今回は久々のSheaffer。カートリッジ・コンバーター式のインペリアルで、全盛期にはかなり売れたはずじゃ。当時の日本国内における輸入ブランドの格付(輸入量)では、一位がParkerで2位がSheaffer。Parkerより幾分か安かったSheafferはずいぶんと持っている人が多かった。
拙者がアメ横を萬年筆を求めて徘徊し始めた頃には、どの店に行ってもインペリアルが大量に置いてあった。現行品としてではなく、売れ残りのような形だったがな。
その後、MontblancやPelikanがブランドとしての力をつけてくるに従って、独逸信仰の強い日本人は、Sheafferからは離れていった。
しかし現在でもペンポイントを自作している萬年筆メーカーはパイロットとSheafferだけといわれるほど、ペンポイントにこだわっている。
象徴的な【上に反ったペン先】と合わせて、いまでも侮れないメーカーじゃ。フランスのBICに吸収された後に出したVLRのペン先の作りの良さに舌を巻いた事もある。
ペンポイントは細字で、スリットは詰まっている。これは依頼者の父上の所有物だったらしい。たまに握ってみるが、あまりの書き味の悪さに最近では手が伸びなくなってしまったとか・・・
ペン先が元々悪いのではなく、依頼者は左利きで父上は右利き。そのままではいつまでたっても手は伸びないであろう。 ペン芯を見ると手入れの程度がわかる。この萬年筆は非常に手入れがよいか・・・ほとんど使われていない。ペンポイントもほとんど摩耗していないように思われる。
一見、硬そうなペン先だが、鳩胸(上反り)の形状がもたらす柔軟性のおかげでタッチは柔らかい。【剛筆なのにタッチは柔らかい】という二面性が一部の熱狂的なSheaffer愛好家を惹きつけて止まないのであろう。 構造は至って簡単。キャップと首軸部と胴軸だけ。このシンプルさが故障の劇的な削減をもたらした。スノーケル時代は、バネのサビ、Oリングの硬化、サックの劣化など数多くのトラブルを抱えていた。今でも拙者のペンクリに持ち込まれるSheafferのほとんどはスノーケル。それほどトラブルが多かったわけだが、カートリッジモデル以降は、持ち込まれる原因はインクフローと書き味が中心で、機構トラブルはゼロ!
メーカーにとっては実に都合が良いし、ユーザにとってもトラブルから解放されて嬉しい限りであったのだが・・・結果として筆記具としてのおもしろみが無くなり、日本市場での評価は下がってしまった。もし拙者がSheafferの社長になったら・・・アラブの萬年筆好きの富豪に増資を500億円ほど引き受けてもらい、スノーケル方式のPFMを復活させる。しかもOリング交換も、スノーケル管交換も、サック交換も、ペン先ユニット交換も全てねじ込み式にし、個人でも交換可能とする。多少外装に凝って10万円程度でブティック販売・・・アレ? こちらが調整後のペン先部分の拡大画像。先端部を平たくして、左利き独特の押し書きがやりやすくしたと同時に、スリットを拡げインクフローを拡大した。
依頼者は筆圧が低いので、これくらいスリットが開いていないと、書き出しでインクが出ない。もう少し開いても良かったかもしれない・・・
ペンポイントの溶着がこれほど綺麗なものは珍しい。特に米国メーカーはペン先が溶着されている姿に無頓着なので、こういう美しい姿を見るのは嬉しい。掃き溜めに鶴と呼んでは失礼なので、地獄で仏にしておくかな? こちらは調整後の姿。スキャナーの走査方向を変えて撮影した。
調整前の画像(5個目の画像)と比較すると、ペンポイントの斜面がなだらかになっている。これが押し書き対応の秘訣。通常は引きながら書くので、研磨は腹から先端に向けてやる時間が70%程度だが、押し書き用調整の際は、先端から腹に向けてエッジを落とす作業が70%となる。調整の時間配分が逆になると考えればよい。
なお左利きであっても、押し書きの人だけではなく、引き書きの人もいれば、押し引き両方の人もいる。やはり書いている姿を見ないと精度の高い調整は出来ないのじゃ!
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間