2008年05月17日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 】

2008-05-17 01 今回の患者は【開高健モデル】。しかもBニブ。このモデルで一番書き味が好きなのは角形カットのMニブ、次がこのBニブじゃ。なんとも表現しようのない心地良い弾力がある。柔らかすぎず、硬すぎず、芯も腰もあるけど、しなやかで柔軟。要するに気持ちいい書き味なのじゃよ・・・

2008-05-17 022008-05-17 03 とはいえ、未調整では多少不満も出る。今回の患者は、書き味が多少下品と言われて送り込まれてきた。

 ペン先の形状はほれぼれするほど美しい。何度眺めても、どれだけ長時間眺めても飽きることはない。
Blogを書きながら、何度も手が止まってしまう。

 17日早朝は東京駅6:16発の新幹線で新大阪に向かっている。この記事を書いているのは16日22時。もう寝なければならない時間だが、画像を眺めているだけで、手が進まない。困った・・・それほど魅力的なペン先じゃ!

 スリットはごくわずかに開いているが、ドバドバが好きな依頼者には、多少物足りないであろうな・・・

2008-05-17 042008-05-17 05 ちゃんとした二段式のペン芯であるが、多少ペンポイントに寄りすぎている。もう少しペン芯を後退させた方が美しく見える。

 それにしてもペン芯の櫛も実に美しい。これまた見入ってしまってちっとも文章が進まない。本物よりもスキャナー画像の方が美しく見える。

 写真は引き算の芸術といわれる。切り取り、省略(暗部つぶし、ハイライト飛ばし)を駆使して対象物を強調する。とすれば、スキャナーも立派な引き算演出機ではないかな?・・・少なくとも美しさは強調されている。

 書き味が上品でないと言われる要因はスイートスポットが合っていないこと。斧型に削り上げられたペンポイントの角度が依頼者と全く合っていない・・・依頼者はもう少しペンを寝かせて字を書くからな。

2008-05-17 06 ペン先をソケットから外して見ると、うっすらとエボ焼けがペン先裏に残っている。しかし、それ以外に使った形跡はない。

 ところで、このペン先のバイカラーはどういう順番で鍍金してあったのかな?表裏の画像を比較しながら、どういう順番で地金に鍍金していったかをストーリー展開できるようになるとおもしろい。敢えて正解は書かない。

2008-05-17 072008-05-17 08 ではどういう状態に変化させたのかを簡単に!

 まずはペン芯を後退させ、スリットを多少開いた。これは左右を比べればわかろう。もちろん右側が調整後!

 それにしてもこの時代のペンポイントは裏側もきっちりと五角形になっている。これは今回初めて気付いた・・・まさに手抜きがない!ほかの安価モデルが酷かった時代にあってもNo.149には手を抜かなかったと言うこと!すばらしい!


2008-05-17 092008-05-17 10 ペンポイントは寝かせて書く筆記角度に合わせて研磨した。

 ほんの少しペンポイントの腹をさらっただけだが、書き味は激変した。実に上品になった!

 だが同時に開高健モデル】らしい書き味の印象もずいぶんと弱まった。依頼主にとっては書き味の良い萬年筆が一本増えたということになるが、拙者にとっては国宝級の【開高健モデル】を一本殺した・・・という感覚。

 スイートスポット作りは止めておくべきだった・・・こういうのは対面調整なら臨機応変に出来る。やはり持ち帰り調整は、修理物だけにしよう・・・反省!

 次世代に残すべき貴重な萬年筆の書き味調整はやらないことをここに宣言する! 当面はな・・・



【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆2.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

  


【これまでの調整記事】

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善    
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン     
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換              
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル  
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄               
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 
2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
venezia 2007しゃん

それは楽しみですな!
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月18日 19:55
師匠、
国宝級を一本殺したなどと思わないで下さい。何よりも書き心地が良くて所有者が生涯手放さないと愛おしく思えること、またそのように調整して下さった事に対する感謝の念無くして、良い物をただ持っていても宝の持ち腐れになるように思えます。勿論今回の調整のおかげで、このペンは生涯私の元から出ることはないはずです。ありがとうございます。海の向こうでまた今回のものと比較して国宝級か重文級か私には判断まだできませんが、氏素性的には似たものを見つけ連れてきました。後日お目通りをお願い致します。
Posted by venezia 2007 at 2008年05月17日 17:15