2008年05月12日

月曜日の調整報告 【 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 】

2008-05-12 01 【ダメ出しの女王】からの二本目の依頼品は、セーラーのプロフィット小型軸でペン先は【MS】。MSとはミュージック記号だがプラチナパイロットと違って、スリットは一本しかない。従って、普通の人用の調整であれば、スリット二本の本格ミュージックニブよりは、はるかに簡単・・・普通の人なら・・・

2008-05-12 022008-05-12 03 ペン先部分を拡大してみると、ずいぶんとペンポイントの幅がある。スリット一本で対処出来るのかいな?と思ってしまう。

 音符を書く際の使い方なら手首を90度左に捻って書くので問題はない。またカリグラフィーのような書き方も問題はない。

 ただし、軸を右に左にと縦横無尽に傾けて書くような状況下では、かならずどこかがつっかえてしまう。そんな書き方をする人がいるのか?・・・女王様じゃ!

2008-05-12 042008-05-12 05 調整前のペン先を横から見ると、ペンポイントの先端に行くほど薄くなっている。これはミュージックというよりも、イタリック・ニブ用の研ぎと言えよう。

 手首を捻らずペンポイントに先端全てが紙に密着しているようにして書くのがコツじゃ!

 もし【女王様】がこの萬年筆を買う場に居合わせたら、影腹を切ってでも止めたであろう。

 【陛下、おやめ下さい。陛下には使いこなせません。不幸な調整師の屍の山を作ることになります・・・】とな。

2008-05-12 062008-05-12 07 表から見ても裏から見てもスリットはちゃんと開いている。インクの保持能力を高める効果があると言われているペン先裏の細かい傷もしっかりとついている。

 ただ、MSニブの場合、書き出し掠れが発生しやすいので、もう少しスリットを拡げておいたほうが良かろう。

2008-05-12 08 こちらがペンポイントの研ぎじゃ。これだけ大きなペンポイントでも、直接紙に当たるのは上部の摩耗したように見えるところだけ!非常に贅沢なペンポイントの使い方をしているのがわかる。

 しかもガッシリとした書き味を出すために、根元は肉厚になっている。これによって非常に剛性感のある書き味を実現している。はっきりいってミュージック対極にある書き味!

 ところが、こういう書き味が昨今もてはやされているらしい。プラチナ#3776のミュージックニブも、スリットは二本であるが、ペンポイント部分はかなり肉厚になっている。実際、多少調整すれば、プラチナの新型ミュージックニブは、通常の筆記にも十分使える・・・というよりも、それを楽しくしてくれる魅力にあふれている。

 それもあって、【WAGNER 2008 限定萬年筆】のペン先に指定したのじゃ!


2008-05-12 092008-05-12 10 こちらが調整後のペン先。スリットは多少拡げられている。

 またペンポイントの筆記角度は拙者に合わせて完璧に調整した。完璧な書き味となったので、自信満々で女王様に献上した。

 ところが、先日の【その1】とtもに、見事にダメ出しをくらった・・・何故じゃ!

 あたりまえだが、女王様の筆記角度ではなく、拙者の筆記角度で、どの捻りにも対応出来るように調整したのが原因。女王様の筆記角度はもっと高いのを忘れていた・・・

2008-05-12 11 そこで、メチャメチャにしてやる!という気持ちで、320番の耐水ペーパーの上で、女王様の筆記角度に合わせてガリガリ、ガリガリ、ガリガリ・・・と削りまくった。この320番を使うとアドレナリンが出る。これが気持ちを高揚させてくれる。

 ラッピングフィルムでスリスリすれば終わるような調整には興味はない。やはり調整はガリガリが基本。機械を使うならチャーチャーかな?

 人間の五感のうち最後まで生きているのは聴覚だと父の臨終の時に看護婦さんから聞いた。

 他の四感を全てOffにした状態で、どうやって調整結果を確かめるのか?と問われれば、やはり聴覚が一番頼りになる。官能も同じじゃろう。

 さて、官能の限りを尽くして研いだペンポイントに女王様はどういう反応をなされるか?何を言っても既に手遅れで、他に打つ手はない!ヒヒヒ・・・



【 今回執筆時間:7.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整4.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

 


【これまでの調整記事】

2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善    
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン     
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換              
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル  
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄               
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 
2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
WAGNERにもレッドカーペットをつくりますかな! 独逸の松の廊下ということで!
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月23日 23:49
>【陛下、おやめ下さい。陛下には使いこなせません。不幸な調整師の屍の山を作ることになります・・・】

松の廊下@WAGNERですねぇ。

会場は泉岳寺で♪

>不幸な調整師の屍の山

ラーゲリで轆轤引きながらペン軸を作り、足踏み鞴でペン先作るんでしょうかねぇ。

政治将校にダメだしされたり...

地中からマンモスの牙が出たら、帰国資金ができるかも。(笑)
Posted by 怠猫 at 2008年05月23日 21:55
花月しゃん

着々と技を磨いているようですな!九州初の認定調整師を目指して下され!
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月13日 23:13
みなさま、こんにちは。
先日の「女王陛下のプラチナ・ミュージック」投稿の続きになります。
#3776ギャザードへのミュージックニブ移植で、もともと付いていた太字のペン先をどうしようかと思い、思い切って今回紹介のセーラーMS風に研いでみました。
感激の表現力がありませんが、良くなりますよー。縦太横細の文字に抵抗がなくプラチナ#3776の書き心地が硬いとお嘆きの方(ってあまりいないと思いますが)ぜひお試しあれ。
Posted by 花月 at 2008年05月13日 12:02