万年筆評価の部屋:水曜日の調整報告　【 Montblanc No.234 1/2・G 健康診断】

　今回の依頼品はMontblanc No.234 1/2・G。依頼内容は【健康診断】。

　この萬年筆は過去に２本ほど壊して、それ以降触った事がない。ずっと以前の話だが、拙者はVintage Montblanc なら何でもパクパクと食いついていた時期があった。

　購入する理由は分解して機構を調べたい！というのが一番だったが、このMontblanc No.234 1/2・Gに関してはことごとく失敗した。まだこの時代に独逸製萬年筆の構造に熟知していないころじゃった。

　Vintage Montblanc の呪縛が解けて以来、触ったことはなかったので、10年以上ぶりの接触。懐かしい！

　スネーククリップでキャップリングが一本ということは、1952年～1954年ごろに製造されていた。1952年生まれの拙者の人生と同じくらいの期間働いている・・・。このスネーククリップはCollectible Stars によれば【prewar clip】とのこと。戦前の高級ラインにつけられていたクリップを流用した物らしい。お買い得！

　ペン先は丁寧に作ってある。刻印は若干稚拙な感じがするが、それがまたVintageらしさを醸し出してくれている。

　感心するのがペンポイントの綺麗な削り！おそらくはプロの技と思われる。ニブ全体が醸し出す雰囲気にマッチした削りというのは、単に書き味だけで満足する調整師が多い独逸では珍しい。ただ少し左右の段差が見て取れる。おそらくは調整戻りであろう。

　段差は横顔を見るとわかりやすい。右側の画像で、ペン先の奥側が多少上にせり上がっている。わかるかな？

　この萬年筆のニブの柔らかさからして、経年変化で片側が上がるなんて事はない。最初はもっと大きな段差になっていたのを、調整で合わせたのが、調整戻りしたものと思われる。

　胴体のコルクは新品と交換されている。これはラッキー！いままで壊した２本は、吸入機構の分解途中で頭に来てたたき割ったのを思いだした。拙者と同じ年くらいの老人は、なかなか頑固ですなおには言うことを聞かない。

　拙者はピストン交換時にお湯を使って首軸を外していたが、独逸では業務用のドライアーで温めるとか。微妙な温度加減は必要だが、お湯と比べて変色のリスクは少ないらしい。

　こちらは首軸から抜いたペン先を綺麗に清掃して、スリット幅を広くした状態。ペン先の根元に【234 1/2】との刻印がある。こりゃビックリ！

　相当に大きな市場が見えなけれが意味のないこだわり。逆に言えば、前途洋々の大きな市場が控えていたということじゃろう。

　経済白書が【もはや戦後ではない】と表現したのが1956年。1952年-1954年という時代はMontblancにとっては一番製品ラインナップが混沌としていた時代であった。

　こちらが首軸に装着した状態。このまま書くと、Pelikanのようなペン鳴りがする。ピーピー！実に良い感じ。

　ペンポイント表面を滑らかにするとペン鳴りはほとんど影を潜めてしまうが、この萬年筆は多少ペンポイントがざらざら気味の時の方が書き味がよい。すなわちペン鳴りを（少しだけ）残しておいた方が書き味が良い。けっこう楽しめますぞ。

　それにしても綺麗なペンポイント。美しい形状じゃ！萬年筆としてはMontblancの歴史の中では三流の扱いをうけてはいるが、ことペン先の実力に関しては超一流といえる。

　ペン先の段差は無くしたが、スイートスポットは敢えて付けなかった。この時代のペン先を楽しむにはオリジナルの研磨状態の方が楽しかろう。

　ペン先調整の方向としては【書き手の癖に合わせる】ものと、【その萬年筆が流通していた当時の書き味を尊重する】ものがある。今回は後者をとった。当時の書き味に近づけるよう、研ぐ際に耐水ペーパーの種類を変えながら調整。実は紙に当たる角度によって種類を使い分けている。使いこなせば変幻自在の楽しみ方が出来るはずじゃ。

【今回執筆時間：3時間】 画像準備1h　修理調整1h　記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

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万年筆評価の部屋

2009年01月21日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.234 1/2・G 健康診断 】

水曜日の調整報告　【 Montblanc No.234 1/2・G 健康診断】