今回の患者はセレニテ・ドラゴン。120本限定らしい。こういう工芸品的な物は死蔵されることが多く、あまりペンクリなどには出てこない。従って、拙者が目にする機会も少ない。蒔絵では模様系はすきだが、生き物系は好きではない。が、辰年生まれだけに、ドラゴン物は好き!
元々ウォーターマンには【スネーク】というモデルが100年ほど前にあった。軸に蛇が巻き付いていて、クリップが蛇の顔というもの。
第一回のペントレの時に、お宝探偵団が入ったが、その際の正解がWatermanのスネークだった。出題者のすなみまさみち氏が、蛇年とからめて出題したのだが、見事その意図を読み取ったcrocodile149しゃんは正解した! この図柄は一時流行したらしく、パーカーにも存在したし、モンブランも作ったことがある。後者を模したのが限定品の【アガサ・クリスティー】らしい。オリジナルはセイフティ・フィラー物ではなかったかな?
セレニテはおもしろい形状をしていて、内部は真っ直ぐであるが、外形は曲がっている。
コンバーターを入れるので内部が曲がっているはずはないのだが、目の錯覚で内部も曲がっているに違いないと考えてしまう。尻軸先端とキャップのデザインのせじゃろうな・・・ 症状はインクが漏れるということだったが、これはコンバーターの押し込み方が足りなかっただけ。まったく問題はなかった。
昨今はコンバーターもねじ込み式が増えてきたが、ウォーターマンはまだその対応をしていない。モンブランがいの一番に取り組んだと記憶しているが、さすがの見識!
インク漏れに長年苦しんできたメーカーだけに対応は早かったな!こういうところを見ると、モンブランのファッションブランド化を見くびってはいけない。ブランドはそれなりの品質を要求する!それが結果として製品に良い影響を与えているのじゃ。
ペン先を見ると例によってスリットが詰まりすぎている。この状態だとインクがあまり出ないので、自然と筆圧が高くなり、書き味をそこねてしまう。そこでスリットをひろげるわけだが、こういうプラチナ鍍金がペン先全体にかかっている物は難しい。
スキマゲージを入れて無造作に左右に捻ったらスリットから金が盛り上がってしまう。金一色ニブなら金磨き布の上でゴシゴシこすれば跡形も無くなるが、バイカラーやプラチナ鍍金ニブでは・・・鍍金が跡形もなくなってしまう・・・
拙者がプラチナ鍍金ニブを、最近快く思わなくなってきているのはこのためじゃな・・・(バイカラーは昔から嫌い!) その形状から、ラウンド・ニブと勘違いする人もいるが、左のようにちゃんとしたオープン・ニブの形状をしている。ラウンド・ニブとはSheaffer Snorkelの高級ラインや、デュポンのモンパルナスに見られるような筒型ニブのこと。
ペン先とペン芯との密着度合いはさすがWaterman!しっかりしている。昔からここだけは世界一ではないかなぁ・・・ あるいは、この事をねらってラウンド・ニブもどきの設計をしたのかもしれない。 こちらがスリット調整後のペン先ユニット。ちゃんとスリットは開いているが、金の盛り上がりは無いのがわかるかな?微妙な力加減の【神業】だが、あまり何度もはやりたくはない作業。
よく見ると、ハート穴は空いていない。単に切り割りの目印の為にポッチを押しただけのようにも見える。しかも多少ずれてるし・・・
ということは、このモデルでは空気はハート穴からではなく、ペン芯のサイドから入っていることになる。どうもサイド取り込み方式の方が、インクフローは安定しているような気がする・・・気のせいかも知れないがな。
【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間