2008年11月20日

解説【インキと科學】 その11

 本日はインクの防腐剤の話。最近のインクは腐りやすいのかな?ヌードラーズのグリーンのインク瓶を空けたら鼻が曲がりそうなアンモニア臭がして、あわてて捨てた事がある。ところがVintageのインクからそのような臭気が漂う事はない。

 ひょっとするとVintageインクには防腐剤がいっぱい入っているのかな?と常々考えていた。どうやらそれは本当だったらしい。

 当時のインキの主成分であるタンニン類はもちろんのこと、補助剤として配合されていた各種の有機物は、ともするとカビを生じたり液が腐敗したりしがちだった!

 そこでインキの防腐剤として使われていたのが石炭酸。すこぶる安価で、いかなるインキにも使用することが出来るので重宝していたらしい。

 相当腐敗しやすい液でも、石炭酸を10,000分の1でも加えておくと、完全に防腐の目的が果たせるほど威力があった。純粋な石炭酸は無色の結晶で、強い刺激臭があり、水によく溶ける性質を持っていた。

 しかし徐々に発散して空気中に逃げる性質があるのでそれを見込んで必要量より多量に加えていたらしい。

 拙者のVintageインクも強烈な刺激臭がある。めったに蓋を開けないので、石炭酸がほとんど発散していないのだろう。この匂いは官能的・・・・

 石炭酸の必要量としてはインキ1,000ガロンあたり1ポンドとされているが、安全を期す見地から実際には4〜8ポンド加えられていたらしい。

 これは五倍子煎汁をそのままインキに仕込む際の必要量であって、精製タンニン酸を使用する新式製造法の場合には2〜4ポンドで十分であった。

 拙者は匂いの強いインキが大好き。墨香やVintageのWatrmanは嗅ぐだけで良い気持ちになる。本当は既に廃盤になったリソー・カーボンインクの墨の香が一番好きなのだが、これを萬年筆に入れると、どんなに洗浄しても墨の匂いが消えない。しかも徐々に腐った墨のような匂いになる。

 一時一番の愛用品だったが、プラチナ・カーボンインクが出て、リソー・カーボンイクの呪縛が解かれた。プラチナ・カーボンの方がはるかにインク特性が良い。一番は原稿用紙のマス目の上にもインクが乗ること。リソー・カーボン極黒も乗らない。これにこだわるのは一時グラフ用紙を常用していたから。罫の細かいグラフ用紙でマス目飛びされては見映えが極めて悪かった・・・

 拙者はにじみ裏抜けには無頓着で、一番気にするのが書き味への影響と、マス目飛び。この観点では、やはり現在のところ、プラチナ・カーボンインクを超える物はない・・・ような気がする。最近はインクで冒険しないので、新しいインクでこれを超える物があるかも知れないが、趣味文 Vol.11の段階では敵はいなさそうじゃ。


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解説【インキと科學】 その10−2    
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解説【インキと科學】 その1     



Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 文献研究 
この記事へのコメント
しまみゅーらしゃん

インクは匂いでも楽しめるものですな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年11月22日 15:05
きくぞうしゃん

それでは、昔のご婦人は口が臭かっただけですな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年11月22日 15:04
 現行のパイロットインキもかなり臭い(小学校の印刷室の懐かしい臭い…)ですが、あれも防腐剤の臭いなのでしょうか。この前、ブラックインクの切れた万年筆があって、それに入れたのがパイロットのインキなのか、プラチナのインキなのか失念してしまったのですが、ペン先の臭いをかいだら一発でパイロットだと分かりました(笑)。
Posted by しまみゅーら at 2008年11月21日 14:15
五倍子(ぶし・ふし)を使っていたのですねぇ。
これ、お歯黒と同じですね。米のとぎ汁などを腐敗させて作った酢酸液に古釘を入れ、酸化鉄溶液を作り、これを歯に塗ったらしいですから、かなり臭かったと思います。
ひょっとして石炭酸の臭気だけではないかも知れませんねぇ。
Posted by きくぞう at 2008年11月20日 17:05