今回の依頼品は 1950年代のMontblanc No.146Gじゃ。今までに何度も取り上げてきたものと同じモデル。
このBlogでの生贄は偏っていて、クーゲル・ニブ付きが多かったが、今回は通常ニブ付き。軸の程度は極めて良い。要請内容は・・・良さげに！ということで、めでたく生贄となった。生贄ということになれば、俄然やる気が出てくる。
まずは現状の把握。キャップ内の長さとペン芯から出ているペン先の部分を計測し、ペン先が天冠の内側に接触していないかチェック。Vintage Montblancではこのチェックが重要。結果・・・衝突していた！ということで、もう少しペン先を首軸に押し込む必要性を感じた。
また拡大画像で見られるように、ペン先のスリットが寄り過ぎている。ホンの少しだけスリットを開いた方が良い。
横顔を見ると、ペン芯下の凹み全体が見えている。ここは半分程度が見えるくらいが、このキャップであればちょうど良い。
よく見ると、ペン先の左右に段差がある。ペンポイントの部分では辻褄があっているが、ハート穴からペンポイントに行くカーブが左右で合っていない。筆記にはまったく問題はないが、見映えもあるので、曲率は合わせておこう。なんせ生贄じゃから。
ペン先ユニットを首軸から、専用工具を使って外し、分解清掃して、スリットを開き、位置関係を見直して首軸に押し込んだのが左の画像。
この微妙に開いたスリットは・・・神業かも？スリット幅を調整するのは多少の訓練をすれば出来るが、スキャナーの上に、真っ直ぐに置くのが難しいのじゃ！そちらを神業と呼んだ・・・
こちらが調整後の横顔。左側画像で、首軸とペン芯との位置関係がわかり、右側画像でペンポイントの研磨状況がわかる。今回は依頼者の筆記角度に合わせてかなり削り込んだ。調整前だと、どの筆記角度で書いても、書き味が超下品になってしまっていた。
そこで細字スタブの形状になるように削って書き味を出した。とりあえず心地良く書けるようになった。左右のペン先段差も目立たない程度に・・・
実はペン先とペン芯とが離れていたので、お湯でペン芯を多少反らせて密着させた。
また将来、ペン先をもっと出す調整をされても耐えられるように、キャップ内部の天冠・・・ペンポイントと向かい合っている部分・・・を少しだけ研磨して、衝突の確率を減らすようにしておいた。
調整とは、目先のトラブルだけではなく、将来発生するトラブルへの備えも含めてやるものじゃ。これだけはトラブルを経験しないとノウハウが付かない。調整師を志す人は、出来るだけ多くの失敗を経験することが大事じゃよ。
【最も大きな失敗は、失敗を経験しなかったことである】
今回執筆時間：3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
