【萬年筆と科學】に関しては、第4分冊の内容が白ペンにかたよっていることから、解説を中止した。かわって今週からは【インキと科學】を連載することにした。
こちらの方が拙者には断然面白いような気がする。【萬年筆と科學】が物理の世界だとすれば、【インキと科學】は化学の世界!化学好きにはたまらない名著じゃ。
まずは、【インキと科學】復刻にあたってのパイロット筆記具資料館のあとがきを引用しよう。
渡部旭は、【パイロットタイムズ】に【萬年筆と科學】を連載するかたわらで、1931年(昭和6年)9月号より1941年(昭和16年)9月号までの約10年間にわたって、【萬年筆と科學】の姉妹編にあたる【インキと科學】と題する61講に及ぶ論文を執筆しています。 ・・・・中略・・・・
【インキと科學】では、万年筆にとって重要な問題であるインキの原理を化学の視点から考察しています。インキの主成分であるタンニン酸、没食子酸、硫酸第一鉄といった化学上最適な成分の研究、そして色相と色濃度の研究、インクの滓(かす)と沈殿の防止策、さらに鋼鉄ペンに対する防蝕問題などが論じられています。
これらは当時欧米各国の特許を得て、既に優秀性が認められていたパイロット・ブルーブラック・インキの完成により集大成された研究成果の立場から、インキの根本問題を時代的な返還を交えて、論述・展開したものです。
より立ち入った専門分野に関する事柄なども、独特の筆法により身近なものとなっています。また、インキ点滴図の吟味は、処方研究の重要な役割を担う物として氏が位置づけているものです。
粉末インキやインキと犯罪、秘密インキといった時代的な色合いの濃い話題もまとめられています。
また、1979年発行の【パイロットの航跡−文化を担って60年】という社史に以下のような記述もある。
パイロットインキ
当社は大正15年10月、パイロットインキを発売した。そのころ市販されていたインキは質の悪いものが多く、インキカスで万年筆のインキ溝がつまってしまうという苦情がよくあったので、当社が独自で万年筆に合うインキを開発したのである。
その後、品質の改良に努め、昭和5年10月、ブルーブラックインキを開発、日本、イギリス、アメリカ、フランス、オランダの5か国で特許をとった。これはインキをコロイド物質としてとらえる化学的研究によって、自然沈殿をほとんど皆無にし、鉄ペンの腐食を極めて少なくした世界的に優秀な製品であった。
昭和9年にはインキの自動注入機を自社で設計、製作して大量生産に着手し、日本のみならず世界各国への輸出を開始した。ブルーブラックインキが、蒔絵万年筆とともに、この時期における当社事業の国際化を担った意義は大きい。
どうやらパイロットがインク製造に乗り出したのは、無法インキに困り果てた結果のようじゃ。そして、パイロットは自社製ブルーブラック・インクを使っていればインク詰まりの問題は発生しないという神話を作り出した!
それが今でも、【万年筆にはそのメーカー製のインクを入れるべし】という言い伝えとなって残っているのかも知れない。
第一章を読んでみたが、実に面白かった。というか、全61章を理解する上で、最も重要なのが第一章のような気がする。上記のあとがき程度の内容なら第一章を読んだだけで書ける。
それほど面白い第一章は・・・来週まで待たれよ!