2008年08月30日

土曜日の調整報告 【 柘製作所 マイカルタ 21K-B ペン先段差 】

2008-08-30 01 今回の依頼品はグリーン・マイカルタ柘製作所の製品じゃ。もちろんペン先はセーラー製。プロフィット80をベースモデルとしている。

 セーラー創立80周年記念の【プロフィット 80】は発売後数年たってから人気が爆発し、現在では15万円を超えるような価格で取引されることもある。ブライヤー製だがその部分を作ったのは柘製作所。そのころから脈々と続いている両社の関係から出来たモデルであろう。そういえば丸善マイカルタ柘製作所製かな?

 症状はペン先の引っ掛かり。通常ならこの手の調整は数分で終わりなのだが、依頼主が非常に鋭敏な感覚の持主なのと・・・拙者もしばらく触ってみたい・・・との想いからじっくりと自宅調整することにした。

2008-08-30 022008-08-30 03 ペン先のスリットは良い按配に開いており、セーラーのB程度の字巾なら問題はない。

 ただしPelikanのB以上のインクフローを望むなら、もう少しスリットを開く必要があろう。特に今回の依頼者は書き出し速度が遅い上、書き出しの筆圧はゼロに近い。書き出しで字が掠れやすい条件を全て満たしている。

 おまけにイザ書き出すと、筆記速度はかなり速い!完璧な書き味にするには、使用前に毎回微調整を施すくらいの覚悟が必要。一時拙者もそういう時代があった・・・

2008-08-30 042008-08-30 05 調整前の横顔。問題点は二つ。最初はペンポイントの腹の部分が依頼者の筆記角度ではちょうど引っ掛かる。

 筆記角度30度程度で書き出すので、横線、斜め線が必ず引っ掛かりを感じてしまう。手首を捻って書けば、必ずどこかで引っ掛かるものだが、この状態では手首を捻らなくても引っ掛かってしまう。これはメーカーの想定した筆記角度以下で書く依頼者の問題でメーカーに非があるものではない。

 もう一つは書き味には関係ないが、ペン芯先端にイボのような突起がある。これはバリの一種であり、いかにも見映えが悪い・・・といってもここまで拡大すればの話だが・・・やはり 神はDetailに宿る ので直しておこう!

2008-08-30 062008-08-30 07 こちらがペン芯と分離したペン先。よく見るとペンポイントの部分までが金色をしている。

 これは通常の21金ペン先に、24金を鍍金した際にペンポイント部分の鍍金を剥がさなかったからじゃ。

 ボディからペン先にまでわたる24金鍍金は、海外市場からの要望に対応したものであろう。他社とくらべると多少金色が薄かったのでな。ドルチェヴィータを見るまでもなく、海外ではドギツイ金色の人気が高い!

 拙者は従来の白っぽいペン先や金属部分が好きなので、全ての鍍金を剥がして使っている。ただ人の物にそういう加工をするわけにもいかないので、今回色味の変更はやめておいた。

 段差はメーカー出荷状態では全て矯正されているはず。従ってこれは店頭で販売されていた時点から現在までの間のどこかで出来た物であろう。

 ここまで段差があれば引っ掛かるわな・・・これを見てわかるのは、こういう診断が出来れば調整は終わったようなものだと言うこと。段差を直し、腹の部分を筆記角度に合わせて研磨すれば終了!一番重要なのは診断なのじゃ。これはプロの調整でも素人調整でも同じ。必ず最初にルーペで覗くのは診断のため!

2008-08-30 082008-08-30 092008-08-30 10 あとは淡々と作業をするのみ。診断が終了してからこの3つの写真の状態にするまでは、30分とかかっていない。

 注意する点は絶対に金磨き布の上で8の字旋回をしないこと!金の上にさらに24金を鍍金してあるペン先の場合、鍍金自体が弱いので金磨き布に触れただけでも鍍金が剥がれる可能性がある。特に8の字旋回中に金磨き布に触れやすいペンポイントの根元部分は色味が変わってしまう。別の兵器で研磨する必要があるのじゃ!

 スリットをさらに拡げ、ペンポイントは依頼者の筆記角度に合わせて研磨した。依頼内容は【上品な書き味でヌラヌラ】だったが、見事に実現できた。そして忘れずにペン芯先端のイボも除去しておいた。これで完璧な万年筆になったはずじゃ。

 これで常時マヨネーズ5000番の耐水ペーパーを持ち歩くようになったら、依頼者も一人前じゃ! 



【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1h 修理調整0.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

   


【これまでの調整記事】

2008-08-27 1950年代 Montblanc No.144 14C-OBB 生贄  
2008-08-25 1960年代 Montblanc No.72 ペン先曲がり、そして・・・   
2008-08-20 Montblanc No.146 14K-F 首軸よりインク漏れ 
2008-08-18 Pelikan M800 現行品 18C-M 軽い引っ掛かり  
2008-08-16 1970年代 Montblanc No.149 14C-F 尻軸ユニット破損 
2008-08-14 NAMIKI Vanishing Point 14K-B インクフロー改善 
2008-08-11 1960年代 Montblanc No.149 14C-M 首軸破損 
2008-08-09 Parker Victory 酔いどれの後始末  
2008-08-06 Montblanc No.149 18C-EF ペン先曲がり   
2008-08-04 Sheaffer インペリアル 14K-F 手が伸びるペンに!      
2008-08-02 Montblanc No.149 14C-F ピストン動かず・・・    
2008-07-30 Pelikan M700 雑巾トレド 18C-M 書き味微調整    
2008-07-28 Montblanc No.144G 14C-OB→B 研ぎ出し    
2008-07-26 Parker Duofold International 18C-XXB 生贄    
2008-07-23 1950年代 Montblanc No.142 14C-M 書き味向上     
2008-07-21 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄       
2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
2008-07-17 Pelikan 500N 茶縞 14C-M インクフロー改善      
2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     
2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
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2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
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2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
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2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
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2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ

Posted by pelikan_1931 at 10:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
yakumoしゃん

松田のマヨネーズでしたか・・・試してみよう!調整利用。
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月31日 12:22
怠猫しゃん

耐水ペーパーにマヨネーズを擦り込んでから使えば、さらにまろやかになる・・・かも知れないと思いついたしだい。試してはおらぬよ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月31日 12:21
師匠! <(_ _*)> ゴザイマス。

マイ・マヨ(松田に限る!)をバッグに
忍ばせておける?季節と相成りました。

次回「唐揚げ」注文時には「5000番」をしっかり
貼り付けた「マイ・マヨ」チューブを卓に添え
させていただきます。(出し放題!つけ放題!削り放題!)

この2点....肌身離さず(・。・)
Posted by yakumo at 2008年08月30日 15:23
こんにちわ

>これで常時マヨネーズと5000番の耐水ペーパーを持ち歩くようになったら

前者はどうやってつかうんでしょう?
もしや、クライアント様の...

まぁ猫も何はなくともブライヤー&エボナイトを銜えてるので(^^;

でも、飼い猫が↑なことしたら、ぜったい段ボールでしゅかねぇ。

びくびく。
Posted by 怠猫 at 2008年08月30日 10:21