2008年05月01日

解説【萬年筆と科學】 その78  オノト 萬年筆工場

2008-05-01 01 1937年の5月23日に一行はオノトの萬年筆工場の調査に赴いた。当時の日本ではオノト萬年筆は相当有名で、英国でもスワンと並び称されている一流萬年筆であった。制作しているのはトーマス・デ・ラ・ルー社。この会社は現在でも存続している。ただし萬年筆の製造はしていない。

 訪問して一行が驚いたのは、その大きさ!その時の渡部氏の表現をそのまま記載すると・・・

 【これは堂々たる大工場です。真正面の煙突のでかいこと、直径四尺は優にあります。煙突には”STAR WORKS"と大きく商標が書いてあります。五階建ての煉瓦造り、第284図の如き構えです。建坪448坪、延坪2,240坪ですから相当なものです。ところがこの工場の外に1,000坪前後の工場が近所に3つもあり、全てデ・ラ・ルーの表札が出ており、合計では5,000坪以上の延坪があります】

 いくらなんでも萬年筆工場としては大きすぎると考えた一行は、道ばたで工事中のガス職人3人に、たばこをすすめて情報を聞き出した。なんとダンヒルの薫り高きシガレットをあげたようじゃ。ガス職人は大喜びで質問に答えてくれたとか。その話しを要約して、渡部氏の言葉にすると・・・

 【この会社を単に萬年筆製造会社と思うと大間違いでありまして、むしろ本業は印刷なのです。萬年筆および文具はの方は副業としてやっているのにすぎません。従業員3,000人、日本で言えば凸版印刷という格に当たります】

 【営業科目は公債証書、手形、小切手類、紙幣、切手、印紙などの印刷、トランプ札製作、麻雀やチェス等の室内遊戯具、電気絶縁用テープ、プラスティック、シンセチックレジン、および高級文具といった風に頗る広範囲にわたった仕事をしている会社です】

 現在でもデ・ラ・ルー社はお札の印刷として有名。当時から事業内容が変わらないのは脅威じゃな。それにしても英国で麻雀牌が作られていたというのはビックリ!

 高級文具関連では、オノト萬年筆、デラルー萬年筆、オノトペンシル、デスクセット、オノトインクを作っていたらしい。そういえばオノトが作ったインク瓶を収容するインクコンテナを持
っていたが、底には”ONOTO”の刻印があったなぁ。

 渡部氏が推測したオノトの生産力じゃ萬年筆19,000本/月、ペンシル2,000本、インキ8,000ダースという程度で大した量ではない。

 商品は真空式が主体だったがレバー式もあった。真空式は10円70銭以下の萬年筆はなく、最高は43円くらいまであったらしい。【実に高価な萬年筆】と書かれているので、円表示の1万倍程度と考えれば良いのかも知れない。

 レバー式はオノト萬年筆と呼ばないで、デラルー萬年筆と呼ばれた安価品だが、それでも最低が4円70銭、最高が13円70銭で、スワンのブラックバードに比して平均で2円ほど高価であったらしい。

 オノトインキのはブルーブラック、ブラック、ブルー、レッド、グリーン、バイオレット、ブラウンの七種類があり、全てネジ栓だったとか。先ほど述べたベークライト製の旅行用インクコンテナ1円30銭で売っていったらしい。

 この値段から考えると、さきほど拙者がのべた、当時と現在の円の価値の差は1万倍もはない・・・5000倍以下であろう。




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解説【萬年筆と科學】 その76  
解説【萬年筆と科學】 その75  
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解説【萬年筆と科學】 その73   
解説【萬年筆と科學】 その72   
解説【萬年筆と科學】 その67  
解説【萬年筆と科學】 その58    

解説【萬年筆と科學】 その56 
解説【萬年筆と科學】 その54−3 
解説【萬年筆と科學】 その54−2 
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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 文献研究 
この記事へのコメント
こんばんは。

めだか さん。しかし、しかし・・・・
たしか、あの缶には”ONOTO THE PEN”とあったような・・・・
ですから万年筆以外の物は考え難いと思いました。
だから、ますます不思議な物と思えてなりません。


Posted by らすとるむ at 2008年05月01日 18:32
…ということは、浜崎あゆみのビデオに出てきたONOTO缶は、万年筆関連のものではないという可能性もあるわけですね。う〜ん。
Posted by めだか at 2008年05月01日 09:44