2008年10月06日

月曜日の調整報告 【 1990年代 Montblanc No.146 14K-BB 激変 】

2008-10-06 01 今回の依頼品は【生贄】扱い。ヘミングウェイと同じ形状でやや小振りなペン芯を持つNo.146でペン先は14K-BB

 No.146のBBには一時凝った事がある。手持ちのNo.146ベースの18K-M付きモデル8本をモンブラン・サービスセンターで全て18K-BB付きに換えてもらった。ずいぶん前のこと・・・たぶん10年以上前。のどか良い時代だった。

2008-10-06 02 献体をつぶさに拝見すると、やはりペン先のスリットが詰まっている。

 昨日のWAGNER例会で【Vintage萬年筆のペン先がすべからく詰まっているのは、エボナイト製ペン芯が経年変化でお辞儀し、ペン先を支える力が弱まったのではないか?】という仮説が提示された。

 その仮説は、少なくとも現行品に対しては当てはまらない。これは各社の現行品が販売時からスリットが詰まっているからじゃ。ところが・・・

2008-10-06 032008-10-06 04 この個体では、通常の詰まりかたよりもはるかに強く詰まっている。しかも左画像を見るとわかるが、ペン芯とペン先との間に隙間がある。

 すなわち、ペン芯はペン先が下にお辞儀する力を押さえてはいない! 仮説と同じ状態になっている・・・はて?

 この状態ではインクフローは潤沢だが、時々ボタっとインクが玉になって紙に落ちる事がある。また筆記途中でインクが切れることも頻発する可能性がある。

 少なくともペン先とペン芯とは密着しているべき。このヘミングウェイ・タイプのペン芯は熱湯で柔らかくなる上、ペン先とペン芯の位置を固定するストッパーが無いので、微調整がしやすい!ありがたいことじゃ・・・

 この後のモデルからペン芯にストッパーが、ペン先に切れ込みが付き、相対的な位置が固定されるようになった。組み立て時の生産性と精度は上がったはずだが、調整の妙味は味わえなくなってしまった。遊べる最後のNo.146がコレじゃ。

2008-10-06 052008-10-06 06 左が調整前、右がスリットを拡げた状態のニブ。ペン芯がプラスティック製なので、エボ焼けは発生しない。

 スリットを拡げるには、エラの部分を揉むようにしながら左右に引っ張ればよい。それだけでスリットは開くが、ペンポイントの段差も同時に出来ることが多い。その場合は、前からペンポイントを見て上下を揃えるようにすればよい。

 気をつけるべきは、ペン先単独では段差が無くなっても、ペン芯の上に載せるると酷い段差が出る場合。これはペン先とペン芯の形状が合わないケース。時間をかけてペン芯とペン先の位置を微調整したり、ペン芯側を削って合わせるしかない。

 首軸にセットした後で、力ずくでペンポイントの上下を爪で合わせる人がいる。拙者もつい最近までそうやっていた・・・。この場合、ペン先の片側にパワーが溜まりすぎて、書き味が不安定になるような気がしてきた・・・そこで現在では、ペンポイント微調整ではペン芯側も調整するようにしている。

 理想はペン先単独の場合と、ペン芯とセットで首軸に突っ込んだ際のペンポイントの状態が同一になること!かなり時間がかかるが焦らないでやることにしている。趣味の世界で焦っても仕方ない・・・

2008-10-06 072008-10-06 08 こちらが首軸にセットされた状態。この微妙なスリットの開き具合が悦楽を味合わせてくれる!

 スリットからのぞき見られるペン芯先端の位置にも注目。この位置関係が拙者は一番美しいと感じている。【生贄】なのでこのあたりは好きにさせていただいておる。現行品ではもう少しペン芯が前に出てきているので、うっとうしい感じがする。

2008-10-06 092008-10-06 10 ペンポイントは依頼者の書き癖に合わせて大胆に研磨した。太字萬年筆ばかり使っている依頼者なので、これくらいにしないとヌラヌラ感は味わえない。

 なを調整前にあったペン先とペン芯との間の隙間は消滅している。ペン芯を反らせる熱加工をしたからじゃ。熱で曲げたものは、熱で戻る。真夏に炎天下に放置すれば元通りになる可能性もあるが・・・そうなったらまたWAGNERに持ち込むか、自分で微調整すればよい。

 このBlogは・・・・本来微調整しながら使うべき萬年筆に【微調整マニュアル】が無い事・・・・を苦々しく思っていた古山画伯の(脅迫にも似た)強い勧めで始めたのじゃ。従って本来の目的は自己調整推進。そして失敗したら、新しい萬年筆を買っていただいて萬年筆販売に貢献すること!

 最近は自己調整に失敗した萬年筆をメーカーペンクリに持ち込む人が多いと聞くが、これは拙者の意図するところではない。失敗したら何故失敗したかを検証して、仮説を立て、作業し、仕上がりを確認するというPDCAを回してこそ次なるステージに進める技が身につくのじゃ。

 その分析作業をするお手伝いをするのがWAGNERのペンクリ。自分の道具は自分で修理する力を持っていないと、存分には使いこなせないものじゃ。これはモノを扱う全ての趣味の共通点。調整に供する萬年筆は、その素材でしかない。

 大切な萬年筆は、スキルを上げた後で調整すればよい。50本も調整すればコツはわかってくる。そのためには、まずは50本くらいは買わなければ自己調整する資格はないのじゃよ。自己調整を施したものをメーカーペンクリに持ち込むのは、ルール違反自己調整の尻ぬぐいは自分ですべきじゃ。これが守れない人は自己調整をすべきではない!


【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
     
   


【これまでの調整記事】

2008-10-04 1980年代 Montblanc No.149 14C-BB
   
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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(11) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
あゝ! ありがとうございます。
いつかその時が来ましたらぜひに。
Posted by 魚眼 at 2008年10月16日 22:20
魚眼しゃん

生贄はどういう形になって帰るかの保障はありませんが、それでもよければいつでも歓迎!
Posted by pelikan_1931 at 2008年10月11日 21:03
自己調整に失敗した万年筆というと、私の手元にはそんなオマスが一本あります。
切割りを緩め、腹開きにしようとしてペン先そのものの湾曲を緩めてしまったものです。
何かいい道具か方法を見つけたら再度挑もうと思っていましたが、いつかこれを生け贄に……
Posted by 魚眼 at 2008年10月11日 19:33
きくぞうしゃん

おお、なぜ料理人が毎日包丁を研ぐのかがわかりました!
Posted by pelikan_1931 at 2008年10月10日 07:47
師匠 余分な話で恐縮ですが、、、

切れない刃物で怪我をすると、細胞を押しつぶしたような怪我になり、組織の回復に時間がかかるようです。切れる刃物は刃の当たった細胞だけが切断される、そんなイメージでしょうか。

お魚の刺身を、氷で冷やすと、切れない刃物で作った刺身はベシャベシャになると言いますし、、、

と言うことで、常に切れるように研いでおく必要があると言われていました。
Posted by きくぞう at 2008年10月09日 19:29
Bromfield しゃん

WAGNERのペンクリはお互いの修業の場なので、どんどん難しそうな調整をお持ち込み下され。
Posted by pelikan_1931 at 2008年10月07日 06:51
オットー しゃん

悩みが多いほど工夫もする。手こずらせるペンほど愛着がわく・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年10月07日 06:49
きくぞうしゃん

調整も、1作業終わる毎に器具をかたづけないと、すぐに無くなってしまう。昔から言い伝えられていることには、やはり意味があるのですな。

> 研いでから片付けないと、次に使うときに怪我

には唸りました。まさに!
Posted by pelikan_1931 at 2008年10月07日 06:48
 昨日この万年筆を受け取らせていただいて以来、その書き味に「うっとり」としています。このように万年筆をよみがえらせていただき、有り難うございました。
 ひっかかり、頻繁なインク切れ等で悩まされていた万年筆で、全く出番のなくなってしまったものでした。御指摘で思い出したのですが、「時々ボタっとインクが玉になって紙に落ちる事」もありました。
 画像を拝見し、原因が良くわかりました。「真夏に炎天下に放置」することはないと思いますが、今度書き味が悪くなったら、自分で微調整が出来るよう勉強したいと思います。
 実はこの万年筆、娘の3才の誕生日に、将来の彼女へのプレゼントとして購入したものです。(購入時の言い訳の一つ)しっかりと使い込んだ後で、私がこの万年筆を調整して、彼女に渡すことができるようになっていたいと思います。
Posted by Bromfield at 2008年10月06日 22:53
原因のひとつは「ペン先とペン芯の隙間」だったのですね。
ペン先調整をやり始め、師匠のご指導で、何とか「インクフロー潤沢ぬらぬら」までは、到達できました。その結果の、インク容量が減ったときのボタ落ちの頻発。副作用というか副産物というか、悩まされていたのです。オマスとかヴィンテージペンに顕著です。更なる高みへの挑戦、やって見ます。
Posted by オットー at 2008年10月06日 19:43
確かにおっしゃるとおりです。
仕事で使う刃物は、自分できちんと手入れしてから仕舞うことを丁稚の時に叩き込まれました。きちんと研いでから片付けないと、次に使うときに怪我をして、治りが遅くなるんです。

と言うことで、ペン先の研ぎも練習を始めましたが、難しいです。また例会に参加させていただき、お手元をきちんと拝見させていただきます。
Posted by きくぞう at 2008年10月06日 19:24