今回の患者は【開高健モデル】。しかもBニブ。このモデルで一番書き味が好きなのは角形カットのMニブ、次がこのBニブじゃ。なんとも表現しようのない心地良い弾力がある。柔らかすぎず、硬すぎず、芯も腰もあるけど、しなやかで柔軟。要するに気持ちいい書き味なのじゃよ・・・
とはいえ、未調整では多少不満も出る。今回の患者は、書き味が多少下品と言われて送り込まれてきた。
ペン先の形状はほれぼれするほど美しい。何度眺めても、どれだけ長時間眺めても飽きることはない。Blogを書きながら、何度も手が止まってしまう。
17日早朝は東京駅6:16発の新幹線で新大阪に向かっている。この記事を書いているのは16日22時。もう寝なければならない時間だが、画像を眺めているだけで、手が進まない。困った・・・それほど魅力的なペン先じゃ!
スリットはごくわずかに開いているが、ドバドバが好きな依頼者には、多少物足りないであろうな・・・ ちゃんとした二段式のペン芯であるが、多少ペンポイントに寄りすぎている。もう少しペン芯を後退させた方が美しく見える。
それにしてもペン芯の櫛も実に美しい。これまた見入ってしまってちっとも文章が進まない。本物よりもスキャナー画像の方が美しく見える。
写真は引き算の芸術といわれる。切り取り、省略(暗部つぶし、ハイライト飛ばし)を駆使して対象物を強調する。とすれば、スキャナーも立派な引き算演出機ではないかな?・・・少なくとも美しさは強調されている。
書き味が上品でないと言われる要因はスイートスポットが合っていないこと。斧型に削り上げられたペンポイントの角度が依頼者と全く合っていない・・・依頼者はもう少しペンを寝かせて字を書くからな。 ペン先をソケットから外して見ると、うっすらとエボ焼けがペン先裏に残っている。しかし、それ以外に使った形跡はない。
ところで、このペン先のバイカラーはどういう順番で鍍金してあったのかな?表裏の画像を比較しながら、どういう順番で地金に鍍金していったかをストーリー展開できるようになるとおもしろい。敢えて正解は書かない。 ではどういう状態に変化させたのかを簡単に!
まずはペン芯を後退させ、スリットを多少開いた。これは左右を比べればわかろう。もちろん右側が調整後!
それにしてもこの時代のペンポイントは裏側もきっちりと五角形になっている。これは今回初めて気付いた・・・まさに手抜きがない!ほかの安価モデルが酷かった時代にあってもNo.149には手を抜かなかったと言うこと!すばらしい! ペンポイントは寝かせて書く筆記角度に合わせて研磨した。
ほんの少しペンポイントの腹をさらっただけだが、書き味は激変した。実に上品になった!
だが同時に【開高健モデル】らしい書き味の印象もずいぶんと弱まった。依頼主にとっては書き味の良い萬年筆が一本増えたということになるが、拙者にとっては国宝級の【開高健モデル】を一本殺した・・・という感覚。
スイートスポット作りは止めておくべきだった・・・こういうのは対面調整なら臨機応変に出来る。やはり持ち帰り調整は、修理物だけにしよう・・・反省!
次世代に残すべき貴重な萬年筆の書き味微調整はやらないことをここに宣言する! 当面はな・・・
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆2.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間