2008年08月04日

月曜日の調整報告 【 Sheaffer インペリアル 14K-F 手が伸びるペンに! 】

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 今回は久々のSheaffer。カートリッジ・コンバーター式のインペリアルで、全盛期にはかなり売れたはずじゃ。当時の日本国内における輸入ブランドの格付(輸入量)では、一位がParkerで2位がSheafferParkerより幾分か安かったSheafferはずいぶんと持っている人が多かった。

 拙者がアメ横を萬年筆を求めて徘徊し始めた頃には、どの店に行ってもインペリアルが大量に置いてあった。現行品としてではなく、売れ残りのような形だったがな。

 その後、MontblancPelikan
ブランドとしての力をつけてくるに従って、独逸信仰の強い日本人は、Sheafferからは離れていった。

 しかし現在でもペンポイントを自作している萬年筆メーカーはパイロットとSheafferだけといわれるほど、ペンポイントにこだわっている。

 象徴的な【上に反ったペン先】と合わせて、いまでも侮れないメーカーじゃ。フランスのBICに吸収された後に出したVLRのペン先の作りの良さに舌を巻いた事もある。

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 ペンポイントは細字で、スリットは詰まっている。これは依頼者の父上の所有物だったらしい。たまに握ってみるが、あまりの書き味の悪さに最近では手が伸びなくなってしまったとか・・・

 ペン先が元々悪いのではなく、依頼者は左利きで父上は右利き。そのままではいつまでたっても手は伸びないであろう。

2008-08-04 042008-08-04 05 ペン芯を見ると手入れの程度がわかる。この萬年筆は非常に手入れがよいか・・・ほとんど使われていない。ペンポイントもほとんど摩耗していないように思われる。

 一見、硬そうなペン先だが、鳩胸(上反り)の形状がもたらす柔軟性のおかげでタッチは柔らかい。【剛筆なのにタッチは柔らかい】という二面性が一部の熱狂的なSheaffer愛好家を惹きつけて止まないのであろう。


2008-08-04 06 構造は至って簡単。キャップと首軸部と胴軸だけ。このシンプルさが故障の劇的な削減をもたらした。スノーケル時代は、バネのサビ、Oリングの硬化、サックの劣化など数多くのトラブルを抱えていた。今でも拙者のペンクリに持ち込まれるSheafferのほとんどはスノーケル。それほどトラブルが多かったわけだが、カートリッジモデル以降は、持ち込まれる原因はインクフローと書き味が中心で、機構トラブルはゼロ!

 メーカーにとっては実に都合が良いし、ユーザにとってもトラブルから解放されて嬉しい限りであったのだが・・・結果として筆記具としてのおもしろみが無くなり、日本市場での評価は下がってしまった。もし拙者がSheafferの社長になったら・・・アラブの萬年筆好きの富豪に増資を500億円ほど引き受けてもらい、スノーケル方式のPFMを復活させる。しかもOリング交換も、スノーケル管交換も、サック交換も、ペン先ユニット交換も全てねじ込み式にし、個人でも交換可能とする。多少外装に凝って10万円程度でブティック販売・・・アレ?


2008-08-04 07 こちらが調整後のペン先部分の拡大画像。先端部を平たくして、左利き独特の押し書きがやりやすくしたと同時に、スリットを拡げインクフローを拡大した。

 依頼者は筆圧が低いので、これくらいスリットが開いていないと、書き出しでインクが出ない。もう少し開いても良かったかもしれない・・・

 ペンポイントの溶着がこれほど綺麗なものは珍しい。特に米国メーカーはペン先が溶着されている姿に無頓着なので、こういう美しい姿を見るのは嬉しい。掃き溜めに鶴と呼んでは失礼なので、地獄で仏にしておくかな?

2008-08-04 082008-08-04 09 こちらは調整後の姿。スキャナーの走査方向を変えて撮影した。

 調整前の画像(5個目の画像)と比較すると、ペンポイントの斜面がなだらかになっている。これが押し書き対応の秘訣。通常は引きながら書くので、研磨は腹から先端に向けてやる時間が70%程度だが、押し書き用調整の際は、先端から腹に向けてエッジを落とす作業が70%となる。調整の時間配分が逆になると考えればよい。

 なお左利きであっても、押し書きの人だけではなく、引き書きの人もいれば、押し引き両方の人もいる。やはり書いている姿を見ないと精度の高い調整は出来ないのじゃ!



【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


【これまでの調整記事】

2008-08-03 Montblanc No.149 14C-F ピストン動かず・・・    
2008-07-30 Pelikan M700 雑巾トレド 18C-M 書き味微調整    
2008-07-28 Montblanc No.144G 14C-OB→B 研ぎ出し    
2008-07-26 Parker Duofold International 18C-XXB 生贄    
2008-07-23 1950年代 Montblanc No.142 14C-M 書き味向上     
2008-07-21 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄       
2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
2008-07-17 Pelikan 500N 茶縞 14C-M インクフロー改善      
2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     
2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
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2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換 
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
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2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
Posted by pelikan_1931 at 07:30│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
monolith6 しゃん

確かにネジはコノソアールと同じで不細工ですな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月04日 19:43
オヴリーク2104 しゃん

30数年前はSheafferも良いニブを作っていたという事じゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月04日 19:42
しまみゅーら しゃん

単なる製品のばらつきだとすれば、品質管理ノウハウの不足かなぁ・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月04日 19:41
Bromfield しゃん

なんと、独逸にOEMに出したから品質が良くなった・・・可能性もあるとは!

なにか悲しい現実ですな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月04日 19:39
>象徴的な【上に反ったペン先】と合わせて、いまでも侮れないメーカーじゃ。フランスのBICに吸収された後に出したVLRのペン先の作りの良さに舌を巻いた事もある。

 皆さん既にペン・ポイントについてコメントしておられますが、私も便乗して一言。VALOR(日本ではVLR)については、私も以前から興味を持っておりました。考えてみれば、これまでにシェーファーが出したインレイド・ニブの万年筆は全て、スリップ・キャップのものばかりで、ネジ切りがコノソアールと同様にいい加減であるにせよ、ネジ式キャップでインレイド・ニブ仕様の万年筆はVLRが初めてです。

 ここ1〜2年の間に入手した、タルガのFニブで、初めて満足の行くFニブに出会ったとの感想を抱きました。VLRのも楽しみです(と、言いつつ、多分Bニブを入手するでしょう)。
Posted by monolith6 at 2008年08月04日 18:40
師匠ありがとうございました。
物は筆不精の父親が30数年前電話技術者としてイラクに出張した折買い求めたもののようです。帰国後私の物になりましたが胸ポケに指した覚えはあっても使った覚えは皆無に近いです。。これを機に使おうと思います!
Posted by オヴリーク2104 at 2008年08月04日 13:01
> ペンポイントの溶着がこれほど綺麗なものは珍しい。

 確かに…シェーファーのインレイドニブは3本持っていますが、そのうち2本は温度不足の半田付けみたいな不格好さ…。最近買ったレガシーヘリテージも、そうでした。イリジウムが斜めに付いていて、切り割りの左右もアンバランス!

 手持ちでは、デスクペンの14Kニブだけが綺麗に付いてます。本当に、別物みたいな綺麗さ。付ける人によって違うのかな?
Posted by しまみゅーら at 2008年08月04日 09:50
シェーファーのフォートマディソン工場で生産されていたValorのニブユニットは、今年3月の工場閉鎖を受けて、ドイツに下請けに出されているとの噂が、アメリカの万年筆フォーラムでは絶えませんでした。実際に関係者によって、そのようなことが以前に検討されていたとの書き込みもありました。フォートマディソンの従業員達は多くが解雇されたとのこと。職人技を要するニブの生産が、実際にはどうなってしまったのか、心配です。
Posted by Bromfield at 2008年08月04日 09:50