【ダメ出しの女王】からの二本目の依頼品は、セーラーのプロフィット小型軸でペン先は【MS】。MSとはミュージック記号だがプラチナやパイロットと違って、スリットは一本しかない。従って、普通の人用の調整であれば、スリット二本の本格ミュージックニブよりは、はるかに簡単・・・普通の人なら・・・
ペン先部分を拡大してみると、ずいぶんとペンポイントの幅がある。スリット一本で対処出来るのかいな?と思ってしまう。
音符を書く際の使い方なら手首を90度左に捻って書くので問題はない。またカリグラフィーのような書き方も問題はない。
ただし、軸を右に左にと縦横無尽に傾けて書くような状況下では、かならずどこかがつっかえてしまう。そんな書き方をする人がいるのか?・・・女王様じゃ! 調整前のペン先を横から見ると、ペンポイントの先端に行くほど薄くなっている。これはミュージックというよりも、イタリック・ニブ用の研ぎと言えよう。
手首を捻らずペンポイントに先端全てが紙に密着しているようにして書くのがコツじゃ!
もし【女王様】がこの萬年筆を買う場に居合わせたら、影腹を切ってでも止めたであろう。
【陛下、おやめ下さい。陛下には使いこなせません。不幸な調整師の屍の山を作ることになります・・・】とな。 表から見ても裏から見てもスリットはちゃんと開いている。インクの保持能力を高める効果があると言われているペン先裏の細かい傷もしっかりとついている。
ただ、MSニブの場合、書き出し掠れが発生しやすいので、もう少しスリットを拡げておいたほうが良かろう。 こちらがペンポイントの研ぎじゃ。これだけ大きなペンポイントでも、直接紙に当たるのは上部の摩耗したように見えるところだけ!非常に贅沢なペンポイントの使い方をしているのがわかる。
しかもガッシリとした書き味を出すために、根元は肉厚になっている。これによって非常に剛性感のある書き味を実現している。はっきりいってミュージックの対極にある書き味!
ところが、こういう書き味が昨今もてはやされているらしい。プラチナ#3776のミュージックニブも、スリットは二本であるが、ペンポイント部分はかなり肉厚になっている。実際、多少調整すれば、プラチナの新型ミュージックニブは、通常の筆記にも十分使える・・・というよりも、それを楽しくしてくれる魅力にあふれている。
それもあって、【WAGNER 2008 限定萬年筆】のペン先に指定したのじゃ! こちらが調整後のペン先。スリットは多少拡げられている。
またペンポイントの筆記角度は拙者に合わせて完璧に調整した。完璧な書き味となったので、自信満々で女王様に献上した。
ところが、先日の【その1】とtもに、見事にダメ出しをくらった・・・何故じゃ!
あたりまえだが、女王様の筆記角度ではなく、拙者の筆記角度で、どの捻りにも対応出来るように調整したのが原因。女王様の筆記角度はもっと高いのを忘れていた・・・ そこで、メチャメチャにしてやる!という気持ちで、320番の耐水ペーパーの上で、女王様の筆記角度に合わせてガリガリ、ガリガリ、ガリガリ・・・と削りまくった。この320番を使うとアドレナリンが出る。これが気持ちを高揚させてくれる。
ラッピングフィルムでスリスリすれば終わるような調整には興味はない。やはり調整はガリガリが基本。機械を使うならチャーチャーかな?
人間の五感のうち最後まで生きているのは聴覚だと父の臨終の時に看護婦さんから聞いた。
他の四感を全てOffにした状態で、どうやって調整結果を確かめるのか?と問われれば、やはり聴覚が一番頼りになる。官能も同じじゃろう。
さて、官能の限りを尽くして研いだペンポイントに女王様はどういう反応をなされるか?何を言っても既に手遅れで、他に打つ手はない!ヒヒヒ・・・
【 今回執筆時間:7.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整4.5h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間