の持主なので、嬉々として3B付きを購入したのであろう。

 以前の【p.f.】ニブと違ってメタボな形状をしているが、インクフローに問題はない。ただ、紙に乗せたときの感触は明らかに硬くなっている。従って長時間筆記をする人にとっては都合が良くなってきている。

 タッチが柔らかいペン先は長時間筆記すると疲れてしまう。人工芝のグラウンドでは疲労が蓄積しやすいのに似ているかも・・・?

2008-04-28 032008-04-28 04 さて不具合だが、よく見るとペン先の一部が折れ曲がって横に飛び出している。これは通常、あまりに強くペン先をソケットに押し込もうとした際に発生する事故。

 ところが依頼者はデパートで新規購入したばかりで、ペン先など分解していない・・・

 ということは、出荷時、あるいは販売店での事故と考えられる。こういうのは消費者にショックを与えるなぁ・・・これは販売側が検品で落とすべき事項。少なくとも萬年筆専門店ではあり得ない検品ミスと言えよう。萬年筆に愛情を持っていない人が検品するとこういう事態が発生する。

2008-04-28 05 ついでにペンポイントの状態を調べてみると、むかって奥が上がっている。この状況はペン先をつまんで回したときに発生する。

 Pelikanのニブは捻って交換したり洗浄したり出来る・・・とあちこちで紹介されている。拙者も過去にそういう内容をあちこちの萬年筆関係のHPに投稿した記憶がある。

 しかし、現行のニブに関しては、指でつまんで捻ったら100%位置ズレを起こす。従って固定した後で爪で位置修正をする技術が無ければ外すのは止めた方がよい。まずは正しい位置を覚えねばならない。

2008-04-28 06 前から見ると段差が出来ている。その段差の原因には3つあるが、一番大きなのがペン芯上の位置がズレていること。上記の捻ってねじ込む最後の瞬間にズリっといくのじゃ。

 左のようになった場合、裏返して左手の爪で少し右側に押せば直るはず。ペン芯の中央がスリットの位置にあっても上下の段差がある場合は別の2つの原因のどちらか・・・この場合は素人治療は止めておくのが得策。ちゃんとした道具が必要となる。

 いずれにせよ、購入するにあたってインターネットを利用するなら、ちゃんとした調整が出来る店にお願いし、到着してからは一切ペン先を捻ったりしないのが得策じゃ。【p.f.】ニブのあたりまでは捻っても問題無かったのだが・・・やはり設計が変わったのであろう。

2008-04-28 07 こちらは両方とも現行品の3Bニブ。上が今回のニブじゃ。同じニブなのに何となく雰囲気が違うのがわかるかな?上はメタボ一直線のような形状で、ウェストが締まっていない。下は若干エラが張り、ウェストが締まっているように見える。

 下のニブは、拙者が完全分解し、エラをツボ押し棒で拡げ、ウェスト部分を指で絞ったものじゃ。上の状態のニブの隆起は直すのに莫大な時間がかかるのと、それほど楽しい作業ではないので、チェンジニアリングとした。すなわち、入れ替えじゃ。

2008-04-28 08 全体像はこちら。現行ニブであってもかなりすっきりした形状になっているのがわかるかな?わかんねぇだろうなぁ・・・

2008-04-28 092008-04-28 10 ということで拡大図。現行ニブとしてはこれ以上ないほど美しい形状になった。これをやると書き味も変わってしまうので、一般にはお奨めしないが、形状の美しさにこだわる人は試してみる価値はある。ただし拙者でも三回に二回程度しか成功しないので、そのあたりは頭に入れてやるのですぞ。

 自分では形状変更の不具合に気付かず、十分満足していても、仲間に発見されて不愉快な思いをする事がある。人の萬年筆の不具合は、所有者が言い出さない限り指摘しないのが【慈悲】じゃ。

 プロほど無慈悲!自慢の萬年筆は決してプロの店に持ち込まないようにな・・・プロに自慢しても意味がない。相手は挑んできていると考え、真剣に欠点を探しますぞ・・・

2008-04-28 112008-04-28 12 このペン先には既にいくつかのスイートスポットを入れてある。従ってあとは依頼者の筆記角度に合わせて、微調整をするだけなのだが・・・最近依頼者がWAGNERになかなか参加出来ないようなので、微調整されずにいる・・・かわいそうなM800。実力をもてあましているのではやく引き取って欲しいものじゃ。


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 調整0.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

  

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Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
カミオソウイチロウしゃん

ぬはは!の書き味ですぞ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月30日 21:52
あああああ、師匠、すみません!
お手数をおかけいたしました。ありがとうございます。

5/5にWAGNERに参加して、引き取らせていただきます。
お預けしてからずうっとペンケースに居場所は確保しておりますので。
Posted by カミオソウイチロウ at 2008年04月30日 12:59
怠猫しゃん

ダライラマの慈悲の心はvintage萬年筆にも通じるのじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年04月29日 00:02
>仲間に発見されて不愉快な思いをする

なるほど。ちび猫は、お耳をダンボにして拝聴しております。
おかげで、よくATMへ韋駄天走り♪します。

うちの仔も5/5に診察してもらう予定です。

そういえば、初めて買ったペリカンが#800(売れ残り)
今じゃ依存症です。(笑)
Posted by 怠猫 at 2008年04月28日 23:34