2008年07月26日

土曜日の調整報告 【 Parker Duofold International 18C-XXB 生贄 】

2008-07-26 01 今回はデュオフォールド・インターナショナルの初代軸。当時、このマーブル・ブルー軸のほかに、マーブルレッド軸、マーブルグリーン軸、黒軸があった。ただし日本ではグリーン軸の萬年筆は売れないというジンクスがあり、マーブルグリーン軸は結局は輸入されなかった。拙者はこのマーブル・グリーン軸の一本目はをニューヨークの文具雑貨店で購入した。まだまだインターネットなんて良く知らなかったころじゃ・・・

2008-07-26 02 月曜日に紹介したセンテニアルと大きさを比べると・・・意外に差が無い。感覚的には相当大きさに差がある感じがしていたのだがな。

 軸の径が細いので握った感覚はかなり違う。またペン先の大きさもかなり違う。インターナショナルの方が剛性がやや強いかな?値段はセンテニアルの5万円に対して4万円だった。1990年時点。日本で発売されていたペン先のバリエーションはXF、F、M、B、XXB、BO、XXBO、MI。

 1987年10月にデュオフォールド100として発売された時にはインターナショナルはラインナップに無かった。18金ペン先付が40,000円、14金ペン先付が38,000円だった。当時は18金ペン先の方が相当偉い?と思われていたのか、14金ペン先付きを買う人はほとんどいなかったらしく、すぐに姿を消した。

 デュオフォールドの宣伝文句の中に、一時【クルミのチップの中でXX時間磨き上げたペン先】・・・なんて表現があった。てっきりそれが【ベルベットの書き味】を実現する秘密だと思っていたが、販売マニュアルには【クルミのチップ云々】は記載されていない。かわりに新開発のペン芯のインク供給システムが優れていることによって【ベルベットの書き味】が実現できると書いてある。

 すなわち、安定し、ふんだんなインクフローで書き味を向上させるという王道じゃ。この時代に、主旨を理解
できていたら無駄な研磨で何百本も萬年筆をオシャカにする必要はなかったのに・・・と悔やまれてならない。

2008-07-26 03 今回のペン先は矢羽根タイプのペン先で、XXB。パーカーのXXBのペンポイントは実に大きい!いかようにでも研磨出来るだけのキャパシティを持っている。

 それが今では、(日本では)Bまでしか入手できない。それこそ萬年筆愛好家にとっては、生殺しのような状態になっている。以前はどのモデルも首軸とペン先は同じだったので、首軸毎交換するシステムがあった。ところが昨今は、軸の色に合わせてペン先の鍍金を塗り分けている。3種類のパターンが存在する。それによってペン先の種類を減らしたのだとしたら、本末転倒もの!しっかりユーザニーズを把握しなくっちゃ!

 上の画像のようにスリットは詰まっているわけではない。ただし広大な接紙面積をカバーするには、このスリット幅では心許ない・・・

2008-07-26 042008-07-26 05 こちらが横顔。実に美しい・・・

 ペン先の折れ方、ペン芯のカーブ、そしてペンポイントの形状・・・実に自然で癖がない。これとくらべるとセーラーの研ぎは研ぎ跡がクッキリとつき、お世辞にもエレガントとは言えない。伝統を継承した研ぎや書き味も大事だが、見映えも重視して欲しいなぁ・・・

 ちなみにこの研ぎは、研ぎ師の手による物かな?それとも自動研磨?というのも・・・

2008-07-26 06 多少の段差はあるものの、あまりに左右対称に研がれている。目安となる直線部分を削り込まないで研ぐにはものすごい時間がかかるはず。また仕上がり具合も試し書きしないとわからない。

 実に時間がかかる作業。パーカーにそれだけ多くの研ぎ師が養成されているとも思えない。やはり機械研ぎと考えるのが自然ではないかな?もちろん検品は人間がやっているのかもしれないが・・・

 上の図でペンポイント先端の逆ハート型になっている部分が接紙部分。これだけの面積にインクを供給するには、現状のスリット幅では・・・

2008-07-26 072008-07-26 08 ということで、スリットを拡げたのがこちらの画像。

 多少腹開きになっているのが分かるかな?

 ペン芯の先端が、ペン先の矢羽根の彫りの延長上に見える。このあたりのデュオフォールドのこだわりようは半端ではない。我々以上の萬年筆ヲタクが社内にいて、【君らが望む機能や性能を、デュオフォールドの復刻というテーマでやってみよ】との指令を受けて、嬉々として昼夜を徹して楽しんだ結果が、このデュオフォールドだったのではないかな・・・オーディオもそうらしいが、マニアックな世界では、マニアが設計した商品がヒットするらしい。デュオフォールドもご多分に漏れず大ヒットした!

2008-07-26 092008-07-26 10 ペンポイントは依頼者の書き癖に合わせてかなり削り込んだ。以前の状態からすると、ペンポイントの斜面の角度が変わっているのがわかるかな?最近寝かせて書くようになった。通常はペンを多少左に倒して書くが、ペンの後を持つときには、たまに右傾斜になる・・・というような筆記時の特徴思い出しながら調整するのじゃ。

 調整が終わったペン先をそっとインク瓶に浸して、ティッシュで軽く拭い、フッとペンポイントを吹いてから紙に当てて書いてみる・・・筆圧ゼロで紙にインクが着けば良し!ああ気持ち良い!


【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

 


【これまでの調整記事】

2008-07-23 1950年代 Montblanc No.142 14C-M 書き味向上     
2008-07-21 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄       
2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
2008-07-17 Pelikan 500N 茶縞 14C-M インクフロー改善      
2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     

2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換 
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 
2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 

Posted by pelikan_1931 at 10:10│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
Bromfield しゃん

貴重な情報ありがとしゃん!

パーカーもブランド化? そのうちパーカー・ブランドのポリバケツなどが出るのかな?

オンラインで定価販売ですか・・・意味無さそうですね。パーカーも終焉ブランドの一員かも・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月04日 00:56
Duofoldについて、従来は20−25%のディスカウントするアメリカの正規販売店(=パーカーの保証書つき)で、最近オンライン価格が急激に上昇しました。その店に何かあったのかと問い合わせてみたところ、メーカーの指導で、定価で販売しなければならなくなったとのこと。その店は、モンブランはまだ値引き販売しているのに、パーカーは定価販売です。メーカーの指導による、調整も何もない万年筆のオンライン定価販売、日本にも波及するのでしょうか。気になるところです。

Posted by Bromfield at 2008年08月03日 11:05
yemoしゃん

【品数を増やして儲けが増えたラーメン屋は無い】というのが、昔はよく言われた。

今なら【ペン先がF,M,Bだけで反映する萬年筆ブランドは無い】と言えよう。
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月27日 12:00
>現在メーカーが直面している矛盾、問題点を冷やかに突きつけている

↑至言ですねぇ。

Duofold・XXBニブに出会ってからこのメーカーに対する評価が変わりました。うーん復活させて欲しい。
Posted by 怠猫 at 2008年07月26日 23:59
Duofoldの記事とあっては口を挟まずにいられない悲しき性

>装飾パターン増加に伴うコスト調整のためのペン先種類の減少。
>パーカーにはユーザーニーズの適切な把握を望む。

至言ですなあ。まさに今現在のパーカーの迷走を端的に言当てている。
万年筆のアクセサリー化、見栄え重視化は時代の趨勢であり、
その面に迎合するのはメーカーとしては仕方のないところとはいえ、
その反動として本来存在していた多種のペン先を不必要のものとみなし
安易に断絶してしまうのは、それまでの万年筆文化が有していた
豊かな多様性を―それを長年に渡り育んできたメーカー自身が―
否定してしまっているに等しい。
このことは、とりもなおさず万年筆文化の衰退・破壊を進展させるもの
であり、今一度危機感を持って対峙せねばならぬ問題といえるでしょう。

90年代、パーカー隆盛期の晩年の傑作であるDuofold・XXBニブは
かつての豊満な万年筆文化の香りを湛えつつ、その一方で
現在メーカーが直面している矛盾、問題点を冷やかに突きつけている、
そんな気がします。
Posted by yemo at 2008年07月26日 20:21