2008年09月01日

月曜日の調整報告 【 Montblanc No.134 14C-OB ペン先波打ち修整 】

2008-09-01 01 今回の依頼品はMontblanc No.1341946-1948年の製造との記録があるが、キャップや軸、ペン先の組み合わせはいくつかあるようじゃ。今回のはLong Ink Windowのモデルで、キャップバンドは一本のみ。クリップはスネーククリップとなっている。このクリップは格好がよい!拙者はNo.138用のスネーククリップを持っているが、肝心の軸もキャップも持っていない・・・

2008-09-01 022008-09-01 03 元々はOMのニブだが、通常のMに研ぎ直されている。最海外でも研ぎを施す店が多くなってきた。

 オブリーク系は左利きの多い海外では人気が高いので、わざわざMに研ぎ直してあるのは珍しい。

 研いであるのは良いのだが、スリットが詰まりすぎている。これではインクフローは悪い。この時代のペン先は鋼のように弾力が強いので、長期間書いてスリットを開こうとしても無駄!どうしても力ずくで開くことになる。そもそもはこんなに強く密着してないはずなのだが、オブリークに削った人が寄せたのかも知れない・・・

 ここまで寄っていると、ペン先をペン芯から外さない限り直せない。それにペンポイントがキャップに当たっている感触がある。これは直しておかないと、力一杯捻った際にペンポイントが曲がってしまう。特に、人に貸した際が危険!

2008-09-01 042008-09-01 05 そして依頼者が一番気になっていたのが、ペン先の波打ち。左のようにペンポイント部分では辻褄が合っているが、そこに至るまでの段差が気になるというもの。この状態でも問題なく使えるが、段差の部分からインクがペン先上に小さくあふれる可能性がある。たいしたことではないが、見映えも気持ち良く為には重要。完全に直すには専用工具がいるので、ここでは目立たない程度・・・を目標に手作業で直してみた。

 これがものすごく時間がかかった!弾力のあるニブは曲げても曲げてもすぐに元通りになる。また翌日になれば調整戻りで、多少元に戻ってしまう・・・ということを繰り返してなんとか目立たない程度にはなった。調整では小さな変更ほど時間がかかるのじゃ。

2008-09-01 06 ペン先は相当にくたびれていて、首軸に隠れている部分などかなり歪んでいる。

 ペン先の裏にもエボ焼けがあるが、それほどひどくはない。OMをMに改造した際に、ある程度は磨いてくれていたのだろう。

 それにしても、よくぞ生きながらえてくれた!と背中をさすってあげたいほど。古いペン先は、それだけで萬年筆愛好家の心を癒してくれる。

2008-09-01 07 ペン先の裏側の画像で、ペンポイント部分が斜めになっている。これが元のペンポイントがオブリークであったからかもしれない。現在ではオブリークであっても根元は真っ直ぐになっているのだが・・・

 右から三分の一程度の場所でカーブが微妙に変化している。おそらくはどこかにぶつけたか、落下させるかして、この位置から曲がったのであろう。それを戻そうといじっているうちに、取り返しが付かなくなり、萬年筆店で修理オークションかショップに販売という流れだろう。海外では比較的こういう例が多い。

 従ってオークションで完品が出るのはプロショップ以外ではあり得ないと考えた方がよい。国内の信頼できる店で購入するのが一番の近道。WAGERに持ち込んでも一ヶ月くらいはかかるし、直る保証も無い。全て生贄扱いじゃ。今までは失敗したことが無いだけで、今後無いとは言い切れない。Vintage物には魔物が潜んでいる


2008-09-01 082008-09-01 09 こちらが波打ちを修整し、スリットを拡げたペン先、これを首軸にセットして、おもむろにインクをつけ、書いてみてビックリ!

 背筋に電流が走るほどの感激!すばらしい書き味!いや書き味だけではなく、字が綺麗に見える!スタブ系の形状なのだが出てくる字形がすばらしい!

 No.134に熱狂するWAGNER会員が数人いるが、何故No.134にこだわるのかやっとわかった。

 これは絶品じゃ・・・
しかし、これは持ち歩けない。活躍の場は自宅の机の上しか無いであろう。もし拙者が萬年筆で字を書くのを楽しむ文筆家なら、これ一本で十分!と判断したかもしれない。

 拙者の趣味は調整なので、既に調整の終了した患者への興味は薄れていく・・・そうでなければ、調整の終わった萬年筆を依頼者に返せなくなってしまう。

2008-09-01 10 ペンポイントの形状に魔法の書き味の秘密があるのか、ペン先の金の厚みの変化に秘密があるのか・・・はたまたどこかにクラックが入っていて、それが魔法の秘密なのか?あるいは、曲がったペン先を元に戻した際に魔法がかかったのか・・・

 おそらくは、金の厚みと鍛錬の仕方に秘密が隠されているのであろう。何の変哲もないくたびれたニブがこれほどすばらしい書き味を提供してくれる!

 萬年筆メーカーの戦う相手は競合メーカーではなく、自分たちの過去の製品かもしれない。

 そういう戦いをいち早く放棄したMontblanc経営戦略は優れている。無駄な戦いは経営者としてけっしてやってはいけない。技術者のプライドよりも株主への配当や株価の向上こそが経営者の使命!

 そういうことなので、萬年筆は株式会社ではなく小さな工房で、プライドを持って作っていただいた方が、萬年筆愛好家にとっては嬉しいのかも知れない・・・


【 今回執筆時間:7時間 】 画像準備1.5h 修理調整4h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

   

【これまでの調整記事】

2008-08-30 柘製作所 マイカルタ 21K-B ペン先段差  
2008-08-27 1950年代 Montblanc No.144 14C-OBB 生贄   
2008-08-25 1960年代 Montblanc No.72 ペン先曲がり、そして・・・   
2008-08-20 Montblanc No.146 14K-F 首軸よりインク漏れ 
2008-08-18 Pelikan M800 現行品 18C-M 軽い引っ掛かり  
2008-08-16 1970年代 Montblanc No.149 14C-F 尻軸ユニット破損 
2008-08-14 NAMIKI Vanishing Point 14K-B インクフロー改善 
2008-08-11 1960年代 Montblanc No.149 14C-M 首軸破損 
2008-08-09 Parker Victory 酔いどれの後始末  
2008-08-06 Montblanc No.149 18C-EF ペン先曲がり   
2008-08-04 Sheaffer インペリアル 14K-F 手が伸びるペンに!      
2008-08-02 Montblanc No.149 14C-F ピストン動かず・・・    
2008-07-30 Pelikan M700 雑巾トレド 18C-M 書き味微調整    
2008-07-28 Montblanc No.144G 14C-OB→B 研ぎ出し    
2008-07-26 Parker Duofold International 18C-XXB 生贄    
2008-07-23 1950年代 Montblanc No.142 14C-M 書き味向上     
2008-07-21 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄       
2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
2008-07-17 Pelikan 500N 茶縞 14C-M インクフロー改善      
2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     
2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
Posted by pelikan_1931 at 05:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
venezia 2007 しゃん

こちらはペン先がかなりくたびれているので、国宝扱いするよりも、じっくりと楽しんであげた方が良いと思われます。

本当に絶妙な字が書けますぞ!
Posted by pelikan_1931 at 2008年09月04日 07:31
かつて調整頂いた物の中に「国宝級」と形容して頂いたものがありましたが、これまで数千本の調整をされた師匠の「背筋に電流が流れるほどの感激。」ということであれば、これは「世界遺産級」かもしれません。そのような珍品を縁あって有し、このように完全な状態に調整して頂いたという感慨は当然のことですが、それ以上にこのような遺産を有する責任の重さに身が引き締まる思いです。勿論持ち歩きなどせずに恐らくインクも入れずに暫くはただ眺めてということになりそうです。有難うございました。
Posted by venezia 2007 at 2008年09月02日 23:16