2008年08月28日

解説【インキと科學】 その4

 本章の要約は【従来唱えられていたインキの理論の如く、タンニン酸第一鉄や没食子酸第一鉄が表面酸化または内部酸化により、水に溶けない第二鉄塩に化成し、依って沈殿が生起する!と説いていた酸化説だけではどうにも説明の出来なかった所も、コロイド化学を助太刀を得て頗る明確に了解する事が出来るに至りました】という文章に尽きる。

 中身を読むと、新たな課題が出てきたように感じられるのだが、渡部氏は【そして必ずしも粘稠剤を入れてベトベトしたインキにしなくとも沈殿の防止は不可能ではないという希望を呼び起こす事が出来たということは、お互いに大きな収穫であったといわねばなりません】と意見を述べている。おそらくは既に結論として出てはいるが、文章としては出したくない機密事項などを踏まえてこのような発言になったのであろう。文章を読む限りは暗い話ばかりなのだが・・・

 まずブラウン運動が永続的に続く物ではなく、減衰してしまうことについての説明がある。すなわちブラウン運動を行うコロイド粒子も電荷を持ち、+の電荷を持つ物、−の電荷を持つ物、どちらでもない物がある。

 そして衝突を繰り返す中で、+と−のコロイド粒子が衝突した場合には、お互いに吸引したきり再び離れられなくなり、それだけ粒子は大きくなってしまう。

 その際、両者の粒子が放電中和して電荷を失ってしまう事もあるが、多くの場合は一方の粒子の電荷が強くて一回二粒子の吸着だけでは放電中和せず、数粒子、数十粒子を吸着して初めて中和することとなり、粒子はだんだんと大きくなっていく。それがある程度に達するとブラウン運動が出来なくなり、ストークスの粒子沈殿律が働きかけ、沈殿が出来るというわけじゃ。

 当時は陰陽電荷の話などほとんどの人は知らなかったので、非常に多くの(無意味な)たとえ話も用いて理解させようと苦労している。一夫多妻制とか、男の腐ったのか女の生煮えかわからぬ態の奴・・・とか

 陰陽電極の吸着による沈殿の効果としていくつか例を出している

 ★石鹸に浄化作用があるのは、石鹸中の粒子が垢を吸着するから

 ★染料が織物の繊維に染まり付くのは両者の電荷の正負により吸着作用が働くから

 ★濁り水の中に水酸化鉄コロイドを少量加えると忽ちにして綺麗な水になるのは、濁水中の粒子が陰電極を持つに対して、水酸化鉄の粒子が陰電極であるため、急激に中和凝集して粒子が巨大となり急速に沈殿するから

 ★濁水中に明礬(みょうばん)を投入すると水が澄むのは、明礬の陽イオンを応用した物で、コロイド粒子が電荷が中和するのとよく似た働き

 ★黒砂糖を脱色して白砂糖にしたり、豆腐を固めたり、こんにゃくや寒天を作ったり、ビールや葡萄酒を清澄にしたりするのは全てコロイド化学の吸着作用または沈殿作用に属する

 ★昆布は濁った海には生えないと言われており、たしかに昆布のあるところの海水は実に澄んでいる。が、ある学者の研究によると昆布の葉から抽出した有機物は強力な陽性コロイドであって、これを濁水中に加えると忽ちにして濁水が清澄になる。昆布があるから付近の水が清いのかも知れない・・・

 ★大河の河口に出来る三角州にもあきらかにコロイド化学が作用している。河の濁水が海に注ぐや海水中の塩類の陽イオンと相作用する以外に、海水中の陽性コロイドとも相作用して沈殿の生成を助け遂に三角州を沖積するものと見ることが出来る。ナイル下流のエジプト文明はコロイド化学の上に打ち立てられた!

 などとだんだんスケールの大きな話をしている。これらは全てコロイド化学の重要性を読者に少しでもわかっていただこうと工夫した物であろう。

 それにしても良く本を読み、勉強している!やはり渡部氏はただ者ではない!

 しかし、以上の話は全て濁水沈殿によって綺麗にする話。濁水の代表であるインキにとって何か良いことがあるのだろうか?という疑問をのこしつつ次号へ!


【過去の記事一覧】

解説【インキと科學】 その4
 
解説【インキと科學】 その3−2
 
解説【インキと科學】 その3−1  
解説【インキと科學】 その2−3    
解説【インキと科學】 その2−2  
解説【インキと科學】 その2−1  
解説【インキと科學】 その1   



Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 文献研究