今回の依頼品はトレド。依頼者が困っているのはインクフローとピストンの硬さ。さらには書き味がやや下品なこと。カリカリガリガリという筆記音をまき散らしながら紙の上を走る。
重量バランスは実に良いのだが、この筆記感では長期間愛情をつなぎ止めることは出来ないだろうな。1980年代後半のトレドは実に柔らかいペン先だったが、最近では硬い。ただ硬くてもツユダクのインクフローであれば耐えられる・・・・ ペン先の拡大図を見ると、いかにもインクフローが悪そう。ここまでスリットが詰まっていて、なおかつペン先が硬いと、かなり筆圧をかけないとインクは出ない。
分解してスリットを拡げる作業は最低限必要になる。復活トレドとしては、このペン先は二代目になる。最初はヘロヘロの18金一色のペン先で、これは当時の#600と同じだった。その後#600は14金バイカラーペン先になり、その次が今回のトレドと同じ18金バイカラーのペン先になった。 このペン先は決して柔らかいペン先ではない。硬さとしては現行M400のペン先よりも硬いかも知れない。
ただペンの模様がいかにも昔風なのが良い。拙者はこのペン先が付いた#600を見つける度に買っている。なを#600というのは、現行モデルになる以前の、M400と同じ大きさだった頃のM600の事を指している。正式かどうかはわからないが・・・
ペンポイントの拡大図を横から見るとなかなか大きい。上から見て小さく、横から見て大きなペンポイントというのは、書いているうちに横線が太くなっていく。スタブ気味の書き味が好きな人にとっては致命傷!研ぎ直そうかとも思ったのだが・・・
自宅にBB付きの未使用#600が二本あった。模様をトレドの物と比べてみたが、まったく同じ。これなら交換しても違和感は無い。BB二本よりは、BBとFの方が楽しめそうなので、依頼者の了解をいただいて交換することにした。
どちらにも【p.f.】の刻印がある。M800と違い、この刻印があったとて、特に柔らかいわけではない。いまだに解き明かされていない【p.f.】の秘密!だれか噂でも良いので知っていたら教えて下され! こちらがBBの拡大画像。もちろん拙者の#600についていたのでスリットは調整済。従ってインクフローには問題はない。それにしても太いな・・・これほどアグリーなペン先はMontblancにはデザイン出来まい!
この鋳造むき出しのようなゴツゴツ感がPelikanの魅力。よく考えればトレドの胴体なんて鋳物に近い仕上げ。このペン先の方がマッチしているかも知れない。次回このトレドをいじる時には、天冠も昔の彫りの物に変えたいものじゃな。 こちはら調整前と調整後の比較。上が調整前。スイートスポットの入れ方がわかるかな?自分の萬年筆に対するスイートスポットは簡単に作れる。特に拙者は筆記時に手首を全く捻らないので、耐水ペーパーで削ったままでも使える。
今回の依頼者は、多少手首を捻って書くうえ、最近では多少右傾斜も出てきているらしい。従って左右方向の丸めを多少強めにいれておいた。下の方がペンポイントのピントが甘いように見えるのは、丸めのせいなのじゃ。
また前後方向の研磨は簡単。横書きがほとんどなので、筆記角度は変化しない。従って筆記角度に合わせて耐水ペーパーで研磨して、前後のエッジを多少落とすだけでよい。
仕上げは最近、金磨き布のかわりに使い出した研磨材を塗り込んだ和紙。これだと仕上げした直後でもインクをはじかない。研磨効果は同じような物。どちらもバフがけ程度にしか削れないのが実に良い!
【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備2.0h 調整1.0h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間