2008年10月02日

解説【インキと科學】 その7−1 

 第七章はパイロット・インキ特許内容の説明じゃ。

 最初にインキを何故酸性に保つ必要があるのかを説明している。次に触媒作用について、それが如何に世の中のために役に立っているのかを実例を挙げて説明している。その後の負触媒作用がハイライトなのだが、今回は、まずは前半だけ説明しよう。

 ブルーブラックインキは、タンニン酸没食子酸、および硫酸第一鉄主成分とし、これに青い染料を加えたものである。

 この3つの主成分を水に溶かして混合すると、その液は最初は薄い緑紫色をしているが、次第に色が濃厚となり、ついには青黒色となり、それとともに容器の底には夥しい沈殿を生じる。

 これは硫酸第一鉄が非常に酸化しやすい性質を持っているため、空気中の酸素と反応して、

 硫酸第一鉄 → 硫酸第二鉄

 となり、この硫酸第二鉄タンニン類と容易に化合して、水に不溶性の

 タンニン酸第二鉄、または、没食子酸第二鉄が出来、これらが沈殿となって表れるからじゃ。

 それゆえ、最初から硫酸第一鉄の代わりに硫酸第二鉄を混合すると、その液は忽ち濃厚な青黒色を呈し同時に夥しい沈殿を生じてしまう。

 インキ中の硫酸第一鉄硫酸第二鉄に酸化させない方法が見つけられれば、インキの沈殿は大いに軽減されることになる。

 インキに硫酸塩酸を加えると、硫酸第一鉄硫酸第二鉄に変化しにくくなり、従って沈殿も無くなる。これがインキに酸を加える理由じゃ。

 いったんインキが紙上に書かれると、添加してある酸は紙質の成分と作用して中和されるので、硫酸第一鉄は酸の束縛から解き放たれて、空気中の酸素と化合して硫酸第二鉄となり、続いてタンニン酸と化合して青黒色不溶性の物質、すなわち第二鉄塩となり、これが紙質中に沈着個化して初めてインキとしての機能を完結し、防水性のと耐久性を具備することになる。

2008-10-02 01 インキに入れるの量は多いほど良いが、当時は鉄ペンも多かったため、強酸性溶液ではすぐに冒されてしまう。その観点では酸は弱い方が好都合ということになる。

 このジレンマを解消したのがパイロットの発明である。実際には負触媒作用を用いて実現したのだが、急に負触媒といっても当時の人は誰もわからなかったかもしれない。

 そこでまずは、触媒作用について説明している。

 左のようにフラスコの中に酸素と水素を入れただけでは何の反応もしないが、海綿状の白金を入れると、酸素と水素が反応して水が出来る。

 しかし白金自体は色も変わらなければ、質量も変わらない。要するに何の変化も起こさない。

 こういうものが触媒である。と説明している。そしてこの触媒機能を利用した大発明が、天然藍に近い合成藍製造における水銀と、空中窒素固定法における諸金属の触媒作用であると結んで前半を終わる。

 この説明の後、いよいよ負触媒の説明に入る。それこそがこの章の目玉じゃ!それは次回に!



【過去の記事一覧】
 

解説【インキと科學】 その6−2 
解説【インキと科學】 その6−1  
解説【インキと科學】 その5  
解説【インキと科學】 その4   
解説【インキと科學】 その3−2 
解説【インキと科學】 その3−1  
解説【インキと科學】 その2−3    
解説【インキと科學】 その2−2  
解説【インキと科學】 その2−1  
解説【インキと科學】 その1     






Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 文献研究 
この記事へのコメント
まるで推理小説の謎解きのような面白さ。
次回が待ち遠しくてしようがありません。

そして、今の気持ちをちびまる子風に言えば
「いけずぅ〜」になります。
Posted by む. at 2008年10月02日 20:55