2008年07月05日

土曜日の調整報告 【 Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換 】

2008-07-05 01 今回の患者はSheafferの純銀軸。インペリアルのタッチダウン方式は非常にエレガントだが、特にこの純銀軸は大好き!

 その昔、アメ横中の在庫を全部買ったのではないかと思うくらい集めた事がある。当時は新品で15,000円くらい。今なら同程度の品がさらに安く入手出来る事もある。オークションの魅力はそこであり、また、リスクもそこにある。

 依頼人は、このUsed Sheafferをかなり競って落札したらしい。ところが翌日?新品がさらに安い値段で落札しているのを発見したとか・・・

 こういう時、届いた物が考えていたよりも状態が良ければあきらめも付く。しかし、そうでなければあちらもこちらも気に入らなくなってしまう。

 依頼人は気になっていなかったようだが、この個体はキャップがゆるい。締めたときに多少カタカタする。試しに部品箱にある別の首軸に挿してみたらピタっと決まった。首軸が痩せてしまったか、キャップを止める部分が摩耗していると考えられる。

2008-07-05 022008-07-05 03 ペン先は何も問題なくて、丸くて良い玉のように思えるのだが、先端部が多少右に曲がっている。

 
筆記には問題はないはずだが、上記の経緯があるので、気になって仕方ないのであろう。ここまで状態の良い大きなペンポイントはなかなかSheafferでは見つからないのに・・・惜しいなぁ・・・

2008-07-05 042008-07-05 05 横顔を見ると、ペンポイントの立派さが際立つ。誰の調整もかかってなくて、ここまで綺麗な状態というのは、Sheafferでは希有。これは研がないで残しておきたいなぁ。

 ペン芯の素材もエボナイト。とにかくこの時代のSheafferには手抜きがない。MontblancPelikanが苦境にあえいでいた時代だが、ParkerSheafferは日本市場では我が世の春を謳歌していたのかな?

 会社に勢いがあるときには良い萬年筆が出現する。会社が利益追求を求めてコスト削減【人件費削減:機械化、原材料費削減:コストカット穴・・・】などを始めると、書き味は良くても魅力に乏しい萬年筆になってしまう。拙者は萬年筆に回転寿司の手軽さ、安さ、早さは要求しない。


2008-07-05 06 ありがちな事だが、使った後でインクを抜いて保存していなかったゴムサック式萬年筆は、全てゴムサックが硬化してボロボロになる。

 しかも機構内部の金属を一部溶かしたかのように貼りついて、ピンセットなんぞで抜き取るなんて不可能。歯科用の小さなメスで丹念に硬化したゴムを削り落とすしかない。

 しかし、よしんばサックを交換したとしても首軸が痩せているのでは、キャップの収まりは悪い。

 そこで首軸を別の物と交換することにした。非常に書き味は良いのだが、尻軸が無いので部品化していた軸があった。そちらの首軸ユニットをこの胴軸と合体させた。

2008-07-05 072008-07-05 08 この首軸に付いているペンポイントは調整に調整を重ねてある。スリットが詰まっていそうなのに、紙に当てるとインクがドクドクと出てくる。細字なのにストレスはまったく感じない。

 そして元々の首軸ユニットはそのままの状態でお返ししよう。ペン先先端の微妙な曲げなど、将来身につけるべき修理ノウハウ取得の絶好の生贄じゃ。多少研いでもペンポイントはたっぷりある。つい削りすぎてしまう依頼者にはうってつけ!

2008-07-05 092008-07-05 10 拙者は研磨が仕上がった状態が美しい物が好きじゃ。それこそが良い書き味を提供するべきと考えている。ところが、こういう多少アグリーな形状のペンポイントが絶妙の書き味を提供してくれることがある。

 理想と現実のギャップに悩むのは調整師も同じじゃ・・・まだまだ達観出来ない。


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
  
  

【これまでの調整記事】

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Posted by pelikan_1931 at 10:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
ポンちゃん

フム! という声だけ上げて、何もいじらなくても、【先生、すばらしくなりました!】と言ってもらえるようになったら一流じゃ。

書き味をつきつめると、【気の迷い】に行き着くケースが多いのでな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月07日 19:56
調整のコツは寸止め!
あまりに深いお言葉です。
まずは5年精進いたします!
Posted by ポンちゃん at 2008年07月06日 01:02
yemo しゃん

良い調整を見るといろいろヒントが得られます。

まずはフルハルターで調整していただいた物を、何度も眺めていると、気づく事が多いですぞ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月06日 00:03
ポンちゃん 

調整のコツは寸止め!

ずっとこれをやっていれば、5年もすれば知らず知らず止めなくても良くなるものじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月06日 00:00
「理想と現実のギャップ」
これはよく思い当たる節がありますな。
私の場合、「理想」は「理論」に置き換えても成立しますが。
これら二つが乖離する状況に直面したとき、
自分自身がある一つの理論を理解しきれずに
それを完璧に現物に再現する技量が足りないのか、
そもそも理論自体が不完全でどこか再構築する余地があるのか、
いづれかの選択を迫られ、その都度悶々とする有様です。
ともかく、これからも多くの数をこなして、
自らの未熟な調整の最中で出くわす数多くの矛盾を
一つでも多く止揚させ、調整の腕を上げなければならぬと
猛省するばかりであります。
Posted by yemo at 2008年07月05日 20:19
5
師匠、移植手術ありがとうございました!
残った首軸は、いつか尻軸を入手して、復活させてみたいと思います。

最近、ようやく細かい事に目をつむったり、
調整を一度にやり過ぎない、という事を覚えました。
サルがようやく類人猿くらいになった感じです。
調整の道は険しく長いですね…。

明日は例会にお邪魔出来ると思いますので、何卒宜しく御願い致します!
Posted by ポンちゃん at 2008年07月05日 14:51