今回の依頼品はパトリシアン。往年の銘品を復活させた物じゃ。この萬年筆が発売された時には、その美しさに驚嘆したが、その美しさゆえ、購入するのがためらわれた。当時は、発売されたばかりの（限定品でない）新製品に、易々と食いつくのはコレクター魂に反すると考えていたのでな・・・結局は廃盤になってから入手し、楽しませてもらってから、ペン先を変えてお嫁に行った。最後につけていたペン先はST（スタブ）だったような気がする。
今回の依頼内容は、ペン先が上に反り上がっているので直して欲しいというもの。通常状態からペン先が筆圧で反り上がれば、ペン先のスリットが不自然に開いてしまうのだが、まさに！背開き状態で上に反っている。これではゴリゴリして書けたものではないし、インクも切れ気味。それにしても相当に筆圧が強いのじゃな・・・と思ってペン先をよく見たら・・・
どうやら筆圧ではなく、どこかにぶつけて曲がったのを直そうとしているうちに反らせてしまったというのが真実らしい。ペン芯とペン先との間の隙間はそれほどでもないが、極端に美しさが損なわれているし、書き味も酷いので曲面を直して、微調整（研磨）しておこう。
こちらがペン芯から外したペン先。これを抜いた段階では、紫色のインクがペン芯にこびりついていた。相当長期間洗浄をしなかったものと思われる。これは三代目のペン先だが、根元の刻印は二代目と同じように、ホールマークとウォーターマン刻印が、首軸に隠れる部分に印されている。
当初は指先でなんとかなるかな・・・と思ったが、ペン先の剛性が増しており、綺麗に曲がらない。初代、二代目と金の配合を微妙に変えたか、熱処理を変えたか・・・かなり指当たりが違うように感じられた。
そこで登場するのが、おなじみのツボ押し棒。これは100円のものだが、出来ればスネークウッドで作ってみたい。素材が柔らかいとかなり使いづらいのじゃ。固い木ほど使いやすいはず！と期待している。ツボ押し棒を各種の素材で作って比較検討してみたい・・・そのツボ押し棒をエイジングして艶々に・・・なんて別の喜びを感じてしまいそうではある。木軸ではなく木棒に凝る！萬年筆道楽もあるところまでいくと、周辺Goodsで楽しむようになると言う【先達コレクター】の気持ちが少しづつ理解出来るようになってきた。
こちらが調整後のペン先の拡大図。スリットは微妙に開いた状態にしてあるので、インクフローは絶妙だが、インクが切れることはない。利用者は低筆圧で、たまに右捻りが入る程度。なを首軸先端部はキャップの開け閉めの際、常にキャップ内部のプラスティックと擦れるため、だんだんとキャップの締まり具合が悪くなる。これはキャップの内部部品の交換ですぐに直るので、筆記具店へ修理依頼すると良い。
こちらが横顔。意味もなく上に反っていたペン先は真っ直ぐになり、ペンポイントには少しだけスイートスポットを削り込んだ。最後に秘密の紙の上で８の字旋回を各方向に向けて合計400回。これで絶妙な筆記感が得られるようになった。
ベースとなるル・マン100は拙者が自分用に購入した一本目の萬年筆。このバランスが拙者の萬年筆生活の原点。そのせいか、実に長くて書きやすい。拙者が筆記時のキャップのグラツキが気になるのも、ル・マン100が完璧だったからこそなのかもしれない・・・とふと感じた。
このオレンジ軸と緑軸は所有したことがある。青軸は展示ケースの中で見ただけで触った事は無い。多少欲しくなってきた。出来ればLニブ付きで・・・
今回執筆時間：3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
