2008年08月09日

土曜日の調整報告 【 Parker Victory 酔いどれの後始末 】

2008-08-09 01 今回の患者はParkerVictory。この固体はペン先の柔らかさは尋常ではない。Parkerではありえない柔らかさじゃ!

 形は平凡だが性能はGoo! 昔のスカイラインGT-Rの【羊の皮を被った狼】という表現を思い出す。おとなしそうに見えて実は獰猛な走行性能というニュアンスだったが、このVictoryは見てくれは硬派だが書き味は軟派!

 今回は修理依頼。酔いどれて大変なことをしでかしたのかもしれないので助けてほしい!というような依頼内容。依頼者もどこに不具合があるかは100%確信はないもよう。

 そういえば、拙者が新入社員のころ、猛者と呼ばれたある一人の先輩から、痛飲翌日の始業時に決まって電話があり、【シーツが体にからみついて解けないので、午前半休・・・ツーツー・・・】とか、【目が覚めたらよその家のベッドに寝ている。事情がよくわからないので隣に寝ている女の人に事情を聞くので、午前半休・・・ツーツー・・・】とかいう一方的な電話をよく受けたのを思い出した。課長を含めて【珠玉の言い訳】とか【言い訳のアカデミー賞】とか言って絶賛していた。団塊の世代
はすごかった・・・

2008-08-09 02 左図のようにペンポイントに向かうカーブは鋭角。ペンポイントの長さは、Parkerのそれとはあきらかに異なっている。
 
 スリットはいい具合に調整されており、書き出しで掠れる事はないはずだが、依頼者の趣味からすれば、もう少しインクが出たほうが良かろう。

  それにしてもペンポイントの太さを示す刻印の【N】というのは何を意味するのだろう?それにVictoryではなくDUOFOLDと刻印されている。ペン芯との親和性は良いのでニコイチとは考えられないが・・・はたして?


2008-08-09 03 分解してみると、こうなっていた。これではインクはほとんど吸わない。これが酔いどれてやったオイタではないかな?

 ボタンフィラーではバネは後ろ側から入れる。そしてサック交換時にも、後ろからバネを抜きとってから首軸を捻ってはずす。その順番を無視していきなり捻ると、バネは曲がり、サックはバネに挟まってメチャクチャになる。今回みたいに・・・

2008-08-09 04 こちらがサックを換えた状態。これをまずは軸にねじ込んで、図では左側のアルミ部分からバネを胴軸の内面に先端が沿うように押し込む。サックの丸い先端を避けて押し込むわけじゃ。

 しかる後、ボタン部分の内側にバネの先端を押し込んでから、ボタン自体を胴軸に押し込めば終了。今回使ったI-barという部品はDuofold用だったが、長さがVictoryと合わなかったので、多少
ペンチでカットして使った。

2008-08-09 05 こちらがペン先の裏側。わかるかな?リチップしてある!どおりでParkerの柔らかさと違うはずじゃ。おそらくはペンポイントが小さいのが耐えられなかったのか、ペンポイントが欠けたかしてリチップしたのであろう。

 リチップの弱点は金に弾力がなくなってしまうこと。ヘロヘロで戻りの悪い金になってしまう。ところがこのヘロヘロが好きな【超低筆圧願望症】の人にはたまらない書き味となる。指で少しペンポイント付近を押さえるだけで形状が変わってしまうので、自分でペンポイントの調整ができる人でないとすぐに不具合が出てしまう。特にこのように先端へのカーブが急勾配なのはやばい!


2008-08-09 06 こちらが修理完了した姿。全体的なプロポーションとして、ペン先が堂々としている。実に良い感じ。キャップの尻軸側への挿さりかたには多少不満もあるが、Vintage物に対して厳しい要求をするのはかわいそう・・・書き味から考えたら文句は言えない。

2008-08-09 072008-08-09 082008-08-09 09 調整後の姿がこれ!スリットを開いたので書き出しでインクが出ないトラブルは解消。また多少段差があったペン先も微修整。それにしてもリチップしたペンポイントは大きいなぁ。

 ペン先先端部の金の薄さと、それにぶら下がっているペンポイントの大きさのアンバランス感・・・しかもペン先自体の弾力が無くなっているので、安易にペン芯と密着させられない。これ以上の微調整でペン先にストレスをかければ、ポロっとペンポイントが脱落しそう・・・

 ペンポイントが欠けているのならともかく、単に極太が欲しい・・・などといった理由でリチップするのはかわいそうではないかな。特にそれが次世代に伝えたいような逸品であれば・・・


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
    
    


【これまでの調整記事】

2008-08-06 Montblanc No.149 18C-EF ペン先曲がり  
2008-08-04 Sheaffer インペリアル 14K-F 手が伸びるペンに!      
2008-08-02 Montblanc No.149 14C-F ピストン動かず・・・    
2008-07-30 Pelikan M700 雑巾トレド 18C-M 書き味微調整    
2008-07-28 Montblanc No.144G 14C-OB→B 研ぎ出し    
2008-07-26 Parker Duofold International 18C-XXB 生贄    
2008-07-23 1950年代 Montblanc No.142 14C-M 書き味向上     
2008-07-21 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄       
2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
2008-07-17 Pelikan 500N 茶縞 14C-M インクフロー改善      
2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     
2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換 
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
 この度はお世話になりました。有難うございます。本当にどうかしてました、反省。
 このペンの経緯については、口頭では伝わりにくいと感じ、ここに記しておきます。
 6年前に都内で購入。当初からDUOFOLDのペン部がついておりまして、当時はオブリークの太字だったんです。柔らかかったです。
あの頃は、そのまま書ける手段を知りません。ですから難儀しまして、思い切ってリチップをお願いする事に。これをきっかけにして、F氏と知り合い、リチップの名手でもあるK氏の手を経る事となります。

しかし・・買った当初から柔らかいペン部に、極太ニブというのは『低筆圧願望症』を自覚する私でも、扱うのは至難の業でした。
暫くのお蔵入りを経て、「可哀そう」と仰った極太から細字への削りこみを再びF&K氏にお願いする事になります。
細字となってからは扱い易くなりまして、細かな書き込みに重宝していましたが・・
そうでしたか、それ程までに繊細になってましたか。コイツには、刀を扱う様な心構えが必要な様ですね。肝に銘じておきます。

文化遺産としては既に失格品ですが、私にとってはかけがえの無いペンです。

このペンには、永遠に等しい命を望んでいます。
Posted by 三日堂 蓮覇 at 2008年08月13日 23:33
そういえば、パイロットの往年のカスタム・シリーズなどのnibには
H576のように製造年月と一緒に製造工場のイニシャルH(平塚
工場)も刻印されていましたね。
Posted by Mont Peli at 2008年08月10日 06:00
Mont Peli しゃん!

おお!貴重な情報ありがとしゃん。

ペン先に製造工場を刻印するEnglish Parker とは、驚き。

そういえばPilotは製造時期を刻印してる・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月10日 04:31
nibの刻印の【N】は、ペンポイントの太さを示す刻印ではなく、このnib
を製造したイギリスのNewhaven工場を表しています。
[参考文献] 1.Fountain Pens:United States of America and United
kingdom (Andreas Lambrou著Philip Wilson版)p.211
2.PARKER DUOFOLD (David Shepherd & Dan Zazove共著
       Surrenden Pens Limited版)p.260
Posted by Mont Peli at 2008年08月09日 21:50