今回の患者はParkerのVictory。この固体はペン先の柔らかさは尋常ではない。Parkerではありえない柔らかさじゃ!
形は平凡だが性能はGoo! 昔のスカイラインGT-Rの【羊の皮を被った狼】という表現を思い出す。おとなしそうに見えて実は獰猛な走行性能というニュアンスだったが、このVictoryは見てくれは硬派だが書き味は軟派!
今回は修理依頼。酔いどれて大変なことをしでかしたのかもしれないので助けてほしい!というような依頼内容。依頼者もどこに不具合があるかは100%確信はないもよう。
そういえば、拙者が新入社員のころ、猛者と呼ばれたある一人の先輩から、痛飲翌日の始業時に決まって電話があり、【シーツが体にからみついて解けないので、午前半休・・・ツーツー・・・】とか、【目が覚めたらよその家のベッドに寝ている。事情がよくわからないので隣に寝ている女の人に事情を聞くので、午前半休・・・ツーツー・・・】とかいう一方的な電話をよく受けたのを思い出した。課長を含めて【珠玉の言い訳】とか【言い訳のアカデミー賞】とか言って絶賛していた。団塊の世代はすごかった・・・ 左図のようにペンポイントに向かうカーブは鋭角。ペンポイントの長さは、Parkerのそれとはあきらかに異なっている。
スリットはいい具合に調整されており、書き出しで掠れる事はないはずだが、依頼者の趣味からすれば、もう少しインクが出たほうが良かろう。
それにしてもペンポイントの太さを示す刻印の【N】というのは何を意味するのだろう?それにVictoryではなくDUOFOLDと刻印されている。ペン芯との親和性は良いのでニコイチとは考えられないが・・・はたして? 分解してみると、こうなっていた。これではインクはほとんど吸わない。これが酔いどれてやったオイタではないかな?
ボタンフィラーではバネは後ろ側から入れる。そしてサック交換時にも、後ろからバネを抜きとってから首軸を捻ってはずす。その順番を無視していきなり捻ると、バネは曲がり、サックはバネに挟まってメチャクチャになる。今回みたいに・・・ こちらがサックを換えた状態。これをまずは軸にねじ込んで、図では左側のアルミ部分からバネを胴軸の内面に先端が沿うように押し込む。サックの丸い先端を避けて押し込むわけじゃ。
しかる後、ボタン部分の内側にバネの先端を押し込んでから、ボタン自体を胴軸に押し込めば終了。今回使ったI-barという部品はDuofold用だったが、長さがVictoryと合わなかったので、多少ペンチでカットして使った。 こちらがペン先の裏側。わかるかな?リチップしてある!どおりでParkerの柔らかさと違うはずじゃ。おそらくはペンポイントが小さいのが耐えられなかったのか、ペンポイントが欠けたかしてリチップしたのであろう。
リチップの弱点は金に弾力がなくなってしまうこと。ヘロヘロで戻りの悪い金になってしまう。ところがこのヘロヘロが好きな【超低筆圧願望症】の人にはたまらない書き味となる。指で少しペンポイント付近を押さえるだけで形状が変わってしまうので、自分でペンポイントの調整ができる人でないとすぐに不具合が出てしまう。特にこのように先端へのカーブが急勾配なのはやばい! こちらが修理完了した姿。全体的なプロポーションとして、ペン先が堂々としている。実に良い感じ。キャップの尻軸側への挿さりかたには多少不満もあるが、Vintage物に対して厳しい要求をするのはかわいそう・・・書き味から考えたら文句は言えない。
調整後の姿がこれ!スリットを開いたので書き出しでインクが出ないトラブルは解消。また多少段差があったペン先も微修整。それにしてもリチップしたペンポイントは大きいなぁ。
ペン先先端部の金の薄さと、それにぶら下がっているペンポイントの大きさのアンバランス感・・・しかもペン先自体の弾力が無くなっているので、安易にペン芯と密着させられない。これ以上の微調整でペン先にストレスをかければ、ポロっとペンポイントが脱落しそう・・・
ペンポイントが欠けているのならともかく、単に極太が欲しい・・・などといった理由でリチップするのはかわいそうではないかな。特にそれが次世代に伝えたいような逸品であれば・・・
【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間