今回の依頼品はグリーン・マイカルタ。柘製作所の製品じゃ。もちろんペン先はセーラー製。プロフィット80をベースモデルとしている。
セーラーの創立80周年記念の【プロフィット 80】は発売後数年たってから人気が爆発し、現在では15万円を超えるような価格で取引されることもある。ブライヤー製だがその部分を作ったのは柘製作所。そのころから脈々と続いている両社の関係から出来たモデルであろう。そういえば丸善のマイカルタも柘製作所製かな?
症状はペン先の引っ掛かり。通常ならこの手の調整は数分で終わりなのだが、依頼主が非常に鋭敏な感覚の持主なのと・・・拙者もしばらく触ってみたい・・・との想いからじっくりと自宅調整することにした。 ペン先のスリットは良い按配に開いており、セーラーのB程度の字巾なら問題はない。
ただしPelikanのB以上のインクフローを望むなら、もう少しスリットを開く必要があろう。特に今回の依頼者は書き出し速度が遅い上、書き出しの筆圧はゼロに近い。書き出しで字が掠れやすい条件を全て満たしている。
おまけにイザ書き出すと、筆記速度はかなり速い!完璧な書き味にするには、使用前に毎回微調整を施すくらいの覚悟が必要。一時拙者もそういう時代があった・・・ 調整前の横顔。問題点は二つ。最初はペンポイントの腹の部分が依頼者の筆記角度ではちょうど引っ掛かる。
筆記角度30度程度で書き出すので、横線、斜め線が必ず引っ掛かりを感じてしまう。手首を捻って書けば、必ずどこかで引っ掛かるものだが、この状態では手首を捻らなくても引っ掛かってしまう。これはメーカーの想定した筆記角度以下で書く依頼者の問題でメーカーに非があるものではない。
もう一つは書き味には関係ないが、ペン芯先端にイボのような突起がある。これはバリの一種であり、いかにも見映えが悪い・・・といってもここまで拡大すればの話だが・・・やはり 神はDetailに宿る ので直しておこう! こちらがペン芯と分離したペン先。よく見るとペンポイントの部分までが金色をしている。
これは通常の21金ペン先に、24金を鍍金した際にペンポイント部分の鍍金を剥がさなかったからじゃ。
ボディからペン先にまでわたる24金鍍金は、海外市場からの要望に対応したものであろう。他社とくらべると多少金色が薄かったのでな。ドルチェヴィータを見るまでもなく、海外ではドギツイ金色の人気が高い!
拙者は従来の白っぽいペン先や金属部分が好きなので、全ての鍍金を剥がして使っている。ただ人の物にそういう加工をするわけにもいかないので、今回色味の変更はやめておいた。
段差はメーカー出荷状態では全て矯正されているはず。従ってこれは店頭で販売されていた時点から現在までの間のどこかで出来た物であろう。
ここまで段差があれば引っ掛かるわな・・・これを見てわかるのは、こういう診断が出来れば調整は終わったようなものだと言うこと。段差を直し、腹の部分を筆記角度に合わせて研磨すれば終了!一番重要なのは診断なのじゃ。これはプロの調整でも素人調整でも同じ。必ず最初にルーペで覗くのは診断のため! あとは淡々と作業をするのみ。診断が終了してからこの3つの写真の状態にするまでは、30分とかかっていない。
注意する点は絶対に金磨き布の上で8の字旋回をしないこと!金の上にさらに24金を鍍金してあるペン先の場合、鍍金自体が弱いので金磨き布に触れただけでも鍍金が剥がれる可能性がある。特に8の字旋回中に金磨き布に触れやすいペンポイントの根元部分は色味が変わってしまう。別の兵器で研磨する必要があるのじゃ!
スリットをさらに拡げ、ペンポイントは依頼者の筆記角度に合わせて研磨した。依頼内容は【上品な書き味でヌラヌラ】だったが、見事に実現できた。そして忘れずにペン芯先端のイボも除去しておいた。これで完璧な万年筆になったはずじゃ。
これで常時マヨネーズと5000番の耐水ペーパーを持ち歩くようになったら、依頼者も一人前じゃ!
【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1h 修理調整0.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間