
このM800とデュオフォールド・センテニアルを文房具のムック本で初めて見た当時、どちらのモデルにも14金ペン先があった。ずいぶん昔の話・・・
それから何年もたってから購入した最初のM800には【p.f.】マーク付き18金ペン先がついていた。当時は18金ペン先至上主義者だったので、14金ペン先は一ランク下の製品だと考えて馬鹿にしていた・・・いやはや・・・・
不具合内容は【ややあたりが硬い】こと。宴席で【なんとなく満足できない】と渡されたので翌日ペン先をチェックしてみた。【飲んだら研ぐな!】は守っておる。

依頼者は最近、気がつくとペンポイントの右側が紙に当たっているような感じがすると話していた。萬年筆を使い慣れてくると、ペンが右傾斜してくる人は意外と多い。拙者もその口。そして右傾斜を覚えると書き味のコントロールの幅がぐっと拡がっていく。
一方で、紙に引っ掛かるポイントは増えるので、萬年筆に対する満足度は下がってくる。
萬年筆の書き味はT.P.O.と筆記姿勢、体調、インキ、紙・・・・など様々な要素によって毎回感じ方が変わる。あまりに神経質になっては筆記を楽しめない。依頼者はその点を良く理解しているので、右傾斜時の書き味を改善すれば総合満足度は大幅に上がると判断したのだが・・・
画像を見てもわかるとおり、いくら【F】とは言え、スリットは詰まりすぎ。またペン芯をもう少し後退させる方が見映えが良いはずじゃ。


ペン芯をソケットから前進させた状態に調整する人もいるが、そうでなくてもMontblancと比べてペン先の固定具合が一歩劣るPelikanにそういう調整はふさわしくないと考える。Montblancのインク漏れ、Pelikanのペン先ズレは昔から愛好家を悩ましてきたテーマだからな。


右側の画像はスリットを拡げる前と後の比較じゃ。細字ならこの程度の開きで十分。書き出しでインクが紙に付けばそれでよい。
細字をいかに調整してもヌルヌルの書き味にはならない。スリットをめいっぱい拡げてニュルニュルの書き味を実現するのが一般的だが、大型ペン先で比較的柔らかいM800の【EN】や【p.f.】とはマッチしない。むしろ現行ニブ向きの調整じゃ。
そこで今回はニュルニュルではなく、グミのような、ぐにゅぐにゅした書き味を演出してみた。元々ペンポイントの裏側でもある程度書けるようになっていたので、そちらも多少調整した。


筆圧が相当強く、強烈にペン先を捻って書く人には、ソケットとペン先の間に細工をしないと筆記中にズレてしまう。今回の調整はあくまでも筆圧がフェザータッチの人向けの調整なので、むやみに真似せんようにな。ペリカンの調整は個体のそれぞれの部品の出来と、使用者の組み合わせを考えながらやる。だからこそ、おもしろい!拙者が最も調整をやりたいと思う萬年筆の1つじゃ。奥が深いですぞ!
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1h 修理調整3h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間