今回が4本委託されたNo.149修理の最終回。今までの3本が1960年代製だったのに対して、今回のだけは1970年代製。とはいっても1970年代の初期のもの。
依頼者はこの4本をほとんど同時期に購入したのだろうか?今年の9月よりNo.149は98,000円になろうとしている。ただし相場観としては、1970年代初めは、これよりもずっと高価な感じがしていたはず。プロのライターでなければ、おいそれと4本も似たような字幅のNo.149を購入はしなかったのではないかなぁ・・・ ペン先は14C-Fであるが、かなりポッチャリとした形状をしている。まるでこの時代の18Cのペン先のよう。
どうやらポッチャリ型は14Cでも18Cでもあったと判断するのが良いようじゃ。これは拙者にとっては新発見! 14Cは鋭角斜面、18Cが鈍角斜面と考えていた。
ただし最近、18Cの鋭角斜面を発見して、多少揺らいでいたのだが、今回の14C鈍角ニブで、完全に仮説が間違っていたことが証明された。
それにしてもペン先が詰まっている。これではインクフローが悪い。しかも柔らかいペン先ゆえ、筆圧をかけたところは濃い字になり、筆圧が低い部分は非常に薄い字になる・・・いわゆる濃淡の差が大きくなってしまう。80%の人は嫌い、20%の人は好む。 横顔を見ると、ペンポイントの一部に真っ直ぐにすり減っている部分がある。これもインクフローが悪いことによって筆圧を上げて書かざるを得なかった結果だと思われる。
細字でインクフローが良ければ、普段どんなに筆圧の強い人でも、グッと筆圧が下がるものじゃ。
この斜面がスイートスポットの基準になる。既に削り込まれているので、その周囲を丸めれば、得も言われぬ書き味になる。その激変ぶりには依頼者も驚くはず・・・とは言っても、ピストン機構が壊れてから、はや20年は経過しているであろうから元の書き味は忘れたかもしれんな・・・ 左の画像が、このこわれたNo.149から摘出したピストン機構。ピストンガイドの部分は無惨にも割れてしまっている。ただし【ピストン軸+弁】、そして【尻軸+螺旋棒】は生きている!ということは他のNo.149の救済に再利用できる!
No.149のパーツは時代を超えても規格が引き継がれている事が多かった。従って1960年代の【尻軸+螺旋棒】は、1960年代の口径の太い【ピストン軸+弁】にも問題なく流用できる。 それによって復活したのが8月6日に紹介した1960年代のNo.149じゃ。これで4本の完全に壊れたNo.149から2本が復活した。こういうのが修理の妙味! これをニコイチ【複数の部品を集めて一本を作る】と呼んで忌み嫌うコレクターは多い。
しかし萬年筆の大半はコレクターの為に作られているわけではない。筆記者の為に作られている。従って壊れた萬年筆が復活するのは筆記者にとってはこのうえなく嬉しいことじゃ! こちらは今回のニブを将来の復活に備えて調整した物。今現在では完動するピストン機構がないので価値がないが、将来発見されるであろうピストン機構の為に【花嫁修業】をしておくことは無駄にはならない。
まずあまりに尖っていたペンポイント先端を多少平べったく調整した。これで万人向きのペンポイントになったはず。すでに依頼者によって自然に作られていたスイートスポット周囲をまるく研ぐことによって、スポットが点ではなく面に拡がっていく。これが極上の書き味を演出してくれるのじゃ。 こちらが再利用しつくしたあとの1970年代No.149に残された部品。もちろんペン先は付いている。とすればピストン機構さえあれば復活できる。首軸部分が割れているわけではないからな。
問題は、その尻軸ユニットがなかなか入手困難なことじゃ。1960年代物にくらべれば、1970年代以降の物は尻軸トラブルは圧倒的に少ない。そこで・・・ 下のようなユニットが発見されれば、この1970年代のNo.149は復活する。海外オークションでたまに出てくるが、部品相場は約1万円。
これさえあれば、約1分でNo.149は復活する。この1970年代No.149は;
1万円で復活してペントレで4万円で販売する
1万円で復活して利用者が再度使う
将来に備えて部品提供する【献体】
という道がある。利用者にとっては単なる屑であっても、技術のある人の手にかかれば、それが再び資産となるのじゃ!
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間